日常
どうしようかともう少しあれこれ回収するような話しにしようかと思っていましたが、こうなりました。いつもよりは五千字以上なので少し長めです。どうぞ。
二学期も次の長期休みへ向けて後半の日時を過ごしはじめた休日。リビングには母・小春と娘のサクそして友人でありもうすっかり家族として認識されている菊池がお茶請けを食べながら思い思いの飲み物を飲んで楽しくおしゃべりをしていた。
平日の朝に菊池がこの家で朝ご飯を食べていることはあるものの、休日にこうして訪れることは実は数えるほどで、実は珍しいことでもある。
普段相談をしたり、買い物で困ったりすると、サクの母親である小春へ連絡しては頼っていることはサクもミノルも知っていた。
一度菊池の大物洗いをしたい、つまり寝具を洗いたいという話が合った時などは、小春が車を出してミノルも力仕事の応援として呼ばれたこともある。
そんな菊池まで何かを手伝ってもらうでもなくこの家でこの家の母と娘と楽しんでいるのには、ある理由があった。
「どんな方なのか」
と菊池が言うと、
「そうだね。実はまだ本人に聞いたこと無かったんだよね」
とサクが言う。
「どういう感じのお嬢さんですかって?」
と小春が訊ねる。
「いや、そんな風に兄に聞かないけれどさ。たとえばさ」
「うん、たとえば?」
「その、”どんな感じの相手の人なの?”とかさ。・・・・・・ってか、母さん」
「なに?」
「結構落ち着いているけれど、何で?」
「何でって。そりゃ楽しみだし、ウキウキわくわくしてるよ」
「そう?」
「そうよ。ただ、ほら今私たちお茶請けに殻付きの豆食べているじゃない」
「まぁね」
「確かに、無心になって殻を取って中の豆を食べてしまいますよね」
「そうそう」
「まるでカニ食べているみたいだね」
「そうね。そうそう、まさにそう」
と三人共会話をしながらも殻をむき中の豆を食べることをしていく。飲み物を飲むのが水泳の息継ぎのように何回かに一回、飲み物を飲むような感じで食べ進んでいっているのである。
「いけないわね。これくらいにしておかないと」
手についた殻と実の間にある薄茶色の厚みの少ない包の欠片を払い、殻の山を作るようにして一か所に集まる。
その小春の行動に、「もう?」と言いつつも手元に寄せている豆を食べ終わると、サクも母親がしたように手を払ってから殻で山を作っていく。
サクがそうして終わった頃には、菊池も殻で山を築き終っていた。
「食べたね」
とサクがいうと、
「ふふふ。つい食べちゃうのよね」
「そうですね。ひとりでだとここまでではないにしろ。同じようにもくもくと食べ進めちゃうものですよね」
「たしかに」
「ええ、そうね」
豆の殻は硬くて再利用される方もいらっしゃるのだろうが、生憎彼ら三人にはその再利用の仕方が思い浮かばなかったので、ゴミ箱に捨てられていった。
母親がゴミ箱に捨ててから、そのゴミ箱を持って、サクのところへ移動し、捨てさせて、そして菊池のところへ移動しサクと同じように捨てさせた。
一同連れだって洗面台のところへ行き、手を洗う。
まるで学生のようにわいわいきゃいきゃいしている彼らの耳に、家のチャイムの音が聞こえてきた。
一気に彼らの目は見開き、
「き、来た!」
「ええ、お出迎えお出迎え!」
「落ち着いてください。二人ともしっかり手を拭いて」
「ああ、そうだった」
「ごめん、出て」
「はい」
こうして菊池が玄関のチャイムへと室内から応答する。
通話ボタンをして、「はい、どちら様ですか?」とたずねながら、モニターに映るサクの兄ミノルの姿とその後ろに女性の姿が見えるのを確認する。
「その、俺だけど。帰ってきたらチャイムを鳴らせって言ってたからチャイム鳴らしたけれど、何で俺の案内で家に入れちゃいけないの?」
「それにつきましては、小春さんにお尋ねください」
「もう、まったく。入るよ」
「ええ、ええ。今只今用意しますので」
「なんの用意が必要なの?」
「まぁまぁ。あ!もう用意できますので、もう少しだけ、ああ、ではお願いします!」
菊池とミノルがモニター越しに会話している間に、小春とサクが手を拭いて身なりを整えてから、玄関の上がり間口で二人並んでお出迎えの準備をしていた。
ミノルが玄関を開けると、小春とサク、そして菊池が出迎えに並んでいた。菊池は猫を抱いている。
そしてミノルはとにもかくにもと初めて連れてくる付き合い始めてまだ日の浅い彼女となった鈴木を、玄関の中に招き入れた。
「ごめん、お待たせ。入って入って」
「は、はい」
珍しく鈴木も緊張しているようで、返事の声のトーンがほんのわずかに上に上がっていて可愛らしい声音になった。
そのことに恥ずかしくなって顔を赤くしている。それをミノルを大丈夫なのか見つめながら、中に入るように促す。
ミノルの家族に対面する形となって、鈴木も背筋を伸ばす気持ちで姿勢を正し、まっすぐ相手を見る。
ミノルが玄関扉を閉め終わって、鈴木に紹介し始めた。
「こっちが母親の小春って言って、その隣が妹のサク。ひとつ下の学年で同じ学校に通っているんだ。そして猫を抱いているのが、我が家で朝食を食べて学校に俺たち兄弟を通うようになった菊池勝」
ミノルに紹介された家族などは頭を下げて「はじめまして」と挨拶をしている。鈴木も「はじめまして」と明るく挨拶を交わす。
「それで、こちらが今日初めて家に呼んだお付き合いさせていただいている彼女の鈴木さんです」
「ご紹介に預かりましたお付き合いをさせていただいている鈴木ことみです。どうぞ、よろしくお願い申し上げます」
「こちらこそ。末永く宜しくお願い申し上げます。ささ、どうぞ。お上がり下さいませ」
「うん、上がって」
「ありがとう」
ミノルの勧めに鈴木も答えて、上がっていく。母親は来客用のスリッパを出して鈴木に履かせた。そうして彼女が整うと、リビングへと案内する。
「ここが我が家のリビングです」
「ありがとうございます」
鈴木が小春へ紙袋を差し出す。
「これ、よかったらみなさんで食べてください」
「まぁ、そんな気を使っていただいて。申し訳ありません」
「いえいえ。母の実家では柑橘類が有名で、そのお菓子になります」
「まぁまぁ、美味しいそうね。さっきまで豆食べていたのに、お腹が鳴りそうです」
「ふふふ」
「ははは」
そんな二人のやりとりの間にミノルも二人の傍に来て、訊いた。
「あの大袋の豆とうとう出して食べたの?」
「そう、さっきまで。三人で」
「カニを食べるみたいに無心になるねって話しをしていたところだったんですよ」
「いいですね。豆」
「良かったら食べます?」
「いいんですか?」
「ええ、もちろん。ミノルあなたのお部屋で過ごすのでしょう。部屋に飲み物と一緒に持って行ってあげ・・・・・・自分自身で用意してあげた方が良いかしら?」
「うん、俺がやるから。母さんたちはさっきの続きでリビングで映画でも観ながら寛いでいてよ。すこし勉強も見てもらうんだ。まずは部屋に案内するから、こっち」
「はい。それでは失礼いたします」
「ええ、ええ。どうぞごゆっくり」
という母親の斜め後ろで菊池と並んでサクが小さな声で「ごゆっくり」と声を掛けて頭をちょこんと下げた。菊池もその横で丁寧に「ごゆっくり」と頭を下げている。
鈴木は二人の噂を思い出していたが、そのことは口に出さずにミノルの後を追って二階に上がっていった。
ミノルの案内した部屋にはローテーブルは普段畳んでしまっているが、それを出して彼女にクッションを渡して、
「これ、はい。好きなようにどうぞ座って」
と促す。クッションを持った彼女はミノルの部屋を隅々まで眺めて言う。
「中学の部屋の模様替えそのままでいくつか断捨離してここまで来ましたって感じね」
「うっ。確かにそういわれると・・・・・・あってるけれども」
学習机にベッドは中学生からの物でクローゼットは備え付けのもので変えられるものじゃない。棚もいくつか整理整頓したりしていてあの頃の物もいくつか手放して残した物は押し入れとこの棚に入っている。棚は百四十五センチくらいの高さで横幅が段ボール二つ分くらいの両手広げたサイズくらいだろうか。そこに漫画や小説。学校関連のテキストなども置いてある。小物を入れている引き出しがボックスになっていてそれがすっぽり棚の一段の半分に納まるのでそれを入れている。
棚が机と同じ色をしている。ベッドも同じ木目のわかる色をしている。その小物入れのケースは白なので目立つ。
「なんか自分の部屋に対して言うのもなんだけれど、あまり面白みがない部屋でごめんね」
「そんなことないわ。あなたがどうしてそれだけ真っ直ぐな性格なのか分かったわ」
「なにそれ」
「いいのこっちのこと」
「もう。なんだか恥ずかしいから、俺飲み物と豆だっけ、取りに行ってくるよ」
「わかった」
「そこらへんの漫画でも小説でもゲームでもいいけれど、見て待ってて」
「うん、いってらっしゃい」
「うん」
ミノルが部屋を出ると、鈴木は本棚の本が何を買って読んだのかを眺めていく。2.5次元アイドルのDVDの隣にはほのぼの系の四コマ漫画が置いてあり、その隣にはアニメの絵コンテが本になって売られていたものが棚に納まっていた。数冊の絵本の他に現代物の小説もある。辞書と辞典そして学校の教科書などが入っている。
現代物の小説を手に取ってあらすじを読む。
「映画になったのだ」
その小説を棚に戻して、今度は四コマ漫画を見た。
鈴木は普段あまりこういった物を読まないが、人気のキャラクターとしてニュースに取り上げられているのは知っているキャラクターの四コマだったので、興味を惹かれてどういったものを描いているのか確認して見たくなった。
帯に”メンタルにちょっとダメージがある働くあなたにもぴったり”と謳われている。実際に読んでみると、空気を察して自分のもやもやを表現できなかったり、行動を遠慮してしまっている中で、先輩に怒られて落ち込んでいる仲間を慰めているシーンがあった。
内に貯めこんでいる思いの言語化が多くて、私には手に負えないと言って、さらに仲間を連れてきて聞いてあげて、仲間でまた一緒に頑張ろうと励ましていた。
「なんて実直で優しい世界。すこしシュールで風刺的でもあるわ」
鈴木はこの四コマ漫画が気に入って、集中して読み始めた。
その頃一階では父正美がミノルを抱きしめていた。
「よくやった。こういうことどうなるか父さんドキドキしていて心配だったんだ。嬉しい。自分とも向き合う時間でもあるからね、お付き合いは。転んでもけんかしても仲直りできる関係を築いていくんだよ」
「わ、わかったから。離して。これ用意したの持っていきたいから」
「わかった。わかった。よしよし」
そんな父と息子の様子に母も妹も菊池も笑っている。猫も鳴いている。
菊池が聞く。
「どちらからの告白だったのですか?」
するとミノルは、飲み物や豆とほかのお菓子を乗せたトレーを持って移動して、リビングを出る前に答えた。
「彼女からだよ」
一瞬の間が合ってから、彼ら家族は驚いて、「わーぉ!」や「きゃー!」と楽し気にリアクションを取ってキャッキャしていた。
「恥ずかしいなぁ、もう。でも、仲直りできる仲か。本当にそうなるといいなぁ」
階段を上がっていくミノルの表情は爽やかな笑顔が浮かんでいた。
「お待たせ」
「あ、ありがとう」
「うううん。どうぞ。それからこれがさっき言ってた豆だよ」
「わーありがとう」
「どういたしまして。喉潤して、小腹満たしてから取り掛かろう」
「ええ。この四コマ漫画面白いね」
「そうだろう。落ち込んだときとか、なんだかなぁって時とかに読むと、ジーンと来てさ。結局手放せなくて、今もある。中学上がってすぐに購入したはず」
「そうなんだ。確かに、この話を呼んだんだけれど」
「ああ、それ、いいよね」
「本当はみんなこれくらい話を聞いて欲しいんだろうなぁって思ったわ」
「うん、俺も。だから大人たちはああして平日の夜、飲食店で同僚や先輩に付き合って話を聞いてもらったり聞いてたりするんだなぁって思った」
「ははははは。なにそれ。もうその頃からそんなことに対して理解を深めていたの。この漫画を読んで」
そういって笑顔を見せる鈴木に、ミノルはホッとした。なんだか、自分の内側を認められた気がして安心したし嬉しくなった。
お互いの読む雑誌や漫画、そして小説を教え合い。視聴する動画や番組についても話をしていた。
予定していた勉強が終る頃には、夕方になっていた。
「もう、こんな時間」
「送るよ」
「うん」
身支度を整えると、階下に降りる。
映画を観ている家族に挨拶をしてお暇をすると伝えて別れを告げる。
見送りに行く息子に連絡するように伝える母親は、見送って、
「また来てね!」
と鈴木をいつでも歓迎していることを伝えた。
鈴木も嬉しそうに「そうします。是非」と伝えた。
彼女と二人玄関を出て、送っていく息子の背中が少し大きく見えたような気がした小春だった。
「彼女に感謝だね」
付き合うことで自分の息子も大きくなってきていた。自立や自律した大人へと成長していくのだ。
猫がそっと小春の足元に寄り添って、鳴く。
猫の身体ももうすっかり大人のサイズだ。
小春は目じりを指で拭うと、猫を抱きあげてリビングの家族のもとに帰った。
娘のサクも菊池も高校一年生になったばかりの頃に比べれば逞しくなってきた。
嬉しくなった小春は、猫を抱いたまま、夫の正美の横に座り、寄り添った。
正美は、そんな妻を抱きしめて、「うーん!」と体をしならせつつ伸びをするような声を出してほほ笑んだ。
小春はまるで猫みたいだと思って笑った。
思ったよりもごく普通に繰り広げられているだろう姿を描きました。日常に溶け込んでいっているでしょうか、この終わり方。あなたもあなたの日常に戻りやすい状態に体が整っていると幸いです。読後感など感想ありましたら、お手柔らかな伝え方で宜しくお願いします。
ああ、やっと一本の長編描けた!!目的が長編小説描いて完了させることだったので、感無量です。
まだ何かある気がするけれど、まずはひと安心。ここまで読んでくださりありがとうございます。また長編こうして描き終えられるように頑張りますので、どうぞ、その時も宜しくお願い申し上げます。
では、また。




