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隠された力

 試合開始の合図が聞こえ、ロイは慌てて舞台へと視線を移す。

 セシリアの時と同様に、勝負が一瞬でついてしまうかもしれないと思ったからだ。


 しかし、


「…………」

「…………」


 舞台の上の二人は、その場から動かずに様子見に徹していた。


 ライジェルは腰を落として剣に手をかけた姿勢、所謂、居合の構えをしている。

 対するサンは、細い刺突剣を右手でゆらゆらと揺らしながらライジェルの動きを誘うようなステップを踏んでいた。

 しかも、サンは左手に自身の体を半分隠すような赤い布を持ってゆらゆらと揺らしており、まるで猛牛を前に悠然と佇むマタドールのようだった。


「あの布には一体何の意味があるんだろうな?」

「さ、さあ?」


 奇妙な構えを取るサンに、ロイもキリンも戸惑いが隠せないでいた。

 しかし、ここまで残っている以上、サンも相当な実力の持ち主に違いない。

 などとロイが考えていると、意外にも先に動いたのはライジェルだった。


「なっ!?」


 次の瞬間、ロイは驚きの声を発する。

 その理由は、ライジェルの姿が一瞬にして消えてしまったからだ。


「ロイ、あっちだ」


 すると、キリンから反対側を見るように指示が入る。

 その言葉に従い反対側を見やると、そこには物凄い勢いで切り結んでいるライジェルとサンがいた。

 ライジェルは、剣は抜かずに鞘で戦っているものの、その速さは尋常ではなく、目で追うのがやっとのスピードだった。

 しかも、それを受けて立つサンも中々のもので、ライジェルの攻撃を決して正面から受けることなく、左手に持つ布を翻して上手くライジェルの攻撃を自信から逸らし続けていた。


「おおっ、これは凄い! 流石は武道大会の準決勝に進んだ猛者たちです。これまでも上質な戦いを見せてくれた両者ですが、ここに来て隠していた実力を出してきたようで、今までとは一味も二味も違う戦いを見せてくれています!」


 派手な火花を散らしながら行われる攻防に、マシューの実況にも熱が籠り、会場は大いに沸き立つ。

 その後も目にもとまらぬ速さで繰り広げられる攻防に、ロイたちは驚きを隠せないでいた。


「……信じられるか。あんな実力の人間がまだ埋もれていやがったんだ」

「ああ……正直、俺もまだ信じられない」


 贔屓目に見ても、この二人の実力は、ロイたちがこれまで戦ってきた選手とは一線を画しているのではないかと思われた。

 彼等ならば、ロイに代わって竜王討伐も出来るのではないだろうか……などと考えていると、


 ――主よ、随分と珍妙な場所にいるものだな。


 突如として声が聞こえた。


 その声に、ロイたちは飛びあがらんばかりの勢いで驚き、きょろきょろと辺りを見渡す。


「だ、誰だ!?」

 ――誰だとは心外だな。よもやもう我の声を忘れたわけではあるまい。

「そ、その声、デュランダルか!?」

「デュランダルの旦那だって!? 確か、喋れなくなってるんじゃないのか?」


 呆れたような響きに懐かしさを覚えながら、ロイは背中に吊るしたデュランダルを取り出す。


「ど、どうしたんだ。フィナンシェ王国の事件から一度も口を開いてくれなかったのに……俺はもうてっきりお前とは話せないかと思っていたよ」

 ――それはすまなかった。あれ以来、我の中の魔力がほぼ枯渇してしまってな。少しでも回復に務めるため、活動を制限していたのだ。

「じゃあ、もう普通に話せるくらいには回復したのか?」

 ――いや、残念ながらそう簡単にはいかない。我が目を覚ましたのは、この場に漂う力場のようなものが作用したからだ。

「力場?」

 ――左様。この建物内には、増幅の魔力が充満している。我の目が覚めたのも、その力による一時的なものに過ぎないだろうな。

「増幅の……」

「魔力だって!?」


 デュランダルの言葉に、ロイとキリンの二人は顔を見合わせた。

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