第5話 真相②
まだ生まれていないレインの子供を、まだ生まれていないアーナス夫人の子供の従者にする——この騎士団長の考えに、領主邸では性急すぎると批判が出た。
この性急な動きによって妊娠中のアーナス夫人の耳に入り、ディオス男爵の浮気が露見した。アーナス夫人は激怒し、王都にいる母親の第三王妃リリアーナの元へ里帰りし、そこで出産した。領民はアーナス夫人が王都から戻らないことを不審に思い、ディオス男爵とレインの関係を嗅ぎつけて、噂が一気に広がった。
当初は「貴族の浮気は普通のこと、側室や愛人がいる貴族も多い。アーナス夫人は嫉妬深い、子供だ」など、アーナス夫人への批判が多かった。一方で、アーナス夫人を気の毒に思う声もあった。ディオス男爵は元平民、そこに王女のアーナス夫人が嫁ぎ、すぐに身ごもった。なぜもっと気遣ってあげられなかったのか。国王の命令とはいえ、倍以上年上の男に嫁いだアーナス夫人があまりにも可哀想だという意見だった。
ディオス領内ではディオス男爵派とアーナス夫人派に分かれて大論争になった。男性、特に騎士団や冒険者の間ではディオス男爵を擁護する意見が強かった。しかしアーナス夫人の不在が長引くにつれ、「アーナス夫人が可哀想、男爵はうまくやれなかったのか」という同情的な意見が大勢を占めるようになった。領民の間には、元王女が自領の夫人であることに誇りを感じる者が多かった。下級貴族の出では代わりが利かないという価値観からくるものだった。
しかし王都にいるアーナス夫人は、ディオス領に戻るつもりがなかった。王女でありながら、年の離れた田舎の下級貴族に嫁ぎ、すぐに浮気をされた。あまりにも惨めで、受け入れることができなかった。母親のリリアーナ妃もそんな娘を不憫に思い、かける言葉が見つからなかった。
王都滞在が二年を過ぎた頃、アーナス夫人を訪ねて第一王子ライザスがやってきた。ディオス男爵は王の剣として十分な実力を持ち、ディオス領の開拓も予想以上に順調で、元平民とはいえ領主としての資質に申し分ないという評価だった。そのため、ディオス領に戻って男爵を支えてほしいとアーナス夫人を説得しに来たのだ。アーナス夫人は戻る気がないと断ったが、熱心に通う第一王子ライザスに、兄の第三王子ルーシェも説得に加わり、根負けした。三年ぶりにディオス領へ娘のティアーナと共に戻った。しかしディオス男爵とは寝室が別々になり、アーナス夫人が男爵と閨を共にすることは二度となかった。
レインはアーナス夫人がティアーナを産んで約二ヶ月後に、娘のマインを生んだ。しばらくして領地拡大の功績が認められAクラス冒険者に昇格し、ディオス領の冒険者ギルドのギルドマスターに任命された。しかし、ディオス男爵と会うことは禁じられた。領主との折衝役にサブギルドマスターがついたが、それはレインの監視役でもあった。
娘のマインは六歳までレインの元で育てられ、その後騎士団長の家で従者としての教育を受けた。騎士団長に鍛えられたマインは予定通りアーナス夫人の娘ティアーナの従者となり、常に行動を共にした。
一通りの顛末を聞いたタカシは後悔していた。先に詳しい情報を知っておきたかった思いもあり、セルマから細かく話を聞いた。だが、知っていたとしても何もできなかったと考えた。妊娠中のアーナス夫人に不倫をしたディオス男爵を条件反射で酷い奴だと思ったが、アーナスとレイン、その他大勢と関係を持っている自分に批判できる道理はない。さっきまで知らなかった、しかし今は知っている。だが、何もできない。アーナスとレインの二人と深く関わっていながら、うまく立ち回れそうにない。ただ疲れたという感想だけが残った。
その夜、胸の大きな綺麗な村娘がタカシの同衾当番だった。タカシは精神的な疲労から、心のない錆びた人形のように役目を果たした。




