203.向き合うとき
試験最終日。緊張と熱気が入り混じった今の試験。4ブロックから上がってきた上位40名によるトーナメント。表の組み合わせも変わり、どこかの学園が損をしないような配置になっている。
この上位40位からは各学園にポイントが入っていく。勝ち上がるたびにカウントされるため、決勝までにはより多くのライバルを倒しておきたい。
理想は相手も自分と同じ学園であることだがまずそれは叶わないだろう。
「いよいよ皆様ご待望の最終日〜。各ブロックから勝ち上がった実力者たちが集まってくれたみたい〜。最終日の実況を務めさせていただくのはもちろんこの私、ファリファちゃんで〜す」
ステージ中央に浮かぶオリジン。装置が様々なパターンのステージを順に見せながら観客を楽しませる。
「ここでなんとスペシャルゲストが生徒たちみなを応援しに来てくれました〜。聖騎士団団長より、ソリス・アグライア様がVIP席にて生徒の皆様の有志を見届けるそうでーす。皆さん頑張ってくださいね!」
ソリス団長は周囲に護衛を付けて安全なエリアで観戦を行っている。周囲にはその他聖人たちもいるためこの場で騒ぎを起こせば一瞬で制圧されること間違いなしだ。
「そして今回からは詠唱の使用が認められますが、あまりにも危険な場合はオリジンが介入しダメージを軽減してくれるそうです〜。力ある生徒をここで亡くしてしまうことは避けたいですからねー」
詠唱を使える生徒はほぼいない。おそらく聖人たちに向けて放った言葉だろう。相手を殺すな、まるでそう警告するように。
「それでは最初の出番は〜……だらだらだらばん! ザバルタ学園からはムート選手が! ガレオス学園からはノーア選手が選ばれました! 試験は10分後開始となっております。選手や観戦席の生徒さんも準備をお願いしま〜す」
しばらく時間が立ち、2人の生徒がステージへ上がる。巨大な盾と剣を持ったノーア。対するムートは手ぶらのようだ。
「ステージの生成を確認しました〜。どうやら荒野のようですね! それではレフェリーの合図を待って……」
風が吹きはじめると試験開始の合図が鳴った。
「始まりました!」
ノーアは即座に盾を構え、鈍重な盾を引きずりながら突進し始める。防御を維持しながら距離を詰める。まるで進軍のような力強い戦い方に、彼女に挑んできた生徒たちは蹴散らされたのだ。
地面が揺れるほどの迫力。ムートは冷静に状況を見ながら屈み込み、地面に手のひらを当てた。
「見る所、魔力を探知しての突進のように思えます。盾からの視界はさぞ悪いでしょう」
ボコボコっと地面が変形し一直線上に瓦礫などを吹き上げた。
「やばば!?」
前からの攻撃は防げるが下からの攻撃を想定していなかったのかノーアは盾を横に滑らせ回避に専念する。
「やはりここからは一筋縄ではいかないということですか。セリア様の側近としても名の響いた方をこんな簡単にあしらってしまえば面白みに欠けますからね」
「やっぱりアエリナちゃんの側にいるだけであるね。攻撃の仕方が派手だよー」
ノーアは脳天気な声で笑った。
「やはりぶつかり合いを楽しみにしているみたいですね。この環境は私の土俵ではないので、皆様のご要望に合わせて……」
ムートは魔力で双剣を生成し構える。
「少し乱暴にいかせてもらいます」
「くる──!」
俊足なムートの脚力に焦りながら彼女は盾で攻撃を防ぐ。
「背後に回って斬り刻んでも良かったのですが、それでは面白くありませんね」
「お、重い……」
「なら、その盾を壊してあげます」
体術と剣技の合わせ技。回り込めば本体を狙えるはずだがムートは本気で盾を壊しに来る様子。一撃一撃は軽いが、一点集中で攻撃されているようで盾が悲鳴を上げている。
「私だって負けっぱなしじゃないからー!」
ぐんと前進し、ノーアは加護を解放する。
「衝撃反転! あと、土・第四階級魔法」
ノーアの不明な加護で彼女の魔法耐性が全く無くなった。衝撃反転の魔法によりムートの攻撃の一部を衝撃として跳ね返す。
怯んだ彼女に四階級程度の魔法が襲う。
「同時に魔法を使えるようになっているというわけですか。しかしこちらも対策をしていなかったとは言えません」
「中級防御魔法……!」
あんな一瞬で魔法を発動できるはずがない。ということは彼女は既に魔法を用意していたということ。
「意外に用心深い……」
「本来ならば逆の事を言われるんですが……あなたにはそのような印象があったのでしょう。残念です」
「あっ……盾が!」
するりと割れてしまう盾。どうやら衝撃反転の際に壊れてしまっていたようだ。
「衝撃反転は道具に使用する際は適切に扱わなければより脆くなります。さて、丸裸になったあなたをどう攻略するかお見せいたしましょう」
「盾じゃやっぱりここまでしかできないよね」
しかしノーアは剣を構える。盾がなくなったからと言ってできることがなくなったわけではない。
「せめて少しでも傷を付けてから負ける!」
「威勢がいいのだけは認めます。が、私としても残りの体力をより温存しておきたいところです」
ノーアは頭の後ろに手を当て、目の周りを覆っていたものを外す。
「これであなたは何もできない……」
ゆっくりと開かれた目はノーアを見ていた。その後に彼女がどうやって負けたかは覚えていない。気がついたら医務室に倒れ、彼女はここで敗退したのだ。
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「今年の生徒は実力者揃いのようですね。私の後釜たちもあんなに凛々しい様子です。……あら、セリアの姿が見えませんね。ルイス、探しに来てくれませんか?」
ソリスは全聖人が見える位置に鎮座している。
「セリア様となにかお話したいことが……?」
するとソリスはルイスに耳打ちするように話す。
「最近セリアちゃん体調が優れないようだから心配なの。私に似てるしなんだか親近感が湧いちゃってる」
「団長、公の場で話すのが面倒だからといって耳打ちで気楽に話しかけるのは控えた方が良いかと……」
ソリスは少しムッとした表情でルイスの腕を掴む。
「だって疲れるもん。聖女は聖女だけど私は普通の女の子だから。堅苦しいのとかどうでもいいの!」
「わかりましたから骨を折るのだけは止めてください」
パッと離し、ソリスは笑顔で無言の圧をかける。はやくセリアを見つけに言ってと言わんばかりの表情だ。
「よ、よほど心配なんですね。わかりました、10分程度で戻ってきます」
「頼みましたよ」
ルイスがいなくなったのを確認したソリスは自分を縛るものが何もなくなったのを良いことに聖人たちの元へ歩き出す。
「聖女ソリス……。あなたのような方が余の……私の隣に来られるとは一体何のおつもりでしょうか?」
向かった先はアエリナの隣のようだ。いつもの強気な態度は止め、目上に接するような態度で挑む。
「もし私がセイントイータに負けたらのお話です」
「今回の敵は聖女ソリスでさえ攻略が不可能な相手なのですか?」
ソリスは黙って頷いた。
「これまで挑んできた聖女や実力者たちはみんな彼女に壊された。もう何十年も続いている話です」
「どんなトリックがあろうとも聖女ソリスは類を見ないほどの実力者です。セイントイータなど敵ではないでしょう」
アエリナは彼女を高く評価しているようだ。
「うまくはいかないと思っています。私はメイル様よりは強くありませんので」
「セリアの母……一度はセイントイータを打ち負かしたが、その後に取り逃す。大層強かった聖女と聞いていますが、私には聖女ソリスよりも強いとは思えないですね。さて、本題に入りましょう。私に話しかけたのには理由があるんですよね?」
そう言うとソリスは頷いてから口を開く。
「……1つだけ質問をしておきます」
そう言いつつ視線は闘技場のステージ。
「あなたにとっての敵は何だと思いますか?」
「私の……?」
アエリナが困っているのをみて、ソリスは納得したようだ。
「難しい質問をしてしまいましたね。申し訳ないです。それでは質問はできたので私は他の聖人たちとお話していきます」
そう言うとソリスは立ち上がり今度はエフィレの席へと歩き出した。




