I wanna testify(すべて理解しました、とってもギルティです)
「ここは……私達のベースキャンプがあった場所?」
南雲皐月の目の前には、無残にも踏みつぶされ、ぐちゃぐちゃになったテントや炊事場の姿が広がっている。そしてハンスもまた仲間の姿を探してみたものの、どこにもそれらしい存在は確認できない。
ただ、彼女達の立っている場所から奥の方へ300メートル進んだ場所、その一帯は天井や壁、床が崩れ、岩盤や石壁が散乱しているのが見える。
そしてそれだけではなく、一か所だけ血だまりのようなものが広がっているのを南雲は発見した。
『よし、よし、俺は無事だ。そして邪魔するものは存在しない。未知の存在から受け取ったプレート、これだけでも十分な戦果となるのだが、この女を連れて帰れば、俺は幹部昇進間違いない!!』
ニイッと下卑た笑みを浮かべつつ、ハンスが南雲の腕をギリッと掴もうと手を伸ばす。
この女は未知の存在とのコンタクトに成功している、そして大切なメッセージを受け取っている。
このような存在、情報は我々が独占するのが当然であり、それを成功させる事が出来るのは俺だけ。
そんな事を考えつつ手を伸ばしたものの、ハンスの目の前には一匹の猫が立ち止まっている。
『ふぅ。ようやく解放されましたよ。ということで、あなたは危険人物ですので、とっとと排除させていただきます。にゃんと奥義・記憶封印っ』
――スパァァァン
ケット・シーのアスカを見て驚いた表情のハンスの額めがけて、アスカが軽くジャンプして肉球掌底を叩き込む。その瞬間、彼の額にスタンプのように押し付けられた術式文様が彼の記憶を封印していく。
『ふむふむ……都合のいいのは、この異変が発生した後の部分のみを封印……と。ありゃ、この魔力波長は弥生様ではないですか。マイロード、ご機嫌麗しゅう」
ハンスの記憶を封印処理している最中、高周波で飛んで来た弥生の魔力を敏感な髭で感知。
すぐさま念話で挨拶を始めるアスカだが。
『ご機嫌は最悪っていうところね。それで、念話が途切れていたけれど、どこかに封じ込められたの?』
「はい、その通りでございます。話せば長くなりますが、護衛対象の南雲さまとドイツの秘密結社が一人、私の元にいらっしゃいます。それで、ご到着はどれぐらいで?」
――シュンッ
そうアスカが問いかけると、一瞬で弥生が真横に転移してくる。
「今、だね。ファミリア・テレポートをつかえば契約している召喚獣の元に転移出来る事ぐらい知っているでしょうが」
「ああっ、それは失念していました」
アスカと弥生がそんな会話をしているのを、南雲は少し離れた場所で困惑しながら眺めていた。
〇 〇 〇 〇 〇
「ふう。つまり、アスカは南雲さんの影の中に封じ込められたまま、どこかに連れ去られたっていう事なのね。それで、ここで縛られた状態なのに偉そうな顔をしているのが、ドイツの諜報員ハンス。そしてハンスと南雲さんの二人は、どこかに連れ去られて何か情報を得たという事で間違いはないかしら?」
迷宮調査中、アスカから念話を受けた私は使い魔の元へ転移する術式を使用、一瞬でアスカの元に到着したのだけれど。どうにもアスカの説明だけじゃ状況は確認できない。
とりあえず逃げようとしていたドイツ人をふん縛って近くに放置、南雲さんに近くに来るように声を掛けると、そのまま状況確認をする為に聞き取り調査を行う事にした。
「はい。私とそちらの外国の人は、アペフチカムイという方の力で迷宮の奥へと引っ張られていきまして……」
そこから、彼女は自身の体験したことをすべて話してくれた。
そして最後に、懐から小さな三角形のプレートを取り出して私に提示してくれたので、それを恐る恐る受け取ってみる。
『ふむ。メッセンジャープレートか。星のマナを感じるが』
「え、トラペスティさん、これを読めるのですか?」
書き込まれている文字配列は、私の翻訳スキルでも解読不能なもの。
それを触れるだけで読み取れるだなんて。
『魔力波長を文字配列に組み替えているだけだ。魔力で読み取れ』
「おおう、そんな初歩的な事でしたか」
そう考えた後、プレートに魔力を注ぎ込んで返って来る抵抗値を文字配列パターンに組み替えます。
そりゃあもう、何十万パターンの配列を私の理解出来る言葉に変換するなんて、久しぶりの高難易度ですよ。
「……はぁ。なるほど。南雲さん、先程のあなたから聞いた情報の全てが、ここに刻み込まれていますよ。そして……やっぱり干渉していたのかぁ」
プレートの波長、そのたった一か所に魔族言語の圧縮プログラムが組み込まれていましたよ。
これ、私じゃなきゃ見逃していますよ。
こんな『よく知った魔力波長』なんて。
『弥生ちゃん、真魔族が地球に侵攻してくるので、頑張って守ってねん♡』
「あ、あのあばずれサキュバスがぁぁぁぁぁぁ。もっと詳しい情報を残しなさいよ」
そう叫んだところで、夜魔キスリーラがここに来る訳でもなく。
兎にも角にも、この地球全域に広がっている迷宮騒動の陰にキスリーラが存在している事は理解出来ました。そして、その未曾有の大ピンチの保険としても、南雲さんの能力は必要になって来る事でしょう。
「あ、あの、さっきから色々と大変そうですけれど、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫じゃなくなっちゃった。ということで、南雲さん、このプレートについては私が預かってもいいかしら?」
「はい、それは構いませんけれど……あの、私たちが進化する必要って、世界が危機に陥るのを防ぐ為、なのでしょうか?」
南雲さんもアペフチカムイから話を聞いている。
つまり、それが事実なのかを確認するために、私に問い掛けて来たのでしょう。
ここは隠し立てしても仕方がありませんので、速やかに説明した方がよさそうですね。
「そうね、世界の危機、それをどうにかする為には地球人類全てが進化する必要があるっていう事だと思うわ。この件については、私も防衛省に持ち帰って検討してもらいます。後は国連も巻き込んだ方がいいかな……という事で、真実を知ってしまった南雲さんは、今まで以上にピンチになる可能性がありますので……手を貸してもらえる?」
そう問い掛けつつ右手を差し出します。
「手……ですか?」
「ええ。貴方を守る力を貸してあげるわ」
差し出された右手を掴むと、ゆっくりと契約譲渡を始めます。
「七織の魔導師が誓願します。我が配下にある猫妖精・アスカの契約譲渡を開始します。契約後の必要魔力は私より、魔力伝達によって行います……契約譲渡!!」
――ヒュゥンッ
私の契約していたケット・シーのアスカ。その契約主を私から南雲皐月へと譲渡しました。
彼女の右手の甲には、綺麗なピンク色の肉球マークが浮かび上がっています。
「え、あの、これは?」
「私が契約していたケット・シーの契約文様ね。それをあなたに譲渡したので、これからは身の危険を察知したときはアスカが助けてくれるわ」
そう説明すると、南雲さんの目の前にアスカがシュタッと飛んできました。
「初めまして、フロイライン・サツキ。私はアスカと申します、コンゴトモ、ヨロシクオネガイシマス」
うんうん、丁寧な騎士調の挨拶。
でも、最後のほうはカタカナっぽい発音だったのはどうして?
「か、可愛い~、え、この子が私のボディガードですか。初めまして、アスカさん、よろしくお願いします」
「はい。お任せください。私の事については、迷宮調査の際に能力が目覚めたとでも説明していただけると幸いです」
「そうですね、テイマーという事にしておきましょうね」
うん、それでいいと思うよ。
そしてアスカと契約した事で、彼女の体内の魔力回路がかなり活性化しているようだから。
これ、ひょっとしていけるかも?
「さて、それじゃあ南雲さん、あなたの本来の能力についてだけれど、ちょっと実地訓練も兼ねて色々と教えてあげるわ。だから、私にも手を貸してくれるかしら?」
「あ、はい、私でよろしければ」
それじゃあ、彼女の能力がほぼ解放されてしまった事ですし、使い方のレクチャーも兼ねて。
先程殺されてしまったユーチューバーの『完全修復』でも実践してみましょうか。
私の見立てでは、彼女単体での完全修復はまだきつそうですけれど、私がサポートすればいけそうですからね。





