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[BL]スレイブゾーン/涯底のリュベクは混沌に愛を秘す  作者: 地底乃人M


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40/50

第40話

 

 ラーギルの身の上を知ったユグムは、声をかけることができず、困惑の表情を浮かべた。「辛気臭(しんきくさ)い話だろ。だから、烙印の数なんてどうでもいいって云ったんだ」と、ラーギルが自嘲ぎみに笑う。「やせ我慢だな」と、めずらしくリュベクが同情すると、ラーギルは「ハッ!」と短く笑い、「お(きよ)め性交なら、あんたと済ませただろ」と、ユグムの従者と肉体関係をもった事実を口走った。 


「ギル? 今、なんて……」


「聞こえなかったのか。おれはリュベクと、この(へや)で寝たんだよ」


「……ど、どういうこと?」


「性奴隷を買収するには、第一の目的と続柄が重要視される。おれの立場をリュベクの情人(イロ)にしておけば、取り引きが楽になる」


「リュベクとギルが情人……」


「勘ちがいするなよ。あくまで、おもて向きの話だ。リュベクと寝たのは、肛門性交の既成事実が必要だったからだ。書類を提出したあと、リュベクはシャダ王の詰問(きつもん)に全正解して、おれの情人であることを証明しなきゃならねぇ。……たとえば、珍宝の裏側にホクロはいくつあったか、とかな。要するに、おれの身体的特徴を把握しておかないかぎり、突破できない審査がある」


「……そ、そうだとしても、いつのまにそんなこと……」


 ユグムは、非難するようなまなざしでリュベクを見つめた。「ぼくに内緒で、勝手に進めるなんて……」と、声がふるえてしまう。たとえ事前に相談されても悩んでしまう案件だが、リュベクとラーギルが肉体関係をもったことに動揺が隠せない。ベッドから飛びおりて廊下へでようとするユグムの上膊を、リュベクが捉える。


「どこへ行く」


「……放して……」


「ひとり歩きは危険だ」


「……外にはでない。一階の食堂で、なにか食べてくるだけだから」


「朝食ならば室に運ばせる」


「放してってば。朝ごはんくらい、ひとりで食べられるよ」


 ムキになって云い返すユグムは、リュベクの腕をふりきって走りだす。聞きいれてあとを追わずに室へ残ったリュベクに、ラーギルが同情した。


「あんた、主人に愛されてるな。今時、情人(イロ)なんてめずらしくもねぇのに、あんなふうに嫉妬されたら、さすがに良心が(うず)いたか?」


「自意識過剰だ」


「おれの? どこがだよ」


「おまえを抱いたのは、おれの独断だ。ユグムに指図(さしず)されたわけではない」


「知ってるさ。あんたは、ご主人さまのためにおれと寝たんだろ」


「それだけではない」


「なにが云いたいんだ」


「良心が疼くとすれば、おまえに対してだ、ギル」


「おれに……?」


 リュベクの動きを先読みできず、うっかり油断したラーギルは、肩を押されてベッドへ仰向けの状態で倒された。


「てめぇ、なにする気だよ!」


「静かにしろ」


「おい、リュベ……ク……」


 こんどは、リュベクのほうからラーギルの唇を奪い、舌を絡めて深い口づけを交わした。


「なんだ? おい、リュベク、どういう状況だこれ……」


「約束しろ」


「約束?」


「勝手に死ぬことは許さない。おれ以外の男と肌を合わせることを禁じる。ユグムを裏切る真似をするな」


「ちょっと待て。死ぬとか裏切るとか、そんなつもりは最初からねーよ。ってか、おまえ以外と寝るなって、意味わかんねぇぞ」


「おまえは性奴隷だ。欲情しやすいように調教されている。先々で斑気(むらけ)を起こし、日常的に発情されては面倒だ。人肌がほしくなったときは、おれが相手をしてやる。第三者を巻きこむな」


「ハッ、なんだそれ。(えら)そうに云ってくれるな。おれの相手をするって? じゃあ、ユグムはどうなる? あいつは、今だって感情が落ちつかないってのに……」


「おれは、おまえと取り引きをしている。ユグムは関係ない」


「ふうん? おれを満足させる自信があるってことか」


 押し倒されている状態であっても、リュベクは腕力でラーギルを動けなくしているわけではない。長衣のうえからリュベクの下半身を撫でると、ラーギルは「あんたってさ、意外と性欲旺盛なんだな」と笑みを浮かべた。しばらく見つめ合ったふたりは、誓いの口づけを交わした。



「おれの負けだ。リュベク」


「勝てると思っていたのか」


「ハッ! 悔しいけど、あんたに惚れたぜ。なにもかも最高すぎ。怪我を負わされても赦せるくらいにな」



 そういって、ラーギルは首筋の繃帯をひと撫でして見せた。リュベクだけでなく、簡易宿の利用客から躰を傷つけられるたび、妙な快感に捉われるラーギルは、ヒュドルの圧倒的な力と肉体で弄ばれた結果、乱暴に扱われることに感覚が麻痺していた。なりゆきとはいえ、リュベクに抱かれたラーギルは、正常な感情を取りもどすきっかけとなった。



✓つづく

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