第7話 この主従は半端ねえ
ようやく、少女の名前が出てきました。
連れて行かれた先は、そこそこ綺麗な宿屋であった。どうやら、この子はここに滞在しているらしい。それよりも!!!僕はこの女の子の名前すらまだ知らない。
「ねえ、ちょっと待ってよ。僕はチカラ・スズキ。君の名前は何て言うの?」
「細かい話は中で話すから、早く入ってよ。」
やっぱり、名前が聞けなかった。とりあえず、宿の中に入る。
「アニー、帰ったわ!」
中にはメイド服の少女が1人いた。
「まあ、おかえりなさいませ、ひ、むがっ。」
「あら、アニー。やだわ。口の中に虫が入っているわよ。早く飲み込みなさい。」
アニーと呼ばれる少女の口を押さえつけ、何やらばたばたしている少女。というか、ほんと名前教えろよ。
しばらく、2人でひそひそ話をしている。やがて、話がまとまったのかこっちに振り返った。
「こほん、失礼したわね。私の名前はトルチェリーナ・ルカミルバというの。よろしくね。それから、こっちはメイドのアニー。アニー!挨拶しなさい。」
後ろで控えていたメイドさんがすっと前に出てきた。
「私、お嬢様のお世話を任されております、アニエス・フラーベルと申します。アニーとお呼びください。この度は、お嬢様をお助けいただきありがとうございました。」
礼儀正しく、頭を下げたメイドさんの手には救急箱が持たれていた。
「さっ、お嬢様。手当して差し上げましょう。えっと、チカラ様とか申しましたでしょうか?」
僕の名前を知っている?ああ、さっきのヒソヒソ話でトルチェリーナが教えたのかな?
「はい、チカラ・スズキです。」
「まあ、あなたの名前なんてどうでもいいんですがね。いいですか?お嬢様が手ずから手当なさるなんてありえないほど、光栄なことなんですからね。本来なら、絶対にそんなことはさせないのに、お嬢様たってのお願いだから、仕方なく、本当に仕方なく認めたんですからね。あなたはその栄誉に感謝に地に這いつくばって感謝しなさい。」
あれ?なんかメイドさんにすっごく酷いことを言われた気がする。
「あの?トルチェリーナ?このメイドさんは一体?」
「てめぇ、今、こともあろうか我が愛しのお嬢様を呼び捨てにしやがったな。なめてんのか、ああん?てめえなんじゃ本来、言葉をかわすどころか、目に入れることすらならないほどのお方なんだぞ。どんだけ調子乗ってるんだ、くぉらあー。」
「えっと、はい、すみません。」
なんだこのメイドさん。まじでこええ。
「ちょっとアニー?私のダーリンをそんないじめないでよ。将来、私の旦那様になるんだから。」
は?ちょっと待て?いつそんなことになった?
「あの?ちょっと、トルチェリーナさん?いつそんな話に?」
「私のことは、トルチェって呼んでって言ったでしょ、ダーリン。」
いや、だから煽るのやめてくれ。そこのメイドさんが包丁を研ぎ始めているんですけど・・・。
「まさか、こっちに来たその日のうちにこんなゴミ虫がつくなんて。ああ、今ばかりはお嬢様の美貌が恨めしい。」
「というのは冗談として、早速、手当してしまいましょう。アニー?いつまで包丁研いでるの?こっちを手伝いなさい。さ、チカラ様。まずは上から脱いでくださいな。」
アニーはチッとあからさまな舌打ちをして包丁をしまった。トルチェにされるままに上が脱がされる。上半身裸というのはなんとなく恥ずかしいな。
「じゃ、じゃあ次は下をいきますよ。わ、私初めてですけど、だ、大丈夫です。きちんと受け入れますから。ただ、初めては痛いといいますし、えっと、その、や、優しくしてくださいね。」
顔を赤らめて何を言うんだ、このアマ!
「ちょっと待ってよ。手当に下は必要ないでしょ!それに受け入れるって、してもらうのは僕の方。トルチェはする方でしょ。」
「てめえ、お嬢様がせっかく決心したっていうのに恥かかせるつもりか、ええぇ?」
アニーが再び包丁を取り出す。
「ちょっと待ってよ。むしろ、今そのお嬢様の貞操の危機なんじゃないの?それを守っている僕はほめられることすれ、なぜキレるの?」
なんとか、アニーを押しとどめる。
「それもそうか。礼を言うぞ。しかし、確実に危機を脱するためには、貴様には消えてもらわねばならんな。」
もーいや!!!
結局、手当をしてもらうまでには、日が暮れてしまった。




