epilogue2 近衛騎士アルフレッドのぼやき
「なーにが『ふたりだけの秘密』だよ。全部ばっちし見えてるっつーの」
フェリクスの護衛に付いている俺、アルフレッド・イグニスはぼやく。
王太子夫妻の周囲には常に少なくない数の臣下、侍従や侍女や護衛が侍っている。優秀な臣下達は主の逢瀬の邪魔にならぬよう、完璧に気配を消している。
「まったく何年たっても甘ったるくて嫌になるよなあ。もしかして一生このままか? 俺はこの光景をずっと見続けることになるのか? おいおい勘弁してくれよー」
隣に立っている俺の部下が「聞こえたらまずいっスよ」という顔をしながら、ちらちら視線を投げてくるが俺は気にしない。
「だいたいお前そんなやつだった? あーあれか! 偽水晶でも触って人格乗っ取られたか!」
俺のぼやきは留まるところを知らない。
周りのやつらも心の中では激しく同意してるだろ?
ラッドなんて、俺のぼやきに反応して口元緩んでるし。あれは必死に笑い堪えてんだろ。
フェリクスはどうやら彼女を伴って、ルカス坊やの部屋に行くらしい。あの子はフェリクスの小さい頃にそっくりなんだよなー。笑えるくらい瓜二つ。実際、何度も笑ってフェリクスに怒られてるけどな。
周りに侍っていた臣下達も二人の後に続いて移動を始めた。
ふいにフェリクスがこちらを振り向く。
「アルフ、全部聞こえているよ。そしてこれが素の私だよ」
「聞こえてんならちょっとは自重しろ」
「いやだよ。ロゼに愛をたくさん伝えることが私の夢だったんだ」
フェリクスは心底満たされたような柔らかい笑みを浮かべた。そしてまた前を向いて、彼女をエスコートしながら建物に入っていった。
「夢が叶ってよかったな、フェリクス」
俺は後頭部に両手を回して、そして空を仰ぎ見ながらつぶやいた。
「さあて、と。俺もフェリクスを見習って、帰ったら奥さんを口説くとするかあ」
俺は家で待つディアナと幼い息子の顔を思い浮かべて気を取り直し、我が主の後を追いかけた。
♢♢♢
――歴史教科書五十三頁『グランサフィル王国の軌跡』より。
第十五代国王フェリクス・ラミロ・グランサフィルは英明なる賢王として名を馳せ、安定した統治を行いグランサフィル王国に平和をもたらした。歴代最高の美貌と謳われた妻プリムローズとは終生仲睦まじく、三人の王子と一人の王女に恵まれた。その子供達も英才に育ち、国の安寧秩序に貢献したと伝えられている。
またフェリクスの治世において忘れてはならないのが、英雄アルフレッド・イグニスである。彼は国防において多大な功績を収めた。市民広場には彼の彫像が建立され、多くの国民の命を守った英雄として後世に語り継がれている。またアルフレッド・イグニスは武勲以外に、紳士の鏡として賞賛された側面があり、現代の紳士向けマナーブック『アルフの嗜み』の表紙には彼の肖像画が採用されている。
ちなみに現代も発刊されている『アルフの嗜み』の歴史は古く、初版が発刊されたのはフェリクス国王の時代である。フェリクスの懐刀として辣腕を振るった宰相ルシアン・アメティストの監修の元に発刊されたマナーブックの普及により、貴族社会だけでなく一般市民にもマナーの知識が広く知れ渡った。そのことは『紳士の国グランサフィル』と謳われるほど国民の品格向上に多大な貢献をした。なお表紙にアルフレッド・イグニスの肖像画を採用する案は、宰相ルシアン・アメティストの意向が強く反映されたものであるという説がある。この初版本は重要文化財に指定され、国立ルトルグ博物館にて保管されている。
また、激動する国際情勢の中でフェリクスの治世に平和と繁栄をもたらした存在として、フェリクスの実弟で外務大臣ユリウス・リアム・グランサフィルが挙げられる。彼は精力的に世界各国を訪問し、比類なき交渉力で相手国との直接対話による関係の安定化や経済連携を推進した。ユリウスの側近である外交官イバン・ランベールは公務の傍ら、秀でた語学力を活かして翻訳家兼作家としても名を馳せた。主な著書には世界各国の言語で翻訳された旅行ガイドブックの他に、世界的ベストセラーとなった冒険小説『ユーリの冒険記』がある。この本はユリウスと共に世界各国を訪問した時の実体験を元に書かれたものである、と後書きに記されている。
時を同じくして商業施設においても革新的な出来事があった。世界的に有名な高級百貨店『シトレウム』の創業である。それまでの個別店舗の形態から、現代の百貨店の形を初めて展開したのが『シトレウム』である。当時ファッションアイコンとして注目されたディアナ・イグニスの御用達の店として世界各国に広く知れ渡った。ちなみにディアナは英雄アルフレッド・イグニスの妻である。彼女は王妃プリムローズとも深い交流があったとされ、アルフレッドとの間にもうけた息子レオナルドは、のちに第十六代国王ルカス・ロレンソ・グランサフィルの右腕として数々の功績を上げた。(詳細は十六代国王ルカス・ロレンソ・グランサフィルの項を参照のこと)
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了
本作は完結いたしました。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。




