犯人はあなただ!岩倉さん!その2
「これで青柳さんが猛毒パナケイアを飲んでいないことがお分かりいただけたでしょうか?」
岩倉の表情は驚きの間に少し安堵の表情が垣間見えていた。だがすぐに彼は何か別のことを考えながら、空になったグラスを眺めた。
「だとしたら、なぜ青柳さんは気づかなかったのでしょうか?」
私は彼の疑問に答えた。
「恐らく、気がついていたと思いますよ。ですが、あの時はイベントの真っ只中でしたからねぇ・・・」
あの状況で違うものが入っていたなんて言う必要もなかっただろう。果たしてパナケイアをすり替えた人物はここまで読んでいたのかは定かではないが、一体なんのために・・・。
私はさらにこう付け加えた。
「それくらい強い思いを持っていたのでしょう」
そしてそれが今回の事件の鍵になるであろうと私は考えている。
「誰が?なんのために?」
「それよりもパナケイアが無害だったのなら、なぜ青柳さんはあのタイミングで倒れてしまったのでしょうか?」
高瀬の言葉を岩倉が遮って私に疑問を投げかけてきた。
「やはり、日頃の疲労が祟ったんじゃないでしょうか?」
来栖が静かに呟いた。
「それは今、青柳さんの血液検査をお行なっているので、時期にわかることでしょう」
私の本意はこの血液検査の結果を待ってから、四人を呼び出して真実の話をしたかった。しかし探偵はどうやらそれを待てないと急かしてきたのだった。それこそこの結果次第では、私の描いている真相が変わってしまうかもしれない。
そして私がこのように考えているのだから、この中にいる犯人も同じところをついてくるに違いない。
「問題は、誰が青柳さんを襲ったのか?」
私はすかさず話題をそこへ変え、話を続けることにした。
「岩倉さん」
「はい・・・」
恐らく、今彼は自分が明らかに疑われていると思っているに違いない。
「あなたの最終学歴をもう一度教えていただいてもよろしいですか?」
「北海道大学大学院卒です」
彼は戸惑いながら答えた。私はそれを聞くとすぐに来栖の方を見た。
「来栖さん、あなたの最終学歴も伺ってもよろしいですか?」
突然の振りに来栖は少し飛び上がりながら、こちらを見た。
「えっと、・・・私も岩倉さんと同じく、北海道大学大学院卒です」
これは探偵からの捜査資料に書かれていることだ。
「それが何か?」
岩倉は嫌味など一切なく、ただ純粋な疑問としてこちらにぶつけてきた。
「確か、お二人とも同じ学部でいらっしゃったかと思うのですが、だとしたらてっきり来栖さんも岩倉さんと同じ研究開発部門へ配属されるものなのだと思いましてね・・・」
私の言葉を聞いて来栖は俯いてしまった。すると彼女の代わりを務めるかのように、岩倉が話を進めた。
「確かに彼女は最初、研究開発部門にいました。ですが・・・色々あって彼女は今は広報部で活躍してくれています」
岩倉はそう言いながら、来栖の様子を伺った。彼らにとってその色々とはあまり他言しづらい出来事のようだ。
「あなたも我々の経歴をお読みになっているんですから、それはご存知のはずでは?」
岩倉は半ば叱責するかのように私に詰め寄ってきた。
「それはおっしゃる通りなんですが、その事実を再確認したくて・・・。となると、私、どうしても気になることがあるんです」
「気になること?」
岩倉の動きが止まった。私が次に何を言い出すのか警戒しているようだ。私はその警戒を容赦なく脅かす。
「クルゲン酸ですよ」
「それが何か?」
岩倉はシラを切っているのだろうか?それとも本当に私が言いたいことが理解できていないのだろうか?どちらにしてもそのことについては、彼らは話してくれる様子はなかった。
「新しい物質を開発、発見した場合その命名権は基本的に発見した者に帰属する。そして大抵は命名するときに、自分の名前の一部を入れ後世に残すことが多いそうです」
私はそう話しながら、ある人物へ近付いていた。
「それはこのクルゲン酸も例外ではない。そうじゃないですか?来栖さん」
来栖は驚いた表情で私を見つめている。
「クルゲン酸というこの名前は来栖さん、あなたが名付けた名前。違いますか?」
来栖は何も言わなかった。そしてさっきまで威勢よく会話を回していた岩倉まで黙り込んでしまった。どちらにしてもこの状況だとこの事実を知らなかったのは私だけのようだ。
「つまりこのパナケイア開発の第一人者は何を隠そう来栖さん、あなただった違いますか?」
来栖は静かに音を発することなく、ゆっくりと頷いた。すると、ようやく、岩倉が話を始めた。
「確かに、このパナケイアを作った第一人者は彼女ですよ。ですが三年前にこのパナケイアは糖の一件で問題になり、プロジェクト自体の存続が危ぶまれました。それをどうにか阻止することができたものの、会社から大量の条件が突きつけられました。その中に、彼女の解任があったんです」
「え・・・?」
来栖がようやく反応を示した。恐らく彼女の知らなかった事実だったのであろう。
「でも、このプロジェクトは彼女のものだ。それで私は上司を説得して、一番この商品に強い想いを持っている彼女を広報部に置くことで、事態は収束したというわけです」
岩倉もこんな話を来栖に対して、するつもりはなかったのかもしれない。彼の額にはとてつもない量の汗が肉眼でも確認することができた。
「なるほど、そんな裏話があったのですね?」
あらかた私の推理通りではあった。ここから私はどのように話を持っていくべきなのだろうか?慎重に行いたいところではあるが、探偵からのアドバイス通りに行くとしよう。
「ですが、そのすべてがあなたによって仕組まれていたことだとしたら?」
私の一言に岩倉は目玉が落ちそうになる程、目を見開いていた。
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第1話→https://ncode.syosetu.com/n1110mi/1




