準決勝
翌日、セシリア失踪という事件が起きていたが、その事実を知っている者は殆どいないので、武道大会は滞りなく今日も開催されていた。
本日は準決勝の二試合が行われる予定となっており、ロイは二試合目に試合するキリンの下へ現状の報告に訪れていた。
場所は武道場の裏手にある選手専用の入り口近くで、以前、セシリアがインと接触していた場所だった。
辺りに人がいないことを確認したロイは、セシリアが行方不明になったことと、それを助けるために王族の魔法使いと一戦あるかもしれないと伝えた。
「そうか、そんな状況になっていたのか……」
「ああ、それで今、情報屋に探してもらっている」
「できるなら俺も協力したいが……城の中を自由に歩き回る許可は出ないんだよな」
ロイから話を聞いたキリンは、今の自分ではできることは何もないと知り、悔しそうに歯噛みする。
そんなキリンの想いに、ロイは嬉しそうに口角を上げると、心配するなと肩を優しく叩く。
「セシリアは俺たちが必ず助け出してみせるさ。だから、キリンは、目の前の戦いに集中してほしい」
「……わかってるよ。俺だって、ここで勝たなきゃ、あの辛い修行の日々に戻されちまうんだからな」
「そうだったな。色々あってすっかり忘れてたよ」
「酷いな……まあ、別にいいけどさ」
素直なロイの感想に、キリンは思わず苦笑する。
「それで、ロイはこれからどうするんだ?」
「どう、とは?」
「別に深い意味はねぇよ。ただ、今現在やることがないんなら、試合、見て行かないか?」
「試合……キリンの?」
「俺のじゃねえよ。俺の試合見ても別に今更何かを得られるとは思わないだろう」
そう言うと、キリンは目の前にそびえる武道場を顎で示す。
「ライジェルの試合だよ。奴がどんな試合をするか、見てみないか?」
「……ああ、そうだな」
ロイが頷くと同時に、武道場内から大歓声が沸き起こった。
「さあ、武道大会も終盤の六日目、残すは準決勝と決勝の三試合のみとなりました。本日も実況はこの私、マシュー・マロがお伝え致します!」
マシューの実況を耳にしながら、ロイたちは武道場が見下ろせる位置にある個室の観客席へとやって来た。
「へ~、こんな部屋あったんだな」
木製のイスとテーブルが設えられたこじんまりとした部屋だが、武道場全体が見渡せるようになっている作りに、ロイが感嘆の声を上げる。
「もしかして、ロイはここに来るの初めてか?」
「ああ、試合がない日は、エーデルたちに振り回されていたからな。他の場所を見る余裕なんてなかったよ」
「そうか……そういやエーデルちゃんたち、この会場、出禁になってるんだっけか」
その時のエーデルの暴れっぷりを思い出したのか、キリンはブルッと青い顔で震える。
それを見て、ロイは小さく嘆息しながら肩を竦める。
「悪かったな。何だかとんでもないことになったみたいで」
「あ、ああ……まあ……俺もルールをキチンと把握してなかったからな。その……俺もダメ押しみたいなことして悪かったな」
「気にするな。あの状況で冷静になるのは無理があるからな」
「そう言ってくれると助かる」
キリンが差し出して来た拳に、ロイは自分の拳を重ねた。
ロイとキリンが和解している間に、選手入場は完了していた。
一人は言うまでもなく、セシリアを重傷へと追いやった人物、前回大会の覇者ライジェルだ。
「……あれが、ライジェルの剣」
ロイはライジェルの腰に吊るされた片手剣を見て、眉を顰める。
「見た限り普通の剣だけど……あんなので本当にセシリアの鎧ごとたたっ斬ったのか?」
「ああ、信じられないかもしれないが事実だ。それに……」
そう言うと、キリンはライジェルの剣を指差す。
「余りの早さに殆どの人間が気付かなかったかもしれないが、あいつの剣……刀身が血のように真っ赤なんだ。一体どこからあんな武器を持ってきたんだって感じだ」
「……一回戦からあの剣を使ってきたのか?」
「いや、装備はしていたが殆ど使っていない。攻撃する時も鞘で殴るか、足技でって感じだったな。ムカつくことに体術もそれなりのものだぜ」
「だろうな。いくら剣の切れ味が凄くても、それに伴う実力がなければ、話にならないからな」
「そう……だな」
(ん?)
何だか歯切れの悪い態度をみせるキリンに、ロイは何事かと思うが、
「さあ、準決勝第一試合、ライジェル・エレロ選手対、サン・マエストロ選手の試合ですが、この組み合わせは、昨年の決勝戦の組み合わせと一緒になります。昨年は激戦の末にライジェル選手が勝利を手にしましたが、今年はサン選手がその雪辱を晴らすことができるのでしょうか? それとも昨年同様、ライジェル選手がサン選手の挑戦を退けるのか、注目の一戦がまもなく始まります!」
マシューのアナウンスと同時に、審判が「はじめ!」と叫んで試合開始を告げた。




