第十一話 お兄ちゃんとメガネの女の子の戦い
メガネの女の子を納得させるため、お兄ちゃんとメガネの女の子があのゲームで対戦することになった。
ゲームをちゃんとやったことが無いメガネの女の子ではあったが、お兄ちゃんと戦って勝つという事が目的ではなく、お兄ちゃんが本当にすべての攻撃に対してカウンターを決めることが出来るのかという事を確認することが目的なのだ。
「言っておくけど私はゲームなんてほとんどやったことないから。操作方法だって全然わかってないし、動きもメチャクチャだと思うけどいいんだよね?」
「いいんだよね? とは?」
「ほら、さっきみたいに何をやってもカウンターで返すやつやってくれるってことでしょ?」
「多分大丈夫だと思うけど、どうなるかはわからないよ」
「それでもいいから。私の攻撃をまー君は全部カウンターで返せるのかな?」
お兄ちゃんとメガネの女の子の戦いが始まったのだけど、操作方法を理解していない女の子はお兄ちゃんから距離をとって何もせずにずっとジャンプを繰り返していた。
一切攻撃をしない相手に対してカウンターを決めるというのは不可能なことで、何も出来ないまま時間だけが過ぎてタイムアップになってしまった。
「ちょっと待って、何もしてないのに終わっちゃったんだけど。いったいどういう事?」
「どういう事って、制限時間があるから何もしなかったらタイムアップになったってだけの話だと思うんだけど」
「そんなの聞いてないんだけど。じゃあ、時間内に攻撃して勝たないとダメってこと?」
「そう言うゲームだからね。その辺は大丈夫そう?」
「大丈夫。次は私からも攻撃するから。必殺技とか教えてもらってもいいかな?」
大男たちがメガネの女の子の周りに集まって講習会を開いている。
ゲームの簡単な説明と同時に操作方法をレクチャーし、その流れで必殺技の出し方もいくつか教えていた。メガネの女の子はゲームに対してそこまで情熱が無いためあまりうまくはなれなかったが、キャラクターをちゃんと動かすことが出来るようにはなっていたので戦いにはなるように思えた。
そこまでゲームに詳しくないゆまもメガネの女の子と一緒にゲームを習っている感覚になって操作方法を学んでいたのだが、肝心のゲームを持っていなかったために机の上でエア操作をするだけで終わっていた。
今日お兄ちゃんが帰ってきたらゲームを一緒にやってみたいとでも言ってみようかなと思ったゆまであった。
「これで少しは形になったと思うんで二人の対戦は成立すると思いますよ。ただ、操作が出来るってだけなんであまり期待しない方が良いと思います」
「大丈夫。私の攻撃を全部カウンターで返すなんて不可能なんだから。自分でも何をするかわかってないんだからまー君の先読み能力は無効よ」
「???」
メガネの女の子の発言は全員の頭に疑問符を浮かべていた。
モニターで見ていたゆまも何を言っているのかわからないと本気で思っていたし、お兄ちゃんに先を読む能力なんてあったのかと驚いていた。
「いや、俺には先を読む力なんて無いけど」
「そんなわけないでしょ。普通に考えてみてよ。全ての攻撃を完璧なカウンターで返すなんて、先を読んでるから出来ているに決まってるでしょ。それ以外に考えられないじゃない。あ、もしかして、まー君って人の心を読めるタイプだったりするのかな?」
「人の心なんて読めないけど。人の心が読めるんだったらクラスの中で浮いてたりなんてしないと思うけど」
「それもそうだよね。なんか、ごめん。でもさ、何か特別な力とかあったりするんでしょ。ほら、実は異世界で魔王を倒してきたとか、何かとんでもない発見をして向こうの世界で歴史に名を刻んできたとか。何かあるよね?」
「ごめん。ちょっと言っている意味がわからないよ。愛華ちゃんって、そう言うの好きだったりするの?」
「好きとか嫌いとかじゃなくて、まあ、違うんだったらいいよ。でもな、まー君は絶対そうだと思ってたんだけどな。違ったんならまあいいか。じゃあ、普通に戦おうか」
ぎこちない動きが逆に玄人感を出している気もするのだが、適当に繰り出された攻撃に対してお兄ちゃんは全てカウンターで返していた。どんなに奇抜な動きをしてもカウンターで返すお兄ちゃんはメガネの女の子が言っていた通りで、先を読むことが出来ると言っても過言ではない動きをしていた。どんな攻撃も完璧なタイミングで返してしまうお兄ちゃんはゲームの大会にでも出ればいいのにと思うほど強かったけれど、お兄ちゃんにはそこまでの情熱はなさそうだった。
最終的には、メガネの女の子がたまたま出した必殺技に対して超必殺技をぶつけるという誰にでも出来そうな事をしていた。
「うん、まー君がゲーム上手だって言うことはわかったよ。負けはしたけど、結構楽しかったよ。でもね」
椅子から立ち上がったメガネの女の子はお兄ちゃんに対して左手で持っていたカバンで殴り掛かったのだが、お兄ちゃんは座ったまま上体を少し後ろに反らして避けていた。
カバン攻撃を避けられることを想定していたとしか思えない流れで右フックをお兄ちゃんの顔面目掛けて打ち込もうとしていたのだけど、お兄ちゃんは何の迷いも無くメガネの女の子の右手を自分の左手で受け止めていた。
大男たちはみんな驚いて騒ぎだしてしまったが、お兄ちゃんもメガネの女の子もいたって冷静そのものであった。
「やっぱり、まー君は普通じゃないよ」
「いや、俺は全然普通だよ」
「ま、いっか。じゃあ、そろそろ行こうか」
何事も無かったかのように店を出ていくお兄ちゃんとメガネの女の子。
二人に対して何か言ってやりたいと思ったのはゆまだけではないのだろうが、誰一人として二人に声をかけることは出来なかった。




