第5話 セシリアの罪
やっと来た。
やっとやっと、この時が。ずっとずっと、待ち望んでいた。
長かった——いいえ、そんなことは言えない。言える資格なんてない。これまでの日々、生かされ続けた時間。生きていることもまた罪。だけど死ぬことも罪。
みんなが私を責める。
疎み、嫌悪し、憎み、蔑み、罵り——そして、敬う。
私を殺したいと思った人間が、この世界にどのくらいいるのだろう。私を殺してやると言った人間が、一体どのくらいいたのだろう。
死んでいいなら、いつでも死ねる。心から喜んで逝けるのに。
けれど、だめ。
私が死ねば、あの方を裏切ってしまう。あの方の優しさを、救いを、慈悲を。交わした約束を、破ってしまう。
それは、だめ。
これ以上あの方を傷つけることなど、できない。
だから私は生かされている。誰も——私自身でさえも——私を殺せない。あの方のご意志に背くことになるから。あの方は、私が自ら死ぬことも、自らを傷つけることも、誰かが私を害することも、決してできぬよう、私を「そういう立場」にお命じになった。
それはきっと、あの日の私を憐れんでのことだったのだろう。
三年前。
目の前でシエルが肉塊になっていく様を見た私は、正気を失った。
駆けつけた大人たちに皇宮へ連れ帰られた私は、無我夢中で皇帝と皇后の御前へ駆け寄り、護身用に忍ばせていた短刀で自分自身を切り刻んだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい——」
言葉を発するたびに、血が飛ぶ。手を、足を、身体を、短刀の届く範囲を滅茶苦茶に切り、刺し、裂く。兵士たちが取り押さえようと近づくと、短刀を振りかざして叫んだ。
「来ないで。来るなら、その剣で私を切って。殺して、殺してよ——!」
血塗れの少女の狂気に、大人たちは硬直した。
足りない。こんな痛みじゃ足りない。
シエル。シエル。
私が、シエルを——大好きな、あの人を、私が——。
どうしよう。どうしたらいい。わからない、ごめんなさい、わからない。
シエルシエルシエル——
「眠れ」
低く艶やかな声が、謁見の間に凛と響いた。
その瞬間、視界が暗くなった。声も、痛みも、血の匂いも、全部が遠のいて——意識は静かに、闇に溶けた。




