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魚の杜の巫女  作者: 楡 依雫
水鏡篇
133/263

百二、姶良と相良

 宮の面々は、時記(ときふさ)の着替えが終わり次第水鏡(みずかがみ)の前から一旦離れた。大王(おおきみ)従者(ずさ)が既に来ていた為だ。

 巫王(ふおう)は機が悪くて申し訳無い、と謝ったが、大王は少しでも話せた事が嬉しい様だ。

「では、また明晩に」

 大王は、正装の(みお)と時記を言祝(ことほ)いでから出て行った。其の間に、杜の女御館(おなみたち)で焼いた餅が食われて居るとも知らず。

 真耶佳(まやか)はいつもよりゆっくりと大王が滞在したのが嬉しかったらしく、顔を綻ばせて居る。そんな真耶佳を見て、澪と時記も笑い顔を合わせるのだ。

 そして水鏡の前に戻る。不意に側女(そばめ)達の中には水鏡が使える者は居無いのか、と巫王から聞かれて、真耶佳、澪、時記の三人は顔を見合わせた。

「多分、姶良(あいら)相良(さがら)が使えます」

 すると後ろから月葉(つくは)が、従姉妹同士だと云う二人の名を出して来た。

 物は試しと二人を呼べば、萎縮し乍ら遣って来る。妙なものが見える事が有るでしょう、と。月葉に聞かれると、二人共おずおずと頷いた。

「真耶佳さまに向かって来る、黒い針とか…」

「いつも二人で話してるんです」

「お前達のお喋りは、其れだったのですね」

 納得が行った様子の月葉に、そんな事は初めて聞いた真耶佳は驚く。

「見えて居たのね…!」

 知己を得た、とでも言いたげな真耶佳に、月葉がひとつ咳払いをした。仕事中のお喋りは、月葉に取っては歓迎出来ない事だからだ。

 けれど、見えるのは有り難い。真耶佳は咎める気など無い様だし、今回は不問にしようと月葉は言った。

 此の宮の主は、飽くまで真耶佳なのだから。




 兎に角、水鏡を覗かせてみろ。そう急かす巫王に、真耶佳と澪は二人を映した。

「私達が見えるかね?」

 巫王の問い掛けに、姶良も相良も頷く。

「本当に、お美しい方ばかりの(うから)なのですね…!」

「真耶佳さまのお父様、と妹姫(おとひめ)君…?澪さまの姉姫(えひめ)君…?と其の(つま)君…?」

 特段美しいとも言えない二人が、嘆息を漏らし乍ら口々に言った。

「そうよ、真耶佳の同母(いろ)の妹姫で、澪の姉姫、亜耶と云うの。其れから父と、私の夫」

 努めて明るく応えた亜耶は、巫王に任せない方が良いと判断したのだろう。巫王が応えるより先に水鏡の向こうで笑って見せた。

「此れで、真耶佳の子生みの時も安心ね。月葉は一緒に産屋(うぶや)に入って仕舞うし、澪は産屋の前から動かないわ」

 既に闇見(くらみ)して居るのだろう亜耶は、本当に安堵した様だ。

「宜しくね、姶良、相良」

「は、はい…!」

「忠を持って務めさせて頂きます…!」

 真耶佳を慕う二人だ、任せられる。亜耶はそう見たらしく、更に艶然と微笑んだ。

 其れからふと真顔に戻った亜耶は、月葉だけれど…と口にした。すると、二人の顔にさっと緊張が走る。

「私の乳兄弟(ちのと)なの。言葉尻はきついけれど、悪気は無いわ」

 誤解しないで上げてね、と亜耶は優しく微笑んだ。二人は顔を見合わせた後、勿論、と答える。

「誰よりも、真耶佳さまへの忠に厚い方です」

「月葉さまの事は、尊敬して居ります」

「そう、良かった」

 後ろでは月葉が所在なさげに視線を泳がせて居る。きっと、側女は皆自分を恐れている、と思って居たのだろう。

 年開けて未だ十六の月葉には、人を使う術に長けていない。其れを、側女の方も察し始めたのだろう。宮内は穏やかである様だ。

 ただ少し、此の姶良と相良はお喋りの機会が多い。喬音(たかね)が敢えて二人を分けて仕事を割り振って居るのは、亜耶も見えて居た。

 月葉の頭に有るのは、少し注意を促すだけ。大事にならない様で、亜耶は安堵した。

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