【第一章】第1話『アルゼバブの使徒』
ーー死んだのか?
ボクの脳裏にはその一言が咄嗟に浮かんだ。
そして脳はそれを処理することを咄嗟に拒んだ。
目の前の光景が余りに信じたくない物だったからだ。
「ヒバリ……逃げてェ……!」
胴体が半分となった彼女は血塗れのままボクの名を呼んだ。
その彼女の後ろには機械仕掛けの巨体がダイヤモンドで作製された大剣を肩に担いでいる。
ーーそしてその巨体は何も言わずにその大剣を大きく振り上げ……
『やめろォォォォ!!!』
気づけばボクは必死に叫んでいた。
しかし現実は叫び声の一つで変わる物ではない。
理解している。
彼女はトドメを刺された。
「は……はぁ…………!」
泣き崩れて気付けばボクは変な吐息を出していた。
(レアン……!どうして……!"絶対"二人で一緒に旅に出ようって決めたじゃないか……!)
村の近くに咲く綺麗に生い茂る花畑でボク達は約束したじゃないか……
そんなボクの回想なんて知らぬ様に機械仕掛けの巨体はボクの方を向いてきていた。
【--死ぬ】
その言葉が頭を反芻するが、それを振り切りボクは手に剣を握った。
この剣は村に代々伝わる秘宝の剣【エア・ライン】。
(やるしかないッ!)
ボクは剣を顔の中心に持ってきて目を瞑る。
そして剣を巨体へ向けて力を込めた。
すると、目の前に巨大な竜巻が巻き起こる。
「や、やったか!?」
しかし、すぐさま竜巻の奥をよく見ると奴の姿がない。
(ーー速い!)
嫌な予感がした。
ボクは即振り返り魔力を身体の前面に集中させ剣でガードの構えを取った。
予想通り奴はボクの前に現れた。
ーーそして
『ガキンッ!!』
剣と身体に大きな振動が来る。
気付けばボクは村の周りにある囲いの岩に嵌まっていた。
どうやら奴の攻撃を受けてここまで吹き飛んだらしい。
そしてもうダメだと悟る。
ーー身体が動かない。
血の味が口に広がっている。
身体は激痛。
「ーー神様」
ボクは無意識に神へと助けを求めていた。
《あの幼馴染を取り戻したいか?》
脳裏に低い男の声が響く。
もしかして神様?
半信半疑のままボクは応答をする。
「はい……」
《よろしい。では、チカラを授けよう》
《ただし条件がある》
「……条件?」
《勇者の代わりに大魔王を倒せ》
「勇者の代わり?それって……?」
《勇者は大魔王に勝てない。"大魔王サーガスーク"にな。私には未来が見えるのだ。だからお前が倒すんだ》
「でも……」
《安心しろ。そのためのチカラだ。そしてお前はあの刺されて死んだ幼馴染を取り戻したいと思っている》
「はい」
《大魔王を倒せば蘇らせてやると言ったらどうだ?》
「ーー全力で『大魔王討伐』に向かいます!」
《では。このチカラを授けよう》
【固有魔法:恐怖星墜】
「こ、固有魔法!?」
ボクは固有魔法の希少性を知っている。
『唯一性を持つ魔術』
《さぁ。この邪魔な岩も、お前の惨めなその体たらくも。全て取り除こうか》
その神様の台詞の後、ボクの体は軽くなり身体の自由を奪っていた岩壁が崩壊した。
地面に着地しボクはまた脳裏に声を聞く。
《機械仕掛けの巨体。名を"アルゼバブの使徒"。
今のお前なら倒せるだろう》
その神様の言葉でボクは奴を……"アルゼバブの使徒"を倒せるという自信が出る。
「ーーはい!見てて下さい神様!」
ふと前の方を見ると使徒はボクを探す仕草をしていた。
相変わらず身体は大きく全長25mはあるだろうか。
使徒はボクを見つけたらしく顔をこちらに向けてきた。
そして瞬時に音速の速さで迫ってくる。
(村で戦う訳にはいかないっ!)
ボクは咄嗟の判断で剣を振るう。
(暴風で飛んでこっちも音速を出すッ!)
ボクは剣から出た暴風を使いさっきレアンがやられた場所まで音速で移動。
もちろん奴も付いてきた。
そして、レアンの死体の前にボクは立つ。
死体の奥は灰色の岩壁。
そしてボクの目の前には草原が広がりその奥に今来たばかりの使徒が居る。
(ーー怖いっ!)
恐怖で身体が金縛りにあったような感覚に陥った。
ーーでも、ここでボクが死んだらもうレアンを蘇らせてあげられないっ!
【大魔王サーガスーク】を倒せない!
やるしかないっ!!
「《恐怖星墜》!!」
恐怖はチカラとなりそれは【クリアな球体】となった。
巨大な球体が村の外の草原で使徒を音速で襲う。
使徒は悲痛な爆音を立て崩れ去り、辺りの木々は殆ど吹き飛び地面が爆風で抉られる。
(村の外で良かった……)
壊滅した使徒を目の前にボクはホッと息をついた。
そして一言。
「……神様。助けてくれて、ありがとうございます……!ボク、絶対に取り戻します」
青空の奥から視線を感じた。
「ッ!!」
どうやら魔力を使い過ぎたみたいだ。
地面に身体が倒れる音を聞いてボクの目の前は真っ暗になった。




