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開戦の合図

 武道場内がようやく静けさを取り戻した頃、リリィは顔をしかめながら耳を押さえる。


「うう……まだ耳がキンキンしてるよ」

「確かに、物凄い迫力だったな」


 リリィと同じように、耳を押さえながらロイが苦笑する。


「でも、それだけ皆、この大会を楽しみにしていたということだろう」

「そうだね。ボクもどんな凄い戦いが見られるか、今から楽しみでしょうがないよ」

「ああ、俺もだ」


 ロイは力強く頷くと、武道場の中央へ目を向ける。


 そこでは、ちょうど今から第一試合が始まろうとしていた。

 予選会場より更に大きくなった舞台の上では、道着を身に着けた禿頭の男が手を上げる。

 それと同時に、武道場内に可愛らしい声のアナウンスが流れ始める。


「それでは、ただ今より第一試合、キリン・サイフウガとファーレス・チスとの試合を始めます! あっ、実況は私、ガトーショコラ王国一の格闘大好き乙女、マシュー・マロがお送りします」


 その言葉に、武道場の左右の端から余裕の顔をした武道着姿のキリンと、腰に短剣を吊るし、顔を布で隠したキリンより一回り大きい男が出てくる。


「東のゲートから出てきたのは、今回が初出場となるキリン・サイフウガ選手。出場選手の中で、唯一武器を持たない、徒手空拳で戦う戦士です。しかし、武器を持たないからといって侮るなかれ。一見するとただのチャラいナンパ野郎のキリン選手ですが、なんと彼は、救世の勇者と旅をして竜王討伐を果たしたパーティーメンバーでもあるのです。そんな彼が、この大会でどんな戦い方をするのか、皆さんご注目ください!」

「……誰がチャラいナンパ野郎だ」


 散々な評価に、キリンは自身の金色の髪を掻き毟りながらむくれる。


 明らかに不満顔のキリンを無視して、アナウンサーは選手紹介を続ける。


「対する西のゲートから出てきたのは、三回目の武闘覇王祭の出場で、ベスト八まで進出した古豪、ファーレス・チス選手です。もはやお馴染みとなったダガーを使ったトリッキーな戦法は、見る者をあっと驚かせること間違いないでしょう」


 アナウンスに対し、ゆったりとした服をまとったファーレスは片手を軽く振って応える。

 すると、観客席からわっ、という声援があがる。


「何よ。キリンの奴、全く人気がないじゃない」


 ファーレスと違い、全く声援を受けないキリンを見て、エーデルが不満そうに口を開く。


「私たちの代表として出るんだから、これで情けない試合をしたら、消し炭にしてやるわよ」

「まあ、その心配はないだろう」


 ロイは肩を竦めて笑うと、舞台に立つ二人を見やりながら話す。


「あの、ファーレスって人もそれなりに強いみたいだけど、キリンの相手になるほどじゃない。キリンの強さは、俺たちが一番よく知っているだろう?」

「フン……まあ、ね」


 エーデルは鼻を鳴らすと、声援をくれない観客に喧嘩を売りながら歩くキリンを見やる。

 その目は、氷のように冷たく見えるが、何処か呆れたような、それでも少し信頼しているような不思議な瞳をしていた。


 仲間たちからの暖かい視線など気付くはずもなく、キリンは口を尖らせながらブツブツとぼやく。


「……ったく、見てろよ。あいつをあっという間に倒して俺様の力を認めさせてやるからな」


 キリンとファーレスの二人が舞台の中央へ進み出ると、禿頭の男がルールの説明を始める。


「試合は時間無制限、どちらかが戦闘不能に陥るか、降伏するまで勝負が続けられる。例え舞台から落ちても負けにはならないが、観客に被害が出たり、出すような攻撃を行ったりした場合は、即刻失格となるので、各々、十分に注意するように」

「へ~い」

「了解した」


 二人が了承の意を伝えると、禿頭は頷いて互いに開始位置まで下がるように指示を出す。

 二人が十分に距離を取ったのを確認した禿頭の男は、小さく頷くと、手を上げて試合開始を告げる。


「はじめっ!」


 その言葉に、二人の戦士が同時に動き出す。

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