8 魔術適性検査
校内案内図を確認しながら進み、迷うことなく救護室へとたどり着く。
扉を三回ノックする。
「どうぞ」
短い返答を確認してからスライドドアを開ける。
教室より一回りほど小さな部屋。
見慣れない機材が多く並び、仮眠用だろうベッドが六つ設備されている。カーテンはどのベッドも開けられていて、室内には声の主と律のみ。
国立というだけあって、清掃は行き届いていて校内のどこを見ても塵一つ落ちていない。それは室内も同様。完全自動清掃AIの存在が大きいだろう。
「失礼します。魔術科二年Fクラスの・・・・・・」
そこまで言って律は相対する人物を見て言葉が止まる。
「真面目に学生してるね。関心関心」
そう言って腕を組みながら、大げさに首を縦に振る結月。
「なんだ結月か」
「なんだとは失礼だよ~。あと校内では秋暮先生って呼んでねって言ったよね」
頬を可愛らしく膨らませながら言う。
「そうだったね。秋暮先生。それでメールで呼び出しがあったと思うんですけど」
「あ、そうだったね。うん。魔術科の生徒は毎年、身体測定と魔術適正検査を行うの。もちろん編入生もね」
「それは知ってるけど。なんで結月が?救護教員の役割じゃなかった?」
「もうまた結月って。それに敬語も一応使ってよ。帰還者ってバレたくないんでしょ?まぁ、周りに誰もいないからいいけど」
帰還者である結月との仲を知られれば、律の正体に近づく者も現れるだろう。
「そうだね。気をつけるよ」
普段から律の自宅でくつろぐ結月の姿を見ているから、真面目に教員をしている姿に妙な違和感を覚える。
「私がここにいる理由は律くんの健康診断と魔術適正検査を代理で私が行うからだよ。律くんの”特異体質”がバレちゃまずいでしょ」
「確かに。そこまで考えてくれたんだね。ありがとう結月」
律は口角を上げて優しく微笑む。
「救護の先生がいないタイミングとか、いろいろ根回ししたから大変だったんだよ」
どうやら律が一限の終わりという曖昧な時間に編入したのも、このことが影響しているようだ。
「じゃあ、さっそくだけどそこの測定器に靴を脱いで寝転がって」
テキパキと靴を脱ぎ揃えて並べる。
指示通り測定機に横になる律。衣服越しに伝わるひんやりとした金属の板。
律が目を瞑ると、頭上のアームが全身をスキャンするため上下する。
――――ピピ
「起き上がっていいよ」
五分程経過した後、結月の言葉を聞いた律が首元をさすりながら起き上がる。
「この台座もう少し寝心地良くなんないのか?」
ふかふかのベッドとは間反対に位置する、カチカチの金属台。
「分からなくもないけど、衣服越しで良いだけマシじゃない?いちいち脱がなくていいんだから」
「ま、それもそうだね。技術の更なる進歩に望みを託すことにしよう」
律は靴を履いて立ち上がると、両腕を天高く掲げ背伸びをする。
「で、結果はどうだった?」
スクリーンに映し出された数値を眺めて結月は首を振る。
「相変わらず魔術適性は皆無みたい」
結月の横へと向かい、スクリーンを確認する律。
氏名、身長、体重、BMIなど詳細なデータが羅列されている。
そこには視力や聴力なども計測されている。数十年前と比較すると驚異的な技術の進歩であるが、律や結月にとっても当たり前のもの。
「いっそすがすがしいくらいの斜線だな」
♢
魔術感知 \
魔術吸収 \
魔術変換 \
魔術放出 \
魔術適性 \
♢
律は魔術に関する項目に目を止める。
斜線が表す意味は説明するまでもなく、魔術の才能が一切ないという証明。
中学の魔術適性検査ぶりに見る斜線の応酬に、律は苦笑するしかない。
「これだと流石に怪しまれるよな・・・・・・」
「そうだね。律くんの事情を知らない人からすれば意味不明な結果だもの」
「感知と吸収と適性の数値だけ書き換えた方が良さそうだな」
放出魔術を使えないのだから変換、放出をいじる必要はない。
「一応、数値の偽装って犯罪行為なんだよ」
「分かってるよ。僕が勝ってに書き換える。結月は何も見ていない」
「別に律くんの為なら私が罪を背負ってもいいんだよ?」
すっと結月の顔が律に近づく。
その表情は冗談で言っているようには見えない。
「愛が重すぎるよ・・・・・・。でも結月が居てくれなきゃ僕の生活は終わる。いろんな意味で」
「それもそうだよね。私が居ないと生きていけないもんね、律くんは」
その発言を否定したい律だが、事実であるから反論できない。
律は素早く数値を書き換え終えるとパイプ椅子に腰かける。
今はお昼休憩の時間。急いで教室に戻る理由はない。
「学生生活は順調かな?」
「そう見える?」
「見えない」
即答する結月。
「わかってるなら聞かないでくれ。どうやら想定以上に僕は人付き合いが下手らしい」
「ここ数年は戦ってばっかだったもんね・・・・・」
結月は俯きがちになりながら言う。
「まぁ、今後どうにかするよ。それに全く誰とも話してないわけじゃないし」
「そっか。まだ律くんの学生生活は始まったばかり。楽しいことがこれからたくさん待っている・・・・・・はず」
「そこはもっと自信持ってくれ」
校内でも二人は普段通りの他愛ない会話を続ける。




