第1話 霊力探偵アン
帝都。荒宿シティ。
この街は、樹の霊力に呪われている。
1000年前に御神木を、人間が切り倒したから。
木の人形を出現させる呪い。
“幻身”出現の呪い。
「もう、逃さないわ」
アンは、黒い長い髪を左手でかき上げる。
右手では、闇色のムチを握りしめる。
ギシ…ギシ…。
動くマネキンがうねっている音がする。
幻身だ。
「おお、神よ。この救われぬ魂に慈悲を…」
ほうかさんは、目の前で十字をきる。
「ほうかさん。そんなに優しくしないで。私にだけ、優しくして欲しいわ」
「アンさんは、欲しがりさんですね」
「欲しいわよ」
二人は、笑顔で見つめ合う。
ギシ…ギシ…。
【ホシイ…ワヨ…】
まるで、意思があるように言葉をあやつる。
しかし。
「貴女に意思は無いわ。だって、名無しのゴンベエさんなんだから」
アンは、ムチを振り上げる。
動くマネキンに、ヒットする。
ビシッと。
バシッと。
あやつり糸が切れたかのように動くマネキンは崩れ落ちる。
「さよなら。名無しのゴンベエさん」
第1話 霊力探偵アン
黒木霊力探偵事務所。
ここは、荒宿シティで起こる霊的事象を解決する事務所。
依頼主は、警視総監。
警察で、解決できない霊的事象を、解決する依頼を受ける。
幻身=動くマネキンを作るのは、樹の霊力。
樹を大事にしない現代人への呪い。
1000年前の、御神木の呪いである。
「迷信よね。1000年前の御神木の呪いなんて」
黒木アン。
黒い長いストレートヘアの美女。
類まれな霊力を持つ。
愛するのは、恋人のほうかさんだけ。
「霊力者が、迷信なんて言ってはいけませんね」
城之内ほうか。
黒いボサボサ髪の青年。
聖職者を志す。いつも、十字架を持ち歩いている。
アンの恋人。
「紅茶は、いかがですか」
紅茶を差し出す。
「いただくわ」
「優しくしましょうか」
「優しくしてちょうだい」
ピンポーン。
事務所のドアチャイムが鳴る。
ほうかさんが、インターホンを見に行く。
背の低い女の娘がいた。
「パペットちゃん…」
はじめは、小さい声。
「パペットちゃん探して…!」
二度目は、大きく声を出す。
ドアを開けて、女の娘を招き入れる。
「パペットちゃん…」
「優しいお姉さんが、何とかしてくれますからね」
ほうかさんは、冷たい麦茶を用意する。
「ちょっと、ほうかさん。勝手に女の娘を事務所に入れないでよ」
あわてる、アン。
現在、幻身の件以外では、依頼を受け付けていない。
そして、女の娘は、小学生に見える。
「ワタシ、背が低いだけで、中学生だもん」
女の娘は、中学生らしい。
それでも精神年齢は低そうだ。
「では、話だけでも聞きましょうか」
ほうかさんは、優しく微笑む。




