……というわけで、今に至る。
◇
……というわけで、今に至る。
「それで、どうするの?」
「どうするも何も、こいつを外さないとどうにもならないだろ」
絆の問い掛けに対して、呈は手錠を示しながらそう言った。これがある限り、彼らは常時行動を共にしなければならない。契が戻ってくれば外せるのだろうが、それまでは離れることが出来ないのだ。
「……とりあえず、着替えたいんだけど」
「出来るものならやってみろ。袖がフラフープ並みに伸びるぞ」
学校帰りなので制服姿の二人。私服に着替えようにも、袖が腕を抜けないので、服を破くか強引に引き伸ばすしか方法がない。そもそも、お互い相手に生着替えを晒すことになるが。
「じゃあ、トイレは?」
「我慢しろ」
「えぇ……今、少し催してるのに」
「一、我慢する。二、垂れ流す。三、一緒にトイレ」
「何で三択形式?」
「他にどうしろって言うんだ?」
そんなくだらないコントをするくらいには、彼らもまだまだ余裕であった。険悪だろうとブランクがあろうと、やっぱり幼馴染だからな。
「じゃあ、とりあえずアニメを消化するか」
「うん」
そのほうが、お互いに気を遣わなくて済むし。という台詞は、伏せておいた。お互いに。
◇
……そんなわけで、二人は並んでソファに座り、アニメ鑑賞をすることに。
「……うっ」
「どうした?」
「ううん、なんでもない……」
しかしながら。本日のアニメは、絆には少々刺激が強すぎたようだ。先日のようなサービスシーンこそないが、流血シーンはかなり多い。今だって、主人公が敵を一人切り捨てたところだ。
「にしても、今回は割と地味だな」
「え……? け、結構血とか出てるけど」
「いつもは序盤でばったばったと死んでる」
「えぇ……」
呈の話を聞いて、絆は青ざめていた。……自分の趣味に合わないアニメは見ててもつまらないし、こういう場合は寧ろ苦痛だろう。そんな絆に、呈は訝るような表情になって、こう問い掛けた。
「……お前、ほんとに俺の好きなアニメを見てたのか?」
「み、見てたけど……こんなの、見たことないし」
「はぁ……多分、姉貴から情報を得てたんだろ? だったら、お前が苦手そうな作品は教えてないんだろうな。敢えて」
「そ、そうだったんだ……」
呈の姉である誠は、絆のことを随分と気遣っていたようだ。故に、彼女の負担になるようなことは避けたのだろう。それが、今回は裏目に出たわけだが。
「……ったく。仕方ないな」
呈は渋々、テレビの電源を切った。この状態では、絆だけ出て行くわけにもいかないからな。
「ご、ごめん……」
「謝るんなら、我慢して見るか?」
「うっ……」
申し訳なさそうな絆に対して、呈は相変わらず冷たかった。……っていうか、いい加減仲直りしてやれよ。絆が可哀想になってきた。
「……とはいえ、これでやることもなくなったし、どうするか」
手持ち無沙汰になった呈は、リモコンを放り出しながらそう呟いた。他に見れるアニメもなく、出来ることがなくなったのだろう。ゲーム機の類もあるにはあるが、二人でプレイ出来るものはない。トランプは大人数でないと面白くないし、そもそも絆と二人で遊ぶという案は最初から除外しているのだった。
「……ねえ、喉が渇いたんだけど」
「水なら自分で汲めよ」
「じゃなくて、移動したいって言ってるの」
「へいへい」
とりあえず、水分補給のために台所へと向かうのだった。
◇
……折角台所に来たのだからと、そのままおやつタイムに突入した。
「う~ん。九月とはいえ、まだまだ暑いから、アイスがおいしいよね~」
アイスバーをペロペロしながら、絆はそんなことを言った。融けかけた部分を口に含んで噛み千切り、氷入りの麦茶で流し込む。……そんなことしてると、腹壊すぞ。
「もう少し上品に食えよ」
「えぇ? 呈君って、そういうこと言うようになったの?」
「馬鹿。お前が手を動かすと、こっちも振り回されるんだ。その辺ちゃんと考えろ」
一方の呈は、麦茶(氷なし)を飲むだけだった。これならば、繋がれていない右手だけで事足りるからだろう。っていうか、絆が強引に右手も使ってるから、呈の左手に手錠の跡がついてかなり痛そうだ。
「ご、ごめ―――んっ……!」
「ん?」
謝罪しながらもアイスを完食した絆は、突然お腹を押さえ始めた。……まさか。
「どうした?」
「お、お腹が、痛い……」
腹を抱え、腹痛を訴える絆。……ほれみろ、言わんこっちゃない。冷たい物の食べすぎで、見事に腹を壊しているじゃないか。
「なら、とっととトイレに行け」
「い、今の状態、分かってるの……?」
「……そういうお前こそ、もう少し考えて食えよ。さっき催してるとか言ってただろ」
「ご、ごめん……」
責めたところで、この絶望的な状況は変わらない。この歳でお漏らしなど、それも小便ではなく大便となれば、契レベルの変態でもなければ御免被りたいところだ。
「仕方ないな……トイレ行くか」
「えぇ……?」
あまりに切羽詰っているのか、青ざめながら震えている絆。しかしこの非常事態でも、トイレへ行くのは躊躇いがあるらしい。……まあ、この状態では呈もついてくることになるからな。年頃の女の子なら―――というか、普通の女性は嫌がるだろう。
「なら漏らすか? そしたらお前のことは「妖怪糞っ垂れ女」と呼ぶぞ」
「……意地悪」
「自業自得だ」
そんなわけで、二人は急遽、トイレへダッシュすることになった。
「み、見えてない……?」
「ああ」
「ほ、本当に……?」
「早くしてくれ。腕が辛い」
「う、うん……」
そういうわけで、彼らはトイレに駆け込んだ。と言っても、呈は左手だけだったが。要するに、呈が左手だけをトイレに突っ込み、手錠による制約からどうにか逃れているのだ。
「あ、あれ……?」
「どうした?」
「ス、スカートのホックがうまく外れなくて……」
しかし、手錠で繋がれていることに変わりはない。利き手が自由に使えず、また腹痛のせいで手が震えて、スカートがうまく脱げない絆。
「手伝おうか?」
「止めて! っていうかもっと手をこっちに!」
「それ以上入れたら中が見えるんだが」
ここのトイレの扉は、内側から見て右側に蝶番がある。この場合、左手だけを中に入れるには、体を扉側に向けるか、扉の外側に背中を合わせるしかない。しかし、後者では肩が扉に挟まってしまう。故に、無理に左手を押し込もうとすれば、体がトイレの内側を向いてしまうのだ。早い話が、トイレの中が見えてしまう。
「ああもう! 漏れるぅ!」
「掃除はちゃんとしてくれよ」
「あああ!」
結局。絆はどうにか、お漏らしだけは回避したのだった。




