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非魔法少女主義!  作者: ミサキ
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8/14

phase8

 集合時間ギリギリにジェミニシティへ到着すると、制服姿の紗都と圷が入り口付近でじゃれ合っていた。

 紫城学園の校則に制服で寄り道をするなといった記載はない。そんなもんがあったら、そこにいる優等生様が率先して守るだろう。

 最終的に自分で参加を決めたとはいえ、学校から連なって行く気はちっとも起きなかった。日常的問題として、少々始末の悪いヤツが一緒だからだ。

「あ~」

 紗都と戯れていた相手が俺の来着に気づく。

 学校内ではもれなく紗都にセットで付いてくる女子。圷はゆるふわと言えば聞こえのいい無造作ヘアーを、さらに崩しながら俺へと近づいて来る。

 途中何もないところで躓き、歩いてるんだか走ってるんだか識別しにくい速度で目の前へ到達すると、

「ポカポカポカポカ」

 密室に閉じ込められたヤツが壁でも叩くように、アホっぽい効果音をつけながら俺の胸をグーで殴り出した。

「なんで獅井名くんが来ちゃうのですか~」

 痛くも痒くもないが、どうしてこう俺の周りにゃイタいヤツが多いのかねえ。

 多少の気恥ずかしさを潜めつつ、

「涼司はまだ来てないのか」

 俺は圷の頭越しに紗都へ問い掛ける。

「まだみたいね」

 答えた紗都の表情が、うちの子がスイマセン的な顔になってるのは気のせいではないはずだ。

「ポカポカポカポカっ」

 涼司の野郎、俺に遅刻すんなと言っときながら何をやってんだか。『もし自分の身に何か起きても、チケットは必ず届けるさ!』とまで言い切ってやがったのに。

「むう。この~、ポカポカポカポカポカっ」

 仕方ねえ、電話してみるか……って、

「何がしてえんだよ、お前は」

 俺の顔の下で抗い続ける寝ぐせっぽい頭に言う。

「麻輝奈を無視するからなのです。眞取ちゃんは獅井名くんに渡さないのですよ?」

 圷はのんびりとした動きとマッチするおっとり声で、的外れな意思を表明してくる。

「じゃ、九千八百円にまけといてやるよ」

「むう……。定価がおいくら万円なのか、と~っても気になるのです」

 こいつも金で転ぶタイプかよ。

「私、あなたの商品になった覚えはないけど」

 圷の後ろから紗都が否定の意見を述べると、

「むっ。そうですそうです、眞取ちゃんは売り物じゃありませんから~」

 そりゃそうだ。

 鳴世よりさらに大きなモノを二つ抱えたのほほん娘は、アヒル口を尖らせると眠たそうな目を逆三角形に変えて俺をねめつけてくる。

 涼司もそんな口をして俺を見てたが、こいつからも何も感じやしねえな。

「顔~」

 何だ?

「麻輝奈のハネハネヘアーを見て、こいつ寝ぐせ凄いな~、ちゃんと鏡見てんのかよ~って浮かべてる顔なのです」

 それを言うならもっと前だろ。こいつの周りは時間の流れが遅れてるんじゃねえのか? 早回しすると言葉もちゃんと聞こえてくる気がするぜ。

「完成するまでに一時間以上もかかるのですから~」

 もう一時間かけりゃ、まともに近づきそうだがな。

 紗都の身長を少し下回ったおとぼけ少女は、とにかく何もかもがスローなヤツだ。アンバランスな部位が重すぎるせいで鈍いってわけでもねえだろうに。

 圷は黒ブレザーのポケットから小さな熊のぬいぐるみを引っぱり出し、

「クマノスケからも何か言ってあげてくださいなのです」

 今度は何だよ。

 物言わぬ熊に語りかけると、俺の顔の前へそいつを突き付け、

「オイ、テメェ! 麻輝奈をバカにしてんのか? あんま調子こいてっと許さねえぞオラァ!」

 すげえ巻き舌で囃し立てた。

「聞いてんのかよ、オイ!」

 熊人形が口を利き始めたわけではなく、圷の口も動いていたため腹話術って芸当でもない。

 マジでおかしなヤツばっかだぜ……。

 俺は紗都に早く引き取れといった目線を送った。

「圷ちゃん、おいで」

 呼びかけられると圷はゆら~っとしながら動きだし、紗都の左腕へ絡みつく。

 まるで、飼い主とペットだな。

 この圷も俺と紗都の仲を誤解する数少ない一人だ。どちらかというと俺の一方通行な想いと見てる節があり、余計に混乱を招きそうなので普段はなるべくかかわらないようにしていた。

 紗都はどこら辺がフィーリングが合うのやら、懐かれてることは苦じゃないみたいだが。

 それはそうと、涼司が姿を現さない。あいつの家はこの近辺だから、そう時間はかからないはずだ。

 しびれを切らせ、俺がスマートフォンに手を伸ばしたときだ。

「ああ~」

 圷のスローな一言に誘導され、俺は後方に目をやる。

 涼……司の顔したヤツが、端然たる女子制服姿で凝立していた。

 あいつが女装すりゃ見た目はこうなるんだろうが、その佇まいはどっかのお嬢様にでも見えてくるほどだ。

「獅井名さんでよろしいでしょうか?」

「ああ、そうだ」

 顔が名刺代わりとばかりに名乗ることもせず、

「兄がいつもお世話になっております」

 まっすぐな長い髪が地面に着くんじゃないかと思うほど、ご丁寧に頭を深く下げてみせた。

 目にするのは三度目、か。この妹も参加者ってことなのか?

 上げた涼司顔に思わず目が止まる。

 特徴的なアシンメトリーの前髪が、妙に大人っぽさを演出していた。兄妹でこうも違うのか、という気品さえ備わってる気がする。双子らしいから似てるのは当たり前だが、酷似レベルに不気味さをも感じてくるぜ。

「涼司はどうした。遅れて来るのか?」

 それなら電話の一本寄こせば済むはずだが――。

「申し訳ありません。兄は体調を崩してここへ来ることができません。代わりにわたくしがこれを」

 御堂妹は、涼司の欠席理由と共に入場チケットを差し出してきた。

 あいつ、自分の言葉通りになっちまったっていうのかよ。

 しかし涼司が来ないとなると、俺が来た表向きの理由は薄まってしまう気もしてくる。

 俺の参加意欲が減退していったところで、紗都が歩み寄って来た。

「初めまして。御堂くんと同じクラスの眞取紗都と言います」

「兄から伺っております。本人も楽しみにしていたようですが、皆さんで楽しんでくださいとのことです」

「具合、相当悪いんですか?」

「いえ。熱が下がれば大丈夫だと、本人も申しておりますので」

「そうですか……」

「あの、代わりと言うのもおかしな話ですが、よろしければわたくしも参加させていただけないでしょうか。せめて兄に土産話の一つでも持ち帰りたいと思いまして」

「ぜひ、どうぞ。私は一向に構わないので」

 答えた紗都の視線が俺に移される。

「麻輝奈は全然オーケーなのです」

 紗都にくっついたままの圷が、自分にも表決権があるとばかりに賛同を示した。

 双子妹は、さてあなた次第でございます、みたいな表情で英断を待っている。

 むしろ俺の代わりに選手交代してくれとも思うが、

「いいんじゃねえのか。元はといえば涼司の手柄なんだろ」

「ありがとうございます」

 親御さんの躾がいいのか、またもやお辞儀姿勢で感謝を表した。

 涼司も少しは見習ったほうがいいぞ。妹を模範する兄なんて、情けなくてやりたかねえだろうけどよ。

「では、参りましょうか」

 口調こそ違うが、涼司が成り代わっていると思えば特に気を使うこともない。俺が口を利かずとも、社交性を持ったしっかり者がいるからな。

 偶発的に女子三人と行動を共にすることになったが、教室で囲まれたヘンテコ三人組よりかはマシなはずだ。

 かといって、浮かれるメンバー構成じゃないことも重々承知してるさ。



 入り口付近でもちらほら見かけたが、園内に入るとより一層異様な光景が広がっていた。

 この地域密着型テーマパークは、歩いているだけなら三〇分もかからず周回できてしまう規模だ。平日なんかガラガラな印象しかなかったが、週末とはいえここまで人が集まる場所ではなかったはず。しかも、妙な恰好をした連中だらけだ。

 未来的なのか懐古的なのか、白を基調とした出来そこないの宇宙服らしきものを着込み、膝上まである同色ブーツを履いた女が至るところに集結していた。

 いや、溢れ返っていたと言い換えるべき場景かもしれない。

「……おい、ショーの出演者ってこんなにもいるもんなのかよ」

 中には黒い布きれを被っただけの野郎や、剣や槍といった武器玩具を所持してるヤツも目につく。

「あなた本気で言ってるの? この人たちはコスプレイヤーでしょ」

 紗都が発した単語に聞き覚えはあるし、どんなものかも何となく解るが……圧倒的に普段着客のほうが少ねえじゃねえか。

 正直、俺は目のやり場をどこに定めれば不問に付されるのか探しあぐねていた。ほとんどの衣装がアレ丸出しのマイクロミニか、ローライズショートパンツ姿だからだ。

「あの少女アニメは今でも絶大な人気を誇るのよ。私もイベントに来たのは初めてだけど、これくらいの人出は予想が付くことね」

 ふんっ、いつも俺に向けてる厳しい顔が崩れてきてるぞ。

「あんまり浮き足立つなよな」

 俺らしくない示唆を与えると、

「いま告げてくるなら浮き立つよ。足はいらないの」

 ちっ。こんなとこまで来て指摘することじゃねえだろ。

「眞取ちゃん、さ~っそくステージへ向かって観覧なのです」

 俺を巻いて除け者にしたいのか、圷が紗都の腕を離れて駈け出そうとする。

「うん。でもステージはあっちみたい」

 即刻連れ戻され、

「逸れないようにしないとね」

 紗都はまるで姉のように圷へ言い聞かせた。

 手間が省けるからそいつを背中におぶっておけよ。お前に引っついても、鳴世みたいにはならないようだからな。

 傍系で言えば本物の妹ほうは、優美さを乱すことなく俺に微笑みかけ、紗都へと続いて行く。

 あなたは大丈夫そうですね、とでも思ってやがるのか? 俺よりも兄貴の持病のほうを心配してやってくれ、と忠告したくなるぜ。

 今日は特別なのか、同年代らしき少年少女や親子連れでさえあまり見かけることはなかった。一人の女に群がりカメラを構える大人。俺がガキの頃にやったチャンバラごっこをしてる大人。聴いたこともない曲に合わせて踊ってる大人。

 大人ってのは、意外と不思議なことに楽しみを見いだせるんだな。

 先頭を任せていた紗都の歩みが止まる。どうやら、広場にある大階段の踊り場をステージに見立てているようだ。

 前方に並べられているパイプ椅子は少数で、もはや空席は見当たらない。その周りをキャラクターを模した人物たちが埋め尽くしていた。

 結局、何とかステージの見える距離で、俺、涼司妹、紗都、圷の横並びで立ち見状態を余儀なくされる。

 すでにショーは開始されていた。おそらく、一番興味のない俺が一番視界を確保できているのだろう。女子三人とも似たような身長なので、ときおり背伸びしたり顔をずらしたりして舞台を眺め始めている。

 紗都は完全にガキの顔へ戻っていた。胸の前で両拳を握りしめ、想いを寄せるヤツを応援でもするかのような姿勢だ。

 ステージ上へ目を注ぐと、コスプレ衣装とそう変わらない姿の女が数名、身振り手振りを交えてセリフを口にしている。ワイヤレスマイクを使っているんだろうが、周りの喧騒に掻き消されてハッキリとは聞こえてこない。

 魔法少女団とやらがどこかへ辿り着いたような演技をしていると、パーティションで仕切ってある裏手から、黒装束に扮した男が二人現れた。

『よくここまで来れたもんだな。行くぞ!』

 一人の男の掛け声で、同時に少女団へ襲いかかる。

 身構える少女団側は各々が持った個別の武具を振り回し、あたかも魔法が出ている態で応戦する。

 あっけなく倒されると思った端役の二人がなかなかに粘る。主役側は明らかに形勢不利だ。

 が、少女団は口々に呪文を唱え、それぞれが独自のポーズを決め始めた。

 すると、ステージ上に多彩なレーザーライトが法則性もなく照射され、幻想的な仕掛けがなされる。観客からは「おお」といった賛嘆の声が上がった。

 黒装束の一人が光の明滅に合わせ身悶えしつつ、ゆっくりと倒れていく。

 そりゃ、魔法を表現するにはこんな方法しかねえわな。

 完全に冷めた目で眺めていた俺へ隣の双子妹が、

「わたくしは存分に堪能できましたので、皆さんのお飲物でも買って参ります」

 作ったような笑みを置き、すすっと人ごみをすり抜けて行ってしまった。

 早いな、おい。お気に召さなかった、ってことか。

 ま、俺だって同じようにエスケープしたいくらいだ。趣味趣向なんてのは押し付けられるもんじゃねえし。

 紗都と圷は食い入るように演目を観ているため、涼司の妹が脱落したことにはまったく気づいていないようだ。

 舞台では残った黒装束が何か叫び、早々にパーティションの裏へと逃げ帰って行った。

 照明が消えて舞台上が暗転すると、不気味な民族調曲が流れ出す。ドラムだか太鼓の打音が、不快の手前まで不安を駆り立ててくる。

 いよいよ、紗都お待ちかねのご登場ってわけか。

 周辺はすっかり暗くなっているため、アミューズメント施設やカフェなど飲食店の照明がやけに目立つ。

 そんな中、たまたま目に触れたレストランの二階に、俺は奇妙な違和感を覚えた。

 あれは――。

 全員が全員、舞台を観ているわけではなかった。ショーなどそっちのけで、所構わず戦闘ごっこが行なわれている。コスプレイヤーたちが役に成りきり好き勝手やってることへは、俺の偏った考えも薄まってきていた。

 しかし、それが見知った人物となると話は変わってくる。その上ただの扮装や仮装、ましてや変装でもない気がしたからだ。

 魔法少女団スタイルに身を固めた乃浪が、器用にもバルコニーの手すりへ突っ立っていた。

 衝動的に紗都へ目をやったが、観劇に熱中していて他のことは気にもならない様子だ。

 ステージは照明が点灯されないまま、親玉らしき女の声で長台詞が続いていた。物々しさを煽った演出なんだろう。

 俺は子供向けショーよりも、興味を掻き立てられる対象に目を奪われていた。無論、悪い意味でだ。

 マントほど長さのある黒いフードを被った人物が、見事な跳躍で建物の屋根へと飛び移る。

 それを追うように乃浪も手すりからジャンプした。右手には氷結したような斧をしっかりと持ち、公然と戦闘態勢に入っている。

 乃浪のヤツ、いくら見た目が紛れるからってこんなとこでおっぱじめる気か。

 となると、相手は背格好からして内塔だろう。

 黒フードの中身は白い仮面のようなもので覆われているため、ここからは誰なのか判別できない。だが、正体が割れないためには賢明な処置とも言える。乃浪のほうは紗都に顔を知られていないからなのか、あまりに大胆不敵な所業だ。

 こんなとこで別の出し物を観てていいもんなのか――。

 俺は自分で答えを導き出せないまま、スタンドポイントを動かせずにいた。

 屋根上に照明が当たっていないため、大よそでしか二人の動きを確認することができない。

 乃浪は暗夜の空に向けて跳び上がると、身体をコマのように回転させた。身体から何かを放っているのか、内塔が棒を振り回す仕草で素早くそれを払ってみせる。

 その隙に、乃浪がきりもみ状態で相手の頭上へ急降下した。

 内塔は接触する間際に姿を消して、乃浪の後ろへ回り込む。しかし、乃浪は最初からそこにいるのを知っていたかのように、着地すると振り向きざまに斧を振るう。

 一瞬、内塔の動きが止まった。

 乃浪がリズムよくバックステップして距離を取ると、内塔は足のみを凍結されたように上半身だけでバランスを維持していた。

 なんだっ?

 内塔が下手な踊りでも始めたのかと思った。

 違う。体中にいくつものボールを投げつけられたみたいに、変則的な動作を繰り返す。

 遠距離から狙撃でもされてるのか? もしや、あのヘッドフォン娘が――。

 断末魔を拒否するかのように、内塔が上空へ手を伸ばす。そして脚の制御が解除されたのか、屋根の向こうへ落ちるように消えた。

 あいつ……まさかやられたのか?

 次の瞬間、建物の裏手から花火でも打ち上げられたかのごとく、垂直に火柱が立ち昇る。

 ……何なんだあれは。どうなってやがる。

 見たこともねえ虫が飛んできて詳細を知らせてくれれば明解なんだが、護り手が陥落したとなると、ここが紗都へのぶちまけどこになっちまうのかよ。

「眞取ちゃん、と~ってもおトイレに行きたいのです~」

 安穏としていたつもりはない。が、非常事態とも取れる場面に遭遇し、俺は非現実へ引っ張り込まれた気分に見舞われる。

 俺は何をすべきなんだ――。

「眞取ちゃ~ん、ちょっと……もう我慢の限界がきそうなのですぅ」

 この混雑した騒々しい場で、果たして紗都にうまく伝えることができるのか。伝達したとこで、子分がやられたからお前の出番だとこいつを焚き付けりゃいいのか?

「むう……眞取ちゃん、お……」

 自分の中に承服しかねる抵抗感が湧く。

 いや、そんなことをさせるために俺はここへ来たわけじゃねえ。

 ここにいる紗都が直接危難に遭っているわけではない。それに、今はヤツのほうが気になる。

「あと少しで終わりそうなの。圷ちゃん、どうにか――」

「おいっ」

 俺はショーの進行具合など顧慮せず紗都へ、

「そいつを今すぐ連れてってやれ。でだ、しばらくお前も籠ってろ」

 言い終わると、無理矢理人垣をこじ開ける。

「ち、ちょっとどこへ――」

「知り合いを見かけたから……挨拶しに行くだけだっ」

 背後に向けて叫ぶと、俺は周りから非難の声を浴びつつ前へと突き進んだ。

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