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魚の杜の巫女  作者: 楡 依雫
水鏡篇
107/263

七十六、宴の衣

 真耶佳(まやか)の宮には、年明けの宴の衣装が届けられていた。真耶佳には后しか纏う事を許されぬ薄紫の(きぬ)と濃紫の裳、領巾(ひれ)までも紫だ。

 光沢の有る生地は、()(くに)との交易で得た物と想像される。無地に柄を凹凸の有る織り込んだ生地は、高価だった事だろう。

 月葉(つくは)には、后に付き添うに相応しい白い衣に、紅の裳。領巾は透けた紅で、此方も上品だ。此れで黄金の髪を持つ月葉が(まなじり)(あけ)を入れるのだから、見る者を威圧するだろう。

 時記(ときふさ)には巫覡(かんなぎ)と分かる様、白い衣と袴、赤い脚結(あゆい)と云う一見すると普段と変わらぬ物が届いた。しかし生地は此方も柄を織り込んで有り、大変美しい。

「こんなに美しい衣が孕み着だなんて…」

「真耶佳さま、大きい分には直せます。ご心配は要らないのでは?」

「そうね、宴が終わったら、(あかとき)(きみ)に頼んで見ましょう」

 あら、と大王(おおきみ)からの衣装を検めていた側女(そばめ)が声を上げる。何かを見付けた様だ。

如何(どう)したの?」

「一番下に、もう一揃い…(みお)さまの分ですね」

「此れを着て、待って居なさいと云う事でしょうか?」

 違うわよ、と真耶佳が肩を震わせ乍ら領巾で口元を押さえている。既視感。月葉を見れば、同じ様な反応だ。

「暁の王は、澪にも衣を贈りたかったのよ」

 ほら、衣は時記兄様の白い地と同じ布だわ、と真耶佳が指さす。裳は茜色で、領巾は同じ茜で二度染めをした物の様だった。澪だけが衣を貰えないと云う状況を、大王は避けたかったらしい。

「私、こんな上等な物を頂いて良いのでしょうか…」

「澪さまの柘榴石と良く合います。其れを思ってお選び下さったのでは?」

 無駄にする方が申し訳無い。そんな調子で喬音(たかね)が言う。其の通りだわ、とは真耶佳の弁だ。

 其れでは、と澪が衣を持ち上げると、裳と同じ色の何かが落ちた。

「澪さま、也耶さまの分も有りましたわ」

 良く見ると其れは、肩に掛けて使う様に出来たお包みだ。赤子を乗せる部分がだいぶ大きく作られているので、結構な月齢になっても使えそうな物。

「暁の王ったら…」

 真耶佳は幸せな笑いが隠せなくなったらしく、和やかにお包みを手にした。

「澪さまのお子で此れでは、真耶佳さまのお子が生まれたら…」

 月葉が笑い乍ら言うと、側女達もうんうんと頷いている。

「でも私、暁の王のそう云う所も好きよ。妹姫(おとひめ)にも、其の子にも、なんて忠実(まめ)じゃない」

 その上しかも、澪の分は時記と揃いの生地で仕立てると云う心遣い。気が利くと云うか、余程真耶佳の周囲を良く見ているのだろう。根底に有るのは、真耶佳への愛。そう思うと、(とて)も温かい贈り物に思える。

「真耶佳さま、愛されていますね。そして私達の事も、愛して下さっている。大王から、真耶佳さまの愛する者達への、計らいでしょう」

「そう云われると、照れるわ…」

 少し頬を染めた真耶佳が、紫の衣を手繰り寄せる。慌てて側女が、畳みます、と受け取った。皺にしてはいけないからだ。

 悪戯を咎められた子供の様な真耶佳に、宮は(すこぶ)る和んだ。

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