第2話 (ノーマルサイド)エルバトーレの横暴
ノーマルサイドです。内容は、ダークサイドと9割方共通です。
カルキレ帝国の王座の間では、しきりにある一つのことが論議されていた。白魔の予言に対する対応である。あれほどの精霊を見るのも初めてなら、その精霊がこれから攻めるであろう自国をどうするか。普段は恐ろしく言えないエルバトーレ公爵への不満もこのときばかりは炸裂していた。しかし、その不満もすぐに鎮火することになる。
「静まれい。」
玉座の一歩前に置かれたエルバトーレ用の椅子から立ち上がった彼が、声を張り上げた。
「儂に対する不満はよく解った。その不満が正しいものかどうかこれから陛下にご判断いただく。もし、陛下をして儂が悪と御判断されたその暁には、儂はこのままギロチン台へと向かい、陛下への非礼の侘びとする。しかし、儂に否無しと判断されたら、今後の儂への不満はすべて反逆罪と見なすぞ!」
一見殊勝な事を言っているようにも見えるが、この結果の見えすぎた茶番に皆は呆れる。そして、皇帝にお伺いを立てたエルバトーレは高らかに宣言した。
「陛下は、儂に何の罪もないとおおせになった。それどころか、儂の奴隷を不当に奪い、あまつさえ、白い精霊というありもしない幻惑でこの国を見出そうとしたあの男に対し、討伐命令を下された。よいか、皆の者!!何としても、あの男を見つけ、殺すのだぞ!!」
誰もが、こんな茶番に付き合いたくない。しかし、今エルバトーレに逆らうということは我が身の死というだけでなく、その後の妻子への影響を考えると、誰一人として逆らう者はいない。臣下一同、このまま何もなくエルバトーレが下がってくれることを祈るばかりであった。
しかし、今回の件で苛立っている彼が、そんな望みを聴くわけはない。
「そういえば、サリル伯爵。」
そういった瞬間、そこにいた1人の貴族がガタガタと震え始めた。しかし、そんなことをまるで気が付かないというふうに彼のもとに歩いてきた公爵は、その肩に手を置きながら言った。
「オークション会場で随分と儂の悪口を言っていたそうだが、それは本当か?」
「めめめめめ、滅相も、ごごごごごご、ございません。私は、カルキュール陛下はもとより、エルバトーレ様に忠誠を誓っております。」
「ほう、そうか。いや済まなかったな。ちらっとそのような話を小耳に挟んでな。儂もまさか貴公ほどの者がこの国に二心あるとは思えなくて。いや、本当に申し訳ない。」
「い、いえ。国を思うエルバトーレ様なら当然の事をされたまでのことと存じます。何にせよ、御疑いが晴れて私としても安心でございます。」
サリル伯爵は幾分、顔を和らげほっとしたように答えた。
エルバトーレはニヤッとして、側に控えている衛兵に命令した。
「そうかそうか。おい、あの者を連れてこい。」
やがて、衛兵に連れられて一人の男がその場に入ってきた。サリル伯爵は全く見覚えもなく、首を傾げるだけであった。
「直答を許す。そなたは、今日どうしてここにいるか説明せよ。」
エルバトーレの言葉に、男がへぇと答えて話し始めた。
「あっしは下町で小さな武器商を商っているものでごぜえますが、先日、そちらのお貴族様がやってこられて、武器を大量に注文してこられました。あっしの店はそんな大きな店ではなく、こんなん無理ですと申し上げると、激怒されたお貴族様は店の商品をあるだけ強奪されていってしまいました。もう、商売も出来ず、困っております。へぇ。」
エルバトーレは、わざと驚いた風に言った。
「なんと、そんなに武器を集めているなど、謀反を起こす動かぬ証拠ではないか!!」
2人の周りの貴族たちはだんだんと、サリル伯爵から距離をとりはじめた。誰もが、関わりたくないのだ。明日は我が身かも知れないが、それよりも今日のことが大事である。
サリル伯爵は、その男との関わりを必死に否定したが、周りとの距離が確実になった時、サリル伯爵の必死の抵抗もとうとう終わりがきた。
「まさか、そなた。謀反を企んでいるな。先程は、口では忠誠をとか言っているくせに、・・・。」
エルバトーレはわざと憤慨したようなふりをした。そして、また貴族の一人がこの世から消える言葉がその口から発せられた。
「衛兵!!謀反人サリル伯爵をひっとらえろ。市中晒した後、中央公園のステージで処刑せよ。伯爵の屋敷をすべて差し押さえ、物をすべて運び出せ。」
既に、衛兵によって取り押さえられているサリル伯爵は、エルバトーレに向かって、罵詈雑言を浴びせていた。しかし、どこ吹く風といったエルバトーレはあくびをしながら言った。
「いままで、ご苦労だったな、サリル伯爵。儂も旧友がこんなことになるなんて非常に悲しいぞ!」
そして、パチンとゆびを鳴らすと衛兵が罪人を引きずって下がっていった。
再び、静寂に包まれた王座の間で、エルバトーレは高らかに宣言した。
「今後、帝国はさらなる領土拡大のため、軍備の強化をすすめる。どこぞのまがい物の予言なぞ信じるに能わず。この帝国が更に発展すべく、皆一層励むべし!」
これを聞いて頭を垂れないでいられる人物は王以外この場にはいなかった。




