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挑発

 十秒ほどロイに抱きついていたリリィは「ありがとう」と言って名残惜しそうに離れる。


「もう、いいのか?」

「うん、ありがとう。それじゃあ、ボク……行くね?」

「ああ、エーデルを頼む」

「うん、それとロイ、ちょっといいかな?」

「んっ?」


 手招きをされ、顔を近づけるロイにリリィは音もなく距離を詰めると、ロイの頬に自分の唇と押し当てる。


「――っ!?」

「ロイ、大好きだよ」


 驚くロイに、リリィは耳元で囁くように告白すると、真っ赤になった顔を見られないように両手で隠しながら脱兎のごとく駆け出す。それはほんの一瞬、僅かに触れた程度だったが、リリィにとっては精一杯の勇気を出しての行動だった。

 そんなリリィの小さな勇気に、ロイは僅かに熱が残る頬に手を当てて微笑む。


「リリィ、ありがとう。俺もリリィのこと、信用しているよ」


 照れながら立ち去ったリリィにロイがひっそりと声をかけると同時に、


「――っ、来るか!?」


 魔法によって出現した壁が地響きと共に崩れはじめた。


 魔法で造られた即席の壁は、今までそこにあったのが幻だったかのように一瞬にして崩れ、辺り一面に大量の砂埃を舞わせる。


「…………」


 視界を奪う容赦のない砂の奔流に、ロイは目を閉じて口をしっかりと噤んで来るべき攻撃に備えるために集中する。

 すると程なくして、辺りに舞っていた砂埃が何かに押し出されるように後方へと吹き飛び、ロイの体の三倍はあろうかという巨大な火の球がうねりを上げながら襲いかかってくる。


「…………フッ」


 余りにも予想通りの展開に、ロイは思わず口に笑みが浮かぶのを自覚すると、背中へと手を伸ばす。


「悪いけど、ここは無茶を承知で使わせてもらうぞ。相棒!」


 そう叫びながら、ロイは背中からデュランダルを引き抜いて火の球へと斬りかかる。


「はああああああああああああああああっ!!」


 裂帛の掛け声を上げならデュランダルを振り下ろすと、水が弾けたような音を響かせながら巨大な火の球がかき消える。

 同時に、デュランダルの刀身が仄かに蒼く光り始める。

 その刀身にはいくつものヒビが入り、今にも折れてしまいそうだったが、ロイの意思を反映したかのように頼もしい光を放っていた。


「おのれ、まだ終わりではないぞ!」


 火の球がかき消されると、その向こうから憤怒の表情を浮かべたマレクが次々と魔法を撃ち出してくる。

 火、氷、雷、風といった様々な属性の魔法攻撃が襲いかかってくるが、それらの攻撃をロイはデュランダルで一つ残らずかき消していく。


「クソッ! 忌々しい武器を使いおって、それがなければ貴様など疾うに黒焦げになっているはずなのに……」

「ハッ、自分で同じような武器を作っておいてそれを言うか?」

「クッ……煩い、煩い、煩い!」


 せっかく時間を稼いで魔法の詠唱をしたにも拘わらず、それら全てを綺麗に処理されたマレクは、悔し気に地団太を踏みながら悪態を吐く。

 すっかり頭に血が上り、冷静さを失っている様子のマレクを見て、ロイはリリィたちに目配せをする。


(……よし、後はリリィたちが脱出するまで奴の注意を惹きつければ……)


 ロイは蒼々と輝くデュランダルを突き付けると、ニヤリと笑って侮蔑の視線をマレクへと向ける。


「もう、諦めろ。貴様程度の魔法では俺を倒すことは不可能だ」

「…………何?」


 ロイの口から発せられた言葉に、マレクはピタと動きを止める。

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