成す術なく
マレクに吹き飛ばされゴロゴロと転がっていたロイは、地面に手をついて跳ね上がるように起き上がると、大きく息を吐く。
「……はぁ、痛っ……クソッ、油断した」
直撃を受ける直前、どうにか後ろに飛んでいくらか威力を殺したものの、ロイが受けたダメージは決して少なくなかった。
(とりあえず、距離を取って相手の実力を見極めなければ……)
そう思うロイだったが、
「ほらほら、マダ終わりではないゾ!」
四本の足で一気に距離を詰めて来たマレクが、六本の腕で殴りかかってくる。
「クッ……」
空気を切り裂きながら迫る剛腕を紙一重で回避するロイだが、
「遅いゾ!」
「あぐっ!?」
一本の腕を回避しても、二本、三本と休む間もなく伸ばされる腕が、ロイの体を強かに打ち付けていく。
「どうした? 弱い、弱すぎるゾ」
「ぐっ……」
攻撃が面白いように当たる感覚に、マレクは耳まで避けた口を大きく開けてケタケタと笑いながら尚も拳を振るう。
「どうしタ? これが、セカイを救ったユウシャの実力カ?」
「クッ……あぐっ!?」
人が反応できる速度を遥かに超える攻撃を前に、ロイは防御すらままならないでいた。
幸いなのは、マレクが荒事に慣れていない所為か、強靭な肉体を手に入れてもそれを十全に活用することができず、一撃の攻撃が見た目の割に軽く、受けた攻撃の回数の割にダメージが軽微であったことだ。
だからといってこのまま殴られ続けていれば、反撃する余地すらなく打ちのめされ、殺されてしまうだろう。
(……こうなったら)
このままでは埒が明かないと踏んだロイは、相手の攻撃が軽いことを逆手に取り、多少攻撃をもらう覚悟で無理矢理剣を振るう。
しかし、
「ククク……見えるゾ」
一縷の望みを託した攻撃もあっさりと受け止められてしまう。
しかもマレクは、剣を二本の腕でがっちりと掴み、ロイの動きを阻害する。
「クッ、この……離せ!」
ロイが渾身の力を籠めて剣を引き抜こうとするが、強靭な腕でがっちりと固められた剣は、ビクともしない。
「やれやれ、まさかマダ反撃する余裕があったとは……ナ。どうやらワタシの攻撃は、効果的ではナカッタようだ」
マレクは大袈裟に肩を竦めてみせると、空いている残りの三本の腕でロイの体を掴む。そして三本の足で自分の体を地面に縫い付けるように踏ん張ると、残った一本の足を大きく後ろに振り上げる。
「まさか!?」
これから自分に訪れる事態に気付いたロイが、顔を青くして必死にマレクの拘束から逃れようともがく。
しかし、どれだけ暴れても、足を振り上げてマレクの胴や顔を蹴っても、マレクのは体はビクともしないし、余裕の笑みすら崩さない。
ロイの攻撃を一通りその身で受けたマレクは、真っ赤な口を大きく開いて歓喜の笑みを浮かべて死の宣告を下す。
「コレデ……終わりダ」
そう言うと、マレクは引き絞った弓の弦のように限界まで力を溜めた渾身の蹴りをロイの体へと叩き付ける。
同時に、これまでの攻撃とは明らかに違う、生者を死滅へと叩き落とすような破壊音を響かせロイの体を吹き飛ばす。
地面と水平に吹き飛ばされたロイは、その勢いのままに壁に叩き付けられ辺りに轟音を響かせ、
「ガハッ……」
壁に体の半分も埋められたロイは、口から大量の血を吐いてがくりと首を項垂れた。




