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魚の杜の巫女  作者: 楡 依雫
水鏡篇
131/263

百、巫覡の赤子と只人の赤子

 大王(おおきみ)は、明日も来られない事を先ず詫びた。そして、真耶佳(まやか)と共に(くりや)の夕餉を堪能する。

 其処に(みお)が来て、大王からの贈り物を身に着けて笑って見せた。

「流石、我が妹姫(おとひめ)よ。思った通り、よく似合う。赤子を抱いた姿も、美しき物よ」

 大王は嬉しげな声を上げ、也耶(やや)をも褒める。也耶は幼くして巫覡(かんなぎ)だ。其れも有るのだろうが、気を遣っている様に見える、との言葉を頂いた。

「也耶は夜も、余り泣かないのです」

「そうか、吾子(あこ)が生まれたら騒がしくなるだろうて」

 真耶佳の様子は、一見順調だ。宴の折には十月目(とつきめ)を迎えるが、今から腹がぼこぼこと動いている。

「そうね、澪には大変な思いをさせるかも知れないわ」

 真耶佳も巫覡で無い我が子の誕生を、少し心配して居た。曰く、也耶の様に大人しい赤子では無いだろうと。

「真耶佳さまの為です。覚悟はして居ります」

 澪の健気な笑顔に、真耶佳は有り難う、と言う。共に寝座(じんざ)に眠る時記(ときふさ)にも、迷惑を掛けると真耶佳は予想して居る様だ。

「気にすることは無いよ。其れが赤子の在るべき姿だからね」

 時記が相変わらず穏やかに言って、真耶佳と大王を安堵させる。そして、巫王(ふおう)の到来に思いを馳せ、皆が心置きなく笑った。

 (いお)(もり)では、巫王は早馬で来ると言っている。亜耶の子生みに間に合わせる為だ。亜耶の子も巫覡だと云うから、大人しいのだろう。也耶はまた、亜耶の元に乳を貰いに行くかも知れない。

「まあ、亜耶の元に?もう行っているの?」

「ええ、幾度か」

 微笑ましいわね、と真耶佳は笑う。今宵の魚の杜は微笑ましくなど無いのだが、其れは態々大王に知らせる内容では無い。

「亜耶さまは今宵、お義父様の御館(みたち)に泊まられるそうです」

「そう…」

 少し顔を顰めた真耶佳は、亜耶の身を案じて居る様だった。




 夕餉が終わると、大王は欠伸をして居た。早朝から祈りを捧げたのだ、疲れていても無理は無い。

 そして、明日は元始祭だ。大王の疲労は溜まるばかりだろう。

「大王、今宵はもう休みましょうか」

 真耶佳が提案すると、大王も否とは言わなかった。時記の呼んだ異世火(ことよび)で温まったのか、大王は早々に側女(そばめ)に退出を命じる。

「今宵は慌ただしくて、済まなかった」

 労いの言葉に、側女達も恐縮し乍ら退出して行った。そして、毎夜の習慣になった也耶への可愛がりもそこそこに、大王は真耶佳と共に閨へと入る。側に火瓶(ひがめ)を置いた月葉(つくは)が静かに守人となり、夜は更けていった。

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