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黒幕の名は……

 インは大きく息を吸うと、少し声のトーンを上げて興奮したように話す。


「これも全て、セシリアからの依頼でアベルの身辺調査をしたのが大きかった……俺としても、こんなお大物に繋がるとは思わなかったからな」

「そ、それは誰なの?」

「それは……」


 一同の視線を一手に集めたインは、黒幕の名前を口にする。


「ガトーショコラ王国の宮廷魔法使いの一人で、名前をマレク・カイザー・モナルクヘルシャーという」

「「「…………」」」


 いきなり名前を告げられても、ロイたちには誰のことだかさっぱりわからなず、何とも言えない表情を浮かべる。


 …………だが、



「へえ、これは確かに思わぬ大物だねぇ」


 オニキスはその人物が誰だか知っているようで、意味深な笑みを浮かべる。

 他にも、オニキスの後ろに控える店員たちも一様に驚いていることから、どうやらガトーショコラ王国内では、相当な有名人らしい。

 そんな彼等に、ロイが代表してマレクという人物について聞いてみる。


「あの……その、マレク・カイザー・モナ……何とかって人って誰なの?」

「そうさねぇ……何て言ったらいいかねえ~。実を言うと、あたいもそのマレクって人を見たことないんだ」

「え?」

「ああ、でも。見たことなくてもわかるんだよ……つまりだね」


 オニキスは人差し指をピンと立てると、マレクを見たことなくても誰だかわかる理由を話す。


「この国では、カイザーという名前はある種の人間にしか付けてはいけない名前なんだ」

「それは、つまりその名前がついている人は、この国では限られている?」

「ああ、カイザーという名前は、王族にのみつけられる名前なのさ」

「なっ!?」


 まさかの告白に、ロイだけでなくエーデルもリリィも目を見開く。


「じゃ、じゃあ……アベルの裏には、この国の王族がついているのか?」

「そういうことなんだろう。そもそも同じ奴が何度も逮捕されているのに、変だと声を上げる者がいないのは、何か裏がない限りあり得ないだろう?」

「た、確かに……」


 絶対に厳罰に処されないという確信があるからこそ、アベルは大胆に行動できるのだろう。

 だが、それでもまだ理解出来ないことがある。


「そのマレクって人は、どうしてアベルに協力しているんだ? 下手したら自分の地位が危ないのに、そこまでしてアベルに力を貸すメリットは何だろう?」

「それは、マレクの研究と関係があるようだ」


 インによると、マレクの研究は魔法を使って新たに武器を開発することで、その過程で多く人間が必要になるという。


「武器の開発に人間が必要……どういうことだ。開発した武器を使ってくれる人間を探していたってことかな?」

「それは……あんまり想像するのはオススメしないわ」


 あれこれと模索するロイに、苦々しい表情のエーデルが待ったをかける。


「魔法使いの私が言うのもなんだけど、魔法の研究者には大体碌な人間がいないの……アベルがわざと捕まるのは、おそらくマレクが行う魔法の研究材料を大量に確保するためだと思うわ。死罪が決まった犯罪者なら……後はわかるでしょ?」

「……そういうことか」


 エーデルは口にしないものの、ロイはその表情だけで言わんとすることは理解できた。

 つまり、アベルは街でゴロツキ共を集め、わざと捕まることで軍に集めたゴロツキ共を一斉に拿捕させ、マレクの研究材料として提供していたというわけだ。

 そして、その研究内容は、言葉にするのが思わず憚れるような……とどのつまり人道に反するようなものなのだろうということは容易に想像できた。


「でもね……」


 ロイの目に怒りの色が灯るのを確認しながらも、目を伏せたエーデルが悲しそうな顔をで告げる。


「マレクのやっていることは許せないかもしれないけど、今日ある魔法の多くは、そうやって多大なる犠牲の上でできあがったものなの。ガトーショコラ王国の魔法がこれだけ発展しているのは、そういう経緯があるのかもしれない。だから私としては、一概にマレクを悪く言えないわ」

「だとしても、セシリアは何も悪いことはしていない!」

「……そうね。今は魔法使いの倫理観の話をしているんじゃなかったわね。ごめんなさい。話を戻しましょう」


 エーデルは深々と頭を下げて謝罪の言葉を口にすると、インに質問する。


「それで、その小娘は、マレクのところにいるのかしら?」

「それが……すまない。そこまではわからない」


 インは小さくかぶりを振ると、ここに来て初めて弱気な表情を見せる。

 しかし、すぐに表情を引き戻すと、虚空を睨みながら決意の言葉を口にする。


「だが、三日……いや明日の夜までには必ず居場所を突き止めてみせる。そもそも依頼主が捕まったのも、俺が連中に見つかったのが原因だからな」

「わかった。お願いできるか?」

「承知」


 インは力強く頷くと、地面に何かを投げつける。

 同時に、ボフッ、という小さな爆発音と共に辺り一帯が煙に包まれる。


「うわっ、な、何だ! ゲホッ、ゲホッ!」


 突然発生した大量の煙に、ロイをはじめとするこの場にいる全員がゴホゴホとむせていると、


「居場所が分かり次第、すぐにそちらへ向かわせてもらう。では、御免」


 煙の向こうからインの声が聞こえ、何処かに行く足音が聞こえた。


「コラッ! いつも言ってるけど、もっと普通に部屋から出ていくことはできないのか!」


 全員が煙をいち早く追い払おうと四苦八苦する中、オニキスの怒鳴り声が空しく響いた。

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