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魚の杜の巫女  作者: 楡 依雫
水鏡篇
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八十六、約束

 宮に居無い二晩の間に、何が有ったのか。側女(そばめ)は甲斐甲斐しいし、夕餉も豪勢だ。時記(ときふさ)(みお)の側を離れたがらず、真耶佳(まやか)月葉(つくは)はずっと也耶(やや)を構って居る。

「也耶が居無くて、淋しい思いをさせて仕舞ったのでしょうか…?」

 澪が導き出した結論は、其れだった。居無くて淋しいの対象に、自分は入っていない。

「也耶だけじゃ無いわ。澪も此の宮でどんなに皆を和ませて呉れて居たか、切に感じたのよ」

「わっ、私もですか」

大王(おおきみ)も、一晩目は熱でも出したかと狼狽されて…」

「月葉の元気の無い様子も、(あかとき)(きみ)にそう思わせたのよ」

 思って居たより、話が入り組んでいる。澪と也耶が出迎えに出ず、月葉が元気なく出迎えをした。すると大王は、澪と也耶が熱でも出したかと慌てた。其の順で良いのだろうか。

「私共も、普段よりは静かにして仕舞ったかと…」

 各務(かがみ)が言い出すと、喬音(たかね)が、淋しかったからつい、と続けた。

「私も寝座(じんざ)が広過ぎて、余り眠れて居無いよ、澪、也耶」

 時記がいつも通り、澪の髪を撫でて言う。優しい微笑みは、待って居たと雄弁に語っていた。

「今日は大王のお出迎えが出来ますね、澪さま」

「暁の王は、寝る前に時記兄様と澪を見て、也耶を愛でたいのよ」

 澪には初耳の、大王の習慣。恐れ多い、としか言えない。

「澪さま、也耶さまはお預かりしますから、お腹いっぱい食べて下さいね」

 唯一也耶を泣かせず抱き続けられる喬音が、酷く生き生きした笑顔で言う。澪さまの食べる姿は、心地良いのです、と付け加えて。

 そう言われれば、二晩振りの食事だ。忘れて居た腹の虫がぐうぐうと鳴き出す。一同が其れに笑って、宮は漸く普段の賑やかな時を取り戻した。




 暫くして大王が訪れ、澪と也耶の姿に目を細める。

「漸く帰ったな」

「二晩も留守にして…」

 否、良い。大王はそう澪を制した。皆が澪と也耶の愛しきに気付いた二晩だった、と言って。澪は、頭を下げる事しか出来無い。

 亜耶の闇見した通りに孕めば、また暫く月の忌みは無くなる。澪は其れを願って、大王の前を辞した。時記は大王に呼び止められ、澪は也耶と共に乳母の間に戻る。

 寝座での寝かし付けが、心地良いのだろうか。也耶は寝座の隅、壁の間際で直ぐに寝入って仕舞った。二晩お包みでは、体が痛かったのかも知れない。

「よく寝なさいな、也耶」

 優しい声でそう言うと、也耶が手を閉じたり開いたりする。眠って居るのに、返事をしているのだろうか。良い子、と頭を撫で、澪は寝座の上に座って時記を待った。

「也耶は眠ったかい?」

 時を置かず時記は戻り、優しく也耶の様子を確認する。

「二晩お(くる)みでは、苦しかった様で…襁褓(むつ)はきちんと替えて居たんですけど」

「其れもそうだね」

 時記が、澪の横に座った。以前した発言を、時記が覚えて居るかと澪の心の臓は早鐘を打っている。困らせて下さい、などと言って仕舞ったのだから。

「澪、約束の時は今夜で良い?」

「はい…」

 遣り取りは、其れだけだった。時記が澪の身を押し延べて、覆い被さる。ぎゅっと目を瞑った侭の澪が可愛くて、時記は両目に口づけを落とした。

「怖い事なんて、何も無いよ」

 言葉と共に、澪の胸紐と腰紐が解かれた。薄く目を開けた澪は、異世火(ことよび)に照らされて妖艶に笑う時記を見た。

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