第一試合①
「おらあっ!」
試合開始の合図と同時に、キリンは一気に前へと打って出た。
一瞬でケリをつけて、この場にいる全員を見返してやる。そう思っての特攻だった。
ファーレスとの距離が二メートル程になったところで、キリンは地面を強く蹴って空高く舞い上がる。
空中で一回転をしてファーレスへと狙いを定めたキリンは、気合の雄叫びと共に必殺の蹴りを放つ。
「受けてみろ! 必殺、ダイナミックボンバー!!」
すると、キリンが突き出した左足の先端が赤く光り出す。
同時にキリンの体がどんどん加速し、一筋の流星となってファーレスのいる地面へと突き刺さる。
瞬間、耳をつんざく様な爆音と共に、舞台となっている石が砕け、破片が辺りに撒き散らされた。
体内で練った気力を一点に集中し、相手に叩き付けるキリンの得意技の一つ錬気という技だった。
ただ、本人の趣味で技の名前は随分と歪められてしまっていたが……
「おおっと、キリン選手の強烈な先制攻撃がファーレス選手に炸裂!」
派手な技の炸裂に、アナウンスの声にも熱が入る。
「これはまさか、一瞬にして勝負が決してしまったか!? 名前はダサいがその威力は凄まじいものだ!」
「本当、あいつのネーミングセンスだけはどうにかして欲しいわね」
実況の鋭い指摘に、エーデルも激しく同意する。
しかし、周りの残念な評価など耳に届かなかったようで、砂煙の向こうから姿を現したキリンは、天に拳を突き上げて勝ち名乗りを上げる。
「どうだ! 俺様の華麗な勝利だ……」
「それはまだ、早いのではないのですか?」
しかし、キリンの勝ち名乗りに割って入る声があった。
「ほら、後ろががら空きですよ?」
「――っ!? チィッ!」
背後から迫る殺気に、キリンは咄嗟に身を屈める。
次の瞬間、剣閃がキリンの首があった場所を通り過ぎる。
「どわっ、おっと……ほっ!」
息つく間もなく、キリンにファーレスの鋭い攻撃が次々と襲いかかる。
ナイフでの攻撃なだけに、素手のキリンは受けることなく紙一重で回避し続ける。
「ちょっ!? お前、殺す気か!?」
冷や汗を浮かべるキリンに、ファーレスが笑いながら攻撃を仕掛けてくる。
「ご心配なく、この国には優秀な回復魔法の使い手が山といます。即死しなければ、十分助かる見込みはありますよ」
「――っ!? そういうのは、大丈夫って言わねえよ!」
攻撃の合間を縫ってキリンが鋭い蹴りを放つが、ファーレスは距離を取ってあっさりと躱す。
その隙にキリンもファーレスとの間合いを離すと、呼吸を整えるために大きく息を吐き出した。
次の瞬間、武道場内が大きな歓声に包まれる。
場内の興奮を伝えるように、アナウンサーの声にも力が入る。
「な、なんという攻防。目にもとまらぬ速さの攻撃を繰り出し続けるファーレス選手も凄まじいですが、それらを全て躱してみせるキリン選手も凄いとしか言いようがありません!」
しかし、そんな周りの声など、対戦者の二人には届いていなかった。
(クソッ、どうなってやがる)
そのうちの一人、キリンは余裕の表情こそ崩さないが、内心で毒づいていた。
(俺様のダイナミックボンバーは、奴をキチンと捉えたはずだ。なのに、どうして奴は傷一つついていない)
完全に回避されたのであれば、当然ながら手応え自体ないはずだ。しかし、キリンの足は、確かな手応えを感じていた。クリティカルヒットではなかったが、相手にそれなりのダメージを与えたはずだった。
だが実際、ファーレスは傷一つ負うことなく、勝利したと油断した自分を追いつめてきた。
こんな屈辱を味わったのは、一体どれぐらいぶりだろうか。
「……フン」
キリンは気合を入れ直すように自分の両頬をぴしゃりと叩くと、改めて構えを取った。




