第31話 キャロとカリンの二人の想い
翌朝、朝食が終わると、タカシはキャロとカリンに獣人奴隷の件について切り出した。
「あれから色々調べて、実現可能か考えたんだ。それで、俺が考えた最大限の譲歩なんだが……」
タカシは二人の顔をまっすぐ見て続けた。
「獣人奴隷の購入は六人は無理だ、四人だ。躾はキャロとカリンに責任を持ってやってもらう。お前たちと同様に奉仕も必ずしてもらう。交渉の余地はない。さらに、奴隷を選ぶのは俺だ。知り合いだから買ってほしいはダメだ。お前たちが奴隷紋を入れた後に俺一人で奴隷商に行って、俺の好みで獣人奴隷を四人選ぶ。それでいいなら、四人買ってもいい」
タカシは二人に、再び厳しい現実を突きつけた。
「前回も言ったが、獣人奴隷は王都に数百人いるんだ。たった四人に意味はない。忘れるべきだと思うぞ」
二人は黙ってタカシの話を聞いていたが、その表情は明らかに喜んでいた。タカシは奴隷紋の恐ろしさも伝えたが、二人は全く興味がないようだった。困惑してシャロンやセルマに助けを求めるように視線を送るが、二人は目を合わせなかった。
もう一度奴隷紋の恐ろしさを説明しようとしたが、意味がないだろうと諦めた。
「で、それでも奴隷紋を入れたいか?」
タカシが尋ねると、キャロとカリンは迷うことなく「はい」と答えた。
タカシは迷宮で狩りをした後、四人で奴隷商へ向かった。狩りをしながら、二人が心変わりするのではないかという淡い期待から、いつもより長く迷宮に入っていた。しかしそれは叶わなかった。迷宮を出た頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。
奴隷商に着くなり、サイロンのいる地下へ向かう。タカシたちを見たサイロンは、何となく察しているようだった。軽く挨拶を交わし、タカシは用件を切り出した。
「獣人までたらしこむとは、兄ちゃんすっげーな」
サイロンはそう言って嬉しそうに笑った。
「昨日、獣人奴隷への奴隷紋の話を聞きに来たから、もしかしてとは思ったんだ。ちょい待ってくれよ、すぐ呼んでくるから」
サイロンは魔術師を呼びに出ていき、二十分ほどで戻ってきた。魔術師は前回と同じ人物のようだ。奴隷紋の説明と確認が行われる。
「お願いします」
キャロとカリンが元気な声で答えた。その時、セルマからも同じ返事が聞こえた。
「お願いします」
冗談だと思ったタカシとサイロンは顔を見合わせ、タカシは「おいセルマ、冗談が過ぎるぞ」と言ったが、セルマはすでに魔術師と一緒に奥へ行ってしまった。
サイロンから「兄ちゃん、セルマもそうだったのか?」と聞かれたが、タカシは「いや、そんな予定はなかった」と首を横に振るしかなかった。
奥では、胸元まで服をずらした奴隷たちが並んでいる。セルマは鎧を脱ぐのに手間取っているようだが、カリンが手伝っていた。キャロ、カリン、そしてセルマの順に奴隷紋が刻まれた。タカシはセルマの取った行動が理解できず、呆然としていた。
三人はタカシに「これからもよろしくお願いします」と照れながら言った。タカシがセルマに問い詰めようと歩み寄った時、一階から喧騒が聞こえ、その音は地下室へと近づいてきた。新たに獣人奴隷たちが到着したようだ。
奴隷たちを誘導する案内役が大きな声で叫んでいる。その叫び声を避けるように頭を下げる奴隷たちの姿があった。サイロンは面倒くさそうな顔をしながら牢屋の鍵を開け、中の奴隷たちに詰めるよう指示を出す。
タカシは忙しそうなサイロンを見て、「帰る、またな!」と言って階段に向かおうとした。その時、叫び声が聞こえた。
「カリン!」
二人の獣人がカリンにしがみついた。タカシはとっさに戦闘態勢に入ったが、それが自分の想定とは違うことにすぐ気づいた。どう見ても、その獣人はカリンの母親と妹だった。カリンと母親と妹は抱き合いながら再会を喜び、涙を流していた。
この親子を引き離すことはできそうにない。タカシはサイロンに「この親子の獣人奴隷を買いたい!」と大声で叫んだ。奥にいたサイロンは「わかった、ちょっと待ってろ!」と返事をした。
カリンはタカシが母親と妹を買ってくれると知り、母と妹を振りほどいてタカシに抱きつき、何度も礼を言った。足に力が入らないのか、タカシの足元にしがみついている。カリンの顔は涙と鼻水で大変なことになっていた。
キャロはカリンの母と妹に会えたことを心から喜び、二人と抱き合った。
タカシはキャロに「お前も二人選んでいいぞ」と声をかけた。キャロの親族もいるのかと思ったが、「私は孤児なので親族はいないです」と、いきなりとんでもないことを打ち明けた。
キャロは奥の牢屋へ行き、奴隷を吟味していた。そして静かに足を止めた。タカシが「決まったか?」と聞きに行くと、キャロは静かに一人の奴隷を指差した。
驚いたことに、それは猫族の奴隷だった。同族の犬族を選ぶと思っていたので、予想外だった。その猫族の女奴隷は年齢が読み取りにくい顔つきだったが、妖艶な美人で、タカシは内心喜んでいた。
キャロが指差した奴隷を引っ張り出すと、その横に立っていた、まるでモデルのような長身でスタイルのいい、こちらも猫族の女を指差した。
「わかった」
タカシはその奴隷も引っ張り出した。キャロとカリンが選んだ獣人族は四人とも美人で申し分なかったが、カリンの母親と妹という関係性が一波乱ありそうで、タカシは少し面倒くさく感じた。




