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魚の杜の巫女  作者: 楡 依雫
水鏡篇
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八十七、勢揃い

明けましてお目出度う御座います。

今年も宜しくお願い致します。

 水鏡(みずかがみ)が揺れる。亜耶は朝餉を終えた所で、其れに気付いた。

「まあ、皆勢揃いで…」

 向こう側には、(みお)月葉(つくは)真耶佳(まやか)時記(ときふさ)が居る。勿論、澪は也耶(やや)を抱いて。

「昨日まで、澪が月の忌屋(いみや)に居たの。其れで皆、調子が狂って仕舞って」

 真耶佳が笑い乍ら言う。皆の中には当然大王(おおきみ)も含まれて居るのが、亜耶には分かった。

「澪はそちらでも、愛されて居るわね」

「ええ、(あかとき)(きみ)からも愛され姫と言われたわ」

 そうなの、と亜耶は面白く笑う。澪は恐れ多いと言うが、そう云う性質(たち)なのだ。諦めるしか無い。

「そうだ、澪。今度の子が、真耶佳の子を支える子よ」

 心して置いてね。そう言うと、澪は慌てた様子を見せた。如何したのかと亜耶が思うと、時記が顔を背けている。

「亜耶さま、私もう孕んだのですか!?」

 澪の言葉に、月葉がうふっと声を出して口元を領巾(ひれ)で覆う。亜耶は、時記が目を逸らした理由は此れか、と笑った。

「澪、未だよ。妹背(いもせ)の事をそんなに(つまび)らかにしないで」

「あ…」

 時記は、既に片手で顔を覆って居る。澪は自分の言った意味に気付いた様で、今更真っ赤な茹で蛸になって居た。

 流石に不憫になったのだろう、真耶佳が話を逸らして来る。

「ねえ、婆には也耶の姿を見せた?」

「見せたわ。大喜びだったわよ」

 亜耶は、婆に時記と澪に愛される也耶の像を見せた。婆は目を見開いて、何て可愛い、と感涙して居たのだ。

 そして、まだ誰にも漏らしてはならないと前置きをしつつ、次の子の予定もそっと耳打ちした。湯殿(ゆどの)の女達は、婆が何にそんなに歓喜しているのかと不思議そうだった。

「きっと、婆はまた産着を沢山繕うわ」

「婆は本当に、澪達が可愛いのだものね」

 真耶佳と亜耶は、婆の猫可愛がりを間近で見た身だ。婆は季節が違うから、と孕み着も沢山繕うだろうと盛り上がる。

「其れから時記兄様に、正装以外も繕うと言っていたわ」

「え、良いのかい?なら澪と共布にして欲しいな」

「元より婆は、その積もりよ。也耶のお(くる)みも共布と言って居たわ」

 大王から賜った揃いの(きぬ)に、大きく心を動かされた婆が鼻息を荒くして居た。そう明かすと、やっと時記も笑う。

「私も、大蛇(おろと)と同じ生地の上衣(かみぎぬ)を貰ったわ」

「じゃあ黒?目出度(めでた)い席には着けられないね」

「ええ、でも(とて)も暖かいの」

 気付けば真耶佳が振った話題なのに、真耶佳が弾かれている。亜耶は真耶佳に、大王に繕っても失礼にならないのは何か、と婆が気にして居たのを話す。

「暁の王に繕う物…何かしら…?衣は、専門の者が居るから…」

「婆の為に、訊いて置いて」

 分かったわ、と真耶佳が頷いた。月葉にも婆は繕いたがっているのだが、そう云えば月葉の衣は何処から調達したのか。

「私の衣は、婆の義娘(むすめ)の訓練用ですわ」

「婆の義娘は、もうそんなに綺麗に繕うの…!」

「ええ、従兄の(いも)なのですけれど、婆の教えをきちんと受けて居ますから」

 私も一揃え、頼んで見ようかしら。亜耶がそう言い出すと、月葉は其れを止めた。

「婆は、未だ暫くは王族の衣を繕いたいのですよ」

 亜耶さまも、婆の猫可愛がりの対象です。月葉の口から聞くと、妙に説得力が有る。

「分かったわ。では月葉は、何を繕って貰う?」

「暖かい肌着が良いです。此方は寒くて…」

 婆の腕が鳴るわね、と亜耶は応じた。婆は兎に角、湯殿の管理と針を動かす事が楽しいのだ。皆から得た収穫に、亜耶は礼を言った。

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