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蝿の女王  作者: 黒塔真実
第四章、『神へと至る道』
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23、悲しみに微笑んで② 

(この作戦が終わったら、カーマイン様に話をしよう)


 密かに心を決めたクィーンは、


「かしこまりました」


 とにかくカーマインの命令にすべて頷くことにした。


「良いか? 今回の一番の目的はNo.5と親密になることだ。徹底的に接待して好感度を上げてこい」


「最大限、努力いたします」


(色じかけは無理でも、友達ぐらいにはなれるかもしれない)


「できればNo.3のようにお前の為なら何でもするぐらいに夢中させるのが理想だが、最低でも大幹部会議で票を合わせて貰える程度には心を掴むのだ」


 この前の大幹部会議での失敗を受けてのブルーへの接近命令なので、投票要員確保が一番の目的なのは分かっていたが。


(カーマイン様はグレイ様を、そんな都合の良い存在として捉えていたのか……)


 さすがに失礼過ぎるんじゃないかとクィーンは思った。


「ついでにせっかくの機会なので『宮殿』見学をし、第一支部をしっかり偵察してくるのだ」


「おおせのままに」


「では、もうゆけ」


「はっ」


 素早く指示に従い身を翻したクィーンは、廊下に出た瞬間、はーっと溜め息をつきながらこめかみを抑えた。

 神経を使い過ぎて頭が痛くなっていたのだ。

 と、扉の外で待っていたメリーに目を止めると、腕を差し出しながら先に大事なお願いをしておく。

 

「ローズのお小言はもうお腹いっぱいなので、しばらくはブラック・ローズに触れないでね?」


 メリーは肩に乗ってきながら「でも」と言った。


「クィーンも気がついていると思うけど、私っ、すっかりローズの意識と同調するようになってるの。

 だから、もう剣に触れなくてもローズの言葉が聞き取れるし、それどころか時々意識を乗っとられているみたい」


(……確かに、まるで憑依されているように見える時があった……)


「だとしたら、ローズにお願いするわ。頭痛がするから今夜はもうお説教は勘弁してちょうだい」


「仕方がないわね。わかったわ」


 メリーの口からローズのお許しを得たクィーンは、次に報告の為に第三支部に向かった。

 やや緊張しながら扉を開くと、書類を片付けながらグレイが一人で待っていた。


「クィーン、作戦会議はどうだった?」


 よほど気になっていたらしく、クィーンが機密室に入ったそばから立ち上がって質問してくる。


「はい」


 返事をしながら歩いて行くクィーンにグレイも近づき、


「話はいつものように隣室に移動して聞こう」


 先に立って幹部室へ入っていく。

 クィーンはグレイと並んで長椅子に座ると、作戦会議の内容を簡単に説明した上で強調する。


「あくまでも私は撤退を手伝う役目ですので、危険はないかと思います」

  

 作戦が失敗した場合に限って、聖鎌使い討伐の役目を担うことはあえて省略した。


「クィーン、君の能力については信頼しているが相手は聖鎌使いだ。くれぐれも警戒し、慎重にことに当たってくれ……」

 

「はい、グレイ様。万が一にも失敗なきよう、さっそく明日から、作戦決行前の下準備として情報収集したいと思います」


 実際の明日のメインは、側近二人の同行を避けた理由――約束したものの延び延びになっていたブルーとのデートなのだが、グレイの前では口が裂けても言えない。


「そうか――」


 だから続けて何か言いかけたグレイに先んじてクィーンは断りを入れる。


「ローズの助言も参考にしたいので、今回の作戦が終わるまでメリー人形にずっと付き添って貰う予定です」


 クィーンの意思を感じ取ったらしいメリーも「任せて下さい!」と肩の上で跳ねてアピールする。


「では、安心できるな。ローズなら色んな意味で、君が危険に陥るような事態を避けてくれるだろうから」


 そういう面でのグレイのローズへの信頼は厚いらしい。


「はい、私もそう思います。では、グレイ様。数日ほど留守にしますが、心配しないで待っていて下さい」


「……数日か……」


 それでも心配らしいグレイは、すっ、と手を伸ばし、クィーンの腰の魔剣に触れながら頭を下げた。


「ローズ、頼む。どうかクィーンを守ってくれ」


(グレイ様が、ローズにお願いした!)


「わかったわ。任せておいて、とローズが言っているわ」


 メリー人形が力強く答え、グレイは祈りを込めるようにブラック・ローズを握った。


「では、私は、明日に備えて帰って寝ます」


 最大の難関であったグレイへの報告を終えることができたクィーンはほっとしながら立ち上がった。

 とはいえ、ブルーとの待ち合わせ時間は3時間後。


(少しでも寝なくては)


 焦って思いつつ、第三支部のエントランス経由で侯爵家に直帰すると、急いで人間姿に戻ってベッドに入る。

 そして並んで横になるメリーに「おやすみ」を言い、寝初めていくらも経たない頃だった。

 眠りの浅いアリスは、


「誰っ!?」


 急に室内に人の気配を感じて飛び起きる。

 枕元で寝ていたメリーも「きゃっ」と悲鳴をあげて目を覚ました。

 見ると薄暗闇の中、ベッドの傍に立った自分が自分を見下ろしている。


「指示通り来たわよ」


「アリスがもう一人いる!」


 驚くメリーとは違い、一瞬で状況を理解したアリスは、溜め息をつきながらもう一人の自分に挨拶した。


「おはようリリア。わざわざ早い時間にありがとう」


 今日から作戦決行までの数日、アリス役を務めて貰う約束をしていたのだ。

 

「あら、ちょっと、早すぎたかしら?」


「ええ、2時間半ほどね」


「だって、待ちきれなかったんだもの、あなたの代役って結構楽しいから。ずっと代わっていてもいいぐらい」


 本人にしてみたらさほど楽しくない生活なのだが、リリアにとってはそうなのだろう。

 とにかく、相変わらず鏡に映したような寸分たがわぬ見事な変身ぶりだ。

 二回目なので安心してアリス役を任せることができる。


「では、よろしく頼むわ」

 

 とりあえず二人のアリスが部屋にいてはまずいので、早々にクィーンに変身してアジトへ移動することにした。

 幸い、アメリア帝国とは時差があるので、ブルーは起きてる時間帯だ。

 そう思ってカードを飛ばしてみると、すぐに『No.5の間で待っている』という返信がきた。


 いつかのようにNo.5の間の扉はノックしたとたん自動で開き、クィーンの目の前に神秘的な青の空間が現れる。

 その中央にあるテーブル席についたブルーは、グラスを片手にクィーンを手招きする。

 

「やあ、クィーン、座って。まずは話そう」


「ええ」


 座る席を指定するように勝手に椅子が動き、クィーンは一瞬躊躇ってからカーマインの命令を思い出し、ブルーの隣に腰を下ろす。


「クィーンも一杯どう?」


 椅子を寄せてきたブルーが、気やすくクィーンの肩に手を乗せながら訊いてくる。


「私、お酒は飲めないの」


「そうなんだ」


 残念そうな表情で言うと、ブルーはグラスをぐいっとあおり、ほっと頬をゆるませた。


「そうそう、朗報があるんだ。先刻は時間がなくて話せなかったけど」


「というと?」


 ブルーは整った顔に喜色を浮かべた。


「なんと、No.4の魔力が段々減っているんだ」


「確かなことなの?」


 No.4には怪我を治して貰った恩がある。

 興味を引かれたクィーンは、無意識にブルーの方へ身を乗り出した。


「うん、正しく言うと、以前から減り続けていたみたいだ。気のせいかもしれないと思ったけど、どうやらここ最近の魔力の総量を見ると間違いないらしい。出会った時と比べると最低2割は少なくなっている」


 ブルーは異能で他人の魔力量を感知できるのだ。


「2割も?」


(アニメにはそんな要素は出てこなかったのに)


「ああ、理由は分からないけれどね。このまま減り続けていけば、遅かれ早かれ四天王から降格させられただろう。今回俺が聖鎌使いを倒してそれを早める形かな」


「そうね。そういう状況なら聖鎌使いを倒せば、あなたは確実にNo.4と入れ替わり、四天王入りできるでしょうね」


「そうさ、新四天王ブルーの誕生さ」


 ただし、それは本当に倒せればの話だ。

 アニメの聖鎌使いは最終決戦の終盤まで生き残り、黄昏城の奥にあるNo.1の間まで到達したのだ。

 そんなに簡単に殺せるような甘い相手ではないように思えた。


「そうしたら、結婚しようか、クィーン?」


 ブルーは真っ青な瞳をまっすぐ向けて甘やかに囁くと、肩を抱く手に力を込め、さっとクィーンに顔に近づけてきた。

 ――しかし、二人の唇が出会うことはなかった。

 顔と顔の間に一体の人形が、ぬっ、と割り込んできたからだ。

 瞬間、ブルーが驚いて身をのけぞらせる。


「えっ、何、これ、人形がっ、動いている!」


 当然そうなるだろうと予想していたクィーンは苦笑いした。


「紹介が遅れたけれど、私の付き添いのメリー人形よ」


 グレイの期待を背負ったローズと一体化したメリー人形が、ブルーにビシッと指を尽き立てる。


「乙女の唇を断りもなくいきなり奪おうとするなんて、あなた最低よっ! と、ローズが言っているわ」


もしも少しでも面白いと思って手頂けましたら、ブクマや感想、下↓の星を押して評価をして下さると非常に執筆の励みになり助かります。

どうぞよろしくお願い致します!


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