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女の子(ペット)を飼います  作者: 恵/.
第四話 幼馴染と再会です
41/46

「そんなことないよ。清く正しく、欲望には忠実に、どこまでも貪欲であれ、だよ」


  ◇



 ……夜。


「……はぁ」

 益田家の風呂場にて。絆はお湯に浸かりながら、落ち込んだように溜息を吐いた。

「……私、魅力ないのかな?」

 呟くのは、不安の言葉。昼間、呈が放った言葉に、彼女は不安を覚えていたのだ。……彼女のことを、恋愛対象としては見ていない、と。

「……これでも、スタイルには自信あったんだけどな」

 自らの豊かな体に手を触れながら、絆はそう嘆く。同世代、いや大人からすら羨まれるそのボディも、彼女の願いを叶えてはくれない。その手助けにもならないのだ。……姉の誠もグラマーだったから、その反動でロリコンなのでは? とも疑ったが、幼女も恋愛対象外と言っていたので、それはないだろう。或いは、もっと奥ゆかしいのが好みなのかもしれないが、契も除外されていた。要するに、単純に体型がどうとかという話ではないのだろう。

「……呈君」

 思い浮かべるのは、幼馴染の顔。―――絆は当初、彼の「ペット」になることで、男性恐怖症を克服しようとしていた。そしてその上で、あわよくば、彼をモノにしようとも考えていた。……その行為は、場合によっては契を貶めることになる。彼女を「ペット」の立場から追い出しかねない。いや、寧ろそうしてやりたかった。

「……呈君。大好きだよ」

 だって、彼が目を向けるのは自分だけで十分だから。他の女を見て欲しくないから。例えそれが、親切な友人であっても。

「……はぁ」

 だが、その企みは呆気なく潰えそうだった。何せ、呈の「ペット」というのは想像以上に過酷だったのだ。暴力は勿論、汚水を飲まされるなど、人間としての尊厳を奪われてしまうようなことさえ要求される。さすがにそこまでは想定していなかった。……というか、契の変態さが底なしだった。

「……やっぱ、自業自得だったのかな?」

 そうでなくとも、呈自身が絆を許しておらず、受け入れてもらえなかった。調教内容がハードでなくても、どの道計画は破綻していたのだ。

「……はぁ」

 結局、呈との関係は険悪なまま。前途多難で、意気消沈するしかない絆であった。



 ……その頃、契は。


「……ふぅ」

 偶然にも、彼女も入浴中であった。ただしこちらは、全身の力を抜き、リラックスしているが。

「……明日は、どうやろうかな?」

 呈と絆の仲を取り持つため、色々と画策している契。そのための作戦を練っているようだった。

「とりあえず、明日のお昼かな? 後、放課後は……と」

 計画は順調、細工は流々。後は実行に移して、二人の親密度を上げるだけだった。

「鹿山さんにはメールで話をつけたし、場合によっては結にもフォローしてもらうとして……うん、いい感じ」

 翌日の予定も完璧なようで、契は楽しそうに微笑むのだった。



  ◇



 ……翌日。


「今日は一年生たちはいないのか?」

「はい」

 昼休み。中庭での昼食会は、呈、契、絆の三人だけ。結や虚露はいなかった。……まあ、昨日が特殊だったんだが。

「さ、どうぞ」

 契はそう言って、ベンチの端っこに陣取った。

「……」

「えっと……」

 一見するとなんでもないようなこの行動。実は、契の作戦であった。こうすることで、残る呈と絆が自動的に隣同士になるのだ。地味だが、強引に距離を詰められる、画期的な方法だった。

「どうしたんですか?」

「いや……」

「た、食べよっか……」

 そんな意図が見え透いていて、やや消極的な呈と絆。とはいえ、逆らうほど抵抗があるわけでもないのか、そのまま座った。契の隣に呈で、契とは反対側に絆の配置だ。

「ご主人様、絆ちゃん、どうぞ」

 呈たちは箸と弁当を渡されて、食事を始める。……作戦スタートだな。

「……」

「……」

 隣り合わせで気まずいのか、無言で食べ続けている呈と絆。そんな彼らを見て、契はただ微笑むだけだった。



  ◇



「……ふぅ」

 食事を終えて。呈は気が抜けたように溜息を吐いた。相当きつかったようだな。

「……契」

「はい?」

「……いや、なんでもない」

 そのことに対して文句でも言おうとしたのか、呈は契の名を呼んだ。しかし、それはお門違いだと思ったのか、結局何も言わない。

「……はふ」

 一方の絆は、何かが飽和したかのような声を上げて、熱を帯びた顔に手を当てていた。……こっちは違う意味できつかったようだな。

「……先に戻るからな」

「はい、ご主人様」

 教室へ戻る主を見送り、契は昼食の後片付けを始めた。弁当箱と箸を仕舞っていく。

「……ねえ、契ちゃん」

「何?」

 そんな彼女に、絆はそっと話しかけた。そして、躊躇いながらも、何かを問い質そうとする。

「もしかして、さっきのって―――」

「絆ちゃんとご主人様、お似合いだと思うの」

「……え?」

 絆の言わんとするところを察して、契は遮るようにそう言う。呆気に取られる彼女に構わず、契はこう続けた。

「絆ちゃんとご主人様は、とってもお似合いだよ。だから、私、応援してるの」

「契ちゃん……」

 彼女の言葉に、絆は感激したように瞳を潤ませる。

「頑張ってね。私も全力でサポートするから。ご主人様と仲直りして、そのまま正妻ポジションゲットだよ」

「せ、正妻……! い、いや、それはさすがに急だと思うよ……」

「そんなことないよ。清く正しく、欲望には忠実に、どこまでも貪欲であれ、だよ」

「そ、それは誰の名言なの……?」

「今考えたの」

「そ、そう……」

 なんとも契らしい声援に、絆は苦笑するしかなかった。



  ◇



 ……放課後。


「……で、これは一体どういう状況なんだ?」

「え、えっと、私も何がなんだか……」

 益田家にて。呈と絆は、互いの腕を手錠で繋がれていた。呈の左手と絆の右手が、手錠によって結ばれている。これが運命の赤い糸ならばロマンティックなのだろうが、生憎と無骨な鎖ではそうも思えなかった。

「ったく、契の奴……面倒なことをしてくれやがって」

「……今回ばかりは、ちょっと同意」

 鎖をジャラジャラ鳴らしながら、彼らは揃って溜息を吐いた。……そもそも、何故こうなったのかと言えば、それは数十分前まで遡る。



  ◆



「ご主人様、絆ちゃん」

 帰宅した呈たちと共に、益田家に入ってきた契。いつもの調教が始まるのかと思っていたのだが、今日は少し違っていた。

「どうした?」

「なあに?」

「二人にお話があるんです」

 改まった様子の契は、呈たちにそっと近づいた。そして二人の手を取り―――手錠を嵌めた。

「……は?」

「……え?」

 突然の行動に、呈も絆も素っ頓狂な声を上げた。というか、他にリアクションが取れなかったのだ。状況を飲み込めず、完全に硬直していたのだから。

「そういうわけで、ごゆっくり。あ、私は手錠の鍵を取りに行きますね」

 彼らが呆然としている間に、契はさっさと部屋から―――というか、家から出て行ってしまった。まるで脱兎の如く。……逃げ足速いな、おい。

「……」

「……」

 そして、残されたのは呈と絆の二人だけ。しかも、手錠で繋がれた状態で。……何の罰ゲームだよ、と叫びたくなる呈であった。

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