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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第2章 国割り 共和国潜入
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共和国探訪 side X Ⅰ

「あーあ、蟲も研究所もダメになってしまったかぁ……、まあ仕方ないね。それにしてもよく要所だけを訪れられるものだ。きっと旅慣れたプランナーが居るのだろうね」

 大きな部屋の真ん中に長机を正方形になるように並べている。

 席の数は20席、その中で入口にもっと近い角の席に白衣を着た医者か研究者に見える女が座る。華奢な体格に合っていない大きめの白衣の袖から手は出ておらず、余った部分をぐるぐると回して遊んでいる。

「エイダ・マーキュリー、貴様はこの事態を予見しておきながら何故放置した?」

 口を開いたのはかなり初老に近い軍服姿の男だった。厳つい顔立ちが如何にも軍人らしい。

 他の席に座っている者たちも年齢、性別はバラバラで服装も軍服やスーツを着ている。

 彼らの後ろにも同じような格好で立っており、見るからにお付きの部下たちなのだろう。

 ただエイダ・マーキュリーと呼ばれた白衣の女の後ろには誰も居ない。それどころか彼女を避けるようにぽっかり隙間が空いている。

「王国の蝿を監視していたのだろう? それなのになぜ何もせずに放置していると聞いているのだ!」

 テーブルを拳で叩くと会場に静けさが走る。

「ぷっ、……蟲もマリヴィも一瞬で灰にしてしまうなんて、何て不合理な事を。この数を処理するためにどれだけの演算能力とリソースを割くのだろう…………、ああ……おもしろいねぇ」

 エイダは自身が持ち込んだ端末をテーブルに置いて見ている。

 話を全く聞いていない事に初老の軍人は何度もテーブルを叩いて怒鳴り散らす。

「いい気になるなよ! 功績は認めるが貴様は我が共和国に雇われている身なのだ! 研究の資金や設備は誰が用意していると――」

「まあまあ、少将殿。彼女に何を言っても態度を改める事はありませんよ」

「ぐぬぅ、おのれ……」

 側に控えていた士官に宥められると、初老の軍人は鼻をふんと鳴らし腕組みしたままエイダを睨みつける。

 場の空気が収まるとエイダが口を開く。

「別に資金などいくらでも稼げるしラボにある設備の大半はボクが自分で手に入れたのだから関係ないよ。それこそ貴方たちが手にする道具や技術にエネルギー資源はボク自身による発見か発明……は言い過ぎだね、こちらの世界に再現してあげたのだから、とやかく言われる筋合いはないね」

「おのれ……、この減らず口が!」

 激昂した少将は銃をエイダに向けて引き金に指をかける。

「少将閣下おやめください!」

「黙れ‼︎」

 制止も聞かずに何度も引かれた引き金は銃の中で小規模な爆発を起こし、装填されていた全ての鉛弾をエイダに向けては放つ。

 1発目は十分な狙いをつけていたからエイダの額から頭を貫通した。

 2発目は外れたが3発目が右肩を、4発目は首に命中する。5発目と6発目はエイダの左胸あたりにめり込んでいく。

 弾が当たった衝撃でエイダは椅子ごと背中から倒れてしまう。

「ふー、ふー、ふー……」

 少将は興奮して息が荒くなっている。倒れたエイダの顔が見えなくなっても鬼の形相はそのままだった。

 会場は静寂に包まれ、誰かが息を呑む音が聞こえる。

「はー……、はははははははははははははははははははははははっ!」

 エイダの高らかな笑い声が聞こえると少将は驚いて後退り、椅子につまずいて転びそうになる。

「気は済んだかい? そんな物でボクを殺せる訳がない事ぐらい知っているだろう。そしてそれは、君たちが欲してやまない力だということも」

 エイダはゆっくりと起き上がると椅子を元に戻して座りなおす。

 撃ち抜かれた服に穴は開いてもエイダの身体には傷一つ見当たらないし一滴たりとも血は流れていない。

 一部始終を見届けた周囲の人たちからは込み上げてくる気持ち悪さを抑える声と、感嘆の声が漏れ出る。

「やはり凶科学者サイレント・オークが不死であるという噂は本当だったか……」

 何人かが会場を忙しなく出入りした後、シレゴー共和国大統領であるグリードマンが数名の高官を連れて入ってくる。

 座っていた全員が起立するなかエイダだけは座ったままだった。

 グリードマンが上座の真ん中に座ると全員が着席すると側付きの若い高官が口を開く。

「これより王国からの侵入者並びに懸案事項について話し合いを行います」

「うむ、全員揃っているな。みな忙しいところ集まってくれてありがとう。今回はエイダの発案による招集である。エイダ、あとは任せて良いか?」

 会場内が一気にざわつく。

「あの狂人からだと⁉︎ また良からぬ実験の予算取り……」

「会議なんて一度も顔見せたことないくせに、悪巧みに決まっている」

 皆が疑念を口にして訝しんでいる。

「おやおやおや、酷い言い草だね。確かにボクは忙しいからあまり顔を出さないけど……そうだな、最後に出たのは…………いつだっけ?」

「非公開の会議は皆勤だが、公式の会議は私が大統領に就任してからは初めてだよ。もっとも皆勤したのはお前のラボに我々が出向いたから、だがな」

「ははは、そうだったね」

 この天才科学者が覚えていないはずがなく、グリードマンは白々しさを覚えると同時に何を企んでいるのかと注意深くエイダを観察する。

「そんな目で見ないでくれたまえ。さて、時間が惜しいし本題に入ろうか」

 エイダは長い袖をめくると手には何やら金属製の板が握られていた。金属の板を指で何度か叩くと部屋の明かりが消えてテーブル中央に映像が浮かび上がる。正方形に組まれたテーブルのどこからでも同じ映像が見られた。

「今日はこの技術の話じゃない。さっき少将殿が言っていた王国からの侵入者の件だよ」

 周りの反応にいちいち気を取られることなくエイダは独り言を話すように進めていく。

「ラウェストでは馬鹿な市長の所為で獣人の強制連行がバレてマリヴィの研究施設が墜とされてしまった。南部のイーマイムでの殲蟲機構の実験は……、あれは良かった! だけどいいデータが取れた代わりに機体は全て灰になってしまったよ、全く! ……総じてだが計画していた研究に遅れが生じる。いつもなら時間をかければ立て直せるが——」

 少し間を置いて考えるふりをして顔を上げる。

「彼らはここ首都モルコビアに来る」

 会場内がどよめくと若い高官が「静かに」と声を張る。

「それで、あとどれぐらい時間があるのかね。それと目的は?」

「そうだね、2日程度ってところかな。目的? そんなことボクにわかるわけがない。少なくとも軍事施設は狙われるだろうね」

 軍の関係者数人が部屋を出ていくのをエイダは確認する。

「研究所では魔石だけではなく獣人そのものを使っていたからね、それはそれはお怒りだろう。ついでに街の住人もマリヴィになったからね。……彼ら、何の躊躇いもなく殺してしまったんだぁ、酷い事するよねぇ」

 無関係な住人を巻き添えにしておいて悪びれもしない。それどころか薄ら笑いを浮かべている。

 エイダを凶科学者と呼ぶ理由はそこにあった。

「目的とは奴らの事ではない、エイダ・マーキュリー……君の目的は何だと聞いている」

   エイダは怪しげな笑顔を見せる。

「話が早くて助かるよ、大統領。ボクはラボを守りたい、わかるだろう?」

「わかった、全軍を挙げて首都防衛を執り行う」

「ん? 守ってほしいのはラボだけで良いのだよ」

「彼らの目的は分からないのであろう? それならば首都全部を守る必要がある。ここには獣人の収容所も軍基地もある。何より市民を守ることが私のつとめだからな」

「……ふーん、立派だね。流石は……、おっと時間だ。ボクはこれで失礼するよ。必要なものが欲しければ知らせてくれたまえ。それと、あれの使用も良いよね?」

 グリードマンは少し考えてから首を縦に振る。

 エイダが出ていくのを見届けてからグリードマンは将官たちに顔を向ける。

「『アクワイヤー』をラボの護衛につけるんだ、他は首都郊外で見つけ次第排除しろ」

 スーツを着た執政官らしき人物が恐る恐る尋ねる。

「しゅ、首都に入られた場合は……?」

「同じだ、市街地での兵器の使用を許可する。緊急事態宣言を発令し首都を封鎖しろ。民間人に多少の犠牲はやむを得ない、だが研究施設だけは死守するのだ。いいな、わかったらすぐに行動開始だ」

 大統領が解散を宣言すると次々と席を立って行く。部屋には軍のトップである元帥とグリードマン大統領だけになる。

「さっきの騒ぎを起こした少将、名は何といったか……、あれは始末しておいてくれ。彼は以前からエイダを敵視していると噂があった」

「分かった。ところで今回の事態を引き起こしたのはエイダ自身ではないかと儂は疑っているのだが、ついに奴は自分のために国をも犠牲にし始めた、違うか?」

「……仮にそうだとして我々は奴を守らねばならん。それが我らの命を守ることに繋がるのだからな。研究がすすみ、自在に“あちら側”と行き来できるのであれば、国などいくらでも作り直せる」

「ふぅ…………、分かっておるさ。ようやく手に入った不死だ、不老を手にするまでは、な。九龍商会にも連絡を入れておこう、奴らにとってもエイダは手放すことができない客の一人だろうからな」

 ドアの向こう側で聞き耳を立てている人物がいた。

「マーキュリー女史を取り立てる秘密はそういうことか。ニンゲンも獣人も、大地さえ実験おもちゃにするような女を……、しかも九龍商会…………」

 男は誰にも気付かれることなくその場を後にする。


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