一章 第一回救世会議③
「それなら!すぐ行かねえと!」
俺の村のようなことが繰り返される。それがわかってて、俺には助けられる力が、ある。
なら、行かないと。
「いや、それはダメだよ。まだ話し合いは終わってない」
「なんでだよ!今すぐにでも行かないと間に合わないかもしれないんだ、こんな話合いしてる暇なんてねえだろ!?」
「君は、一騎当千の英雄にでもなったつもりかい?」
「は?あいつらに対抗できるのは俺たちだけなんだぞ!?」
「そうだ、僕たちだけだ。それで、そんな僕たち二人でやっとあの化け物一体を壊せたことを忘れたのか?」
「っそれは」
「それにだ、そもそも君は戦ったことなんてなかったと言っていたじゃないか。もっと言うと新しく来てくれたアベルさんは戦闘向きじゃない。それに僕だってあの化け物を簡単に倒せるような強力な火力はない。そんな三人で何十体もあの化け物がいる戦場に突撃していって、生きて帰ってこれると思う?」
「それは、確かに。でも、分かってて見捨てるなんて俺には、出来ねえ!お前はどうなんだよ!?カイ!」
「正直に言う。僕の最優先目標はお嬢様を生き返らせること。そして、それができる可能性がある君の生存が僕の次の優先目標。だから、僕は、何万人の人の命よりも君の命の方が大事なんだ」
「だから見捨てられるってのか……?」
「もっと考えるんだ、アルク。ここで死んだ人たちも君がいれば生き返れるかもしれない、でももし君が王都を守ろうとして死んでしまえば、生き返らせることができたかもしれない人たちは永遠に生き返らない。結局、どっちの方が人のことを助けることになるのかを」
「そ、それは……」
まさに頭に冷や水をぶっかけられた気分だった。
頭が冷えていくのを感じる。俺が死ぬとか死なないとか、全く頭になくて。ただ、あの時逃げてしまった後悔が、俺を動かしていた。逃げて、逃げて、誰も守れなかった後悔が。だから、次こそは、守りたいって思った。でも、俺の考えは間違っていた。そのことをカイの言葉でようやく実感した。俺の選択はまた、誰も守れない未来を作るところだった。
……今の俺はまだ、弱いままだ。よく分からない力を貰って強くなった気がしてた。けどこんなのは俺の力じゃないじゃないか。
「……分かってくれたかい」
「ああ……。俺は、弱いままだったんだな」
「そうだね、今はまだ、耐えるときだと、僕は思うよ。アベルさんも、それでいいよね?」
「……いえ、私は行くべきだと思うわ?」
え、今なんて。
アベルの言葉はカイにも衝撃的だったのか、一瞬時が止まったようになる。
俺にも、言っている意味がすぐには呑み込めなかった。
「話を聞いていなかったのかい!?いっても無駄に命を散らすだけだ!」
「そうかもしれないわね、けれど、私は戦わないことがいいとも思えないわ」
「それは、どういう……!?」
「まず、あなたたちは人を生き返らせる方法を分かっているのかしら?」
「……ラルクが、出す石を砕けばアベルさんみたいに生き返るよ」
そう言ったカイの表情は、苦々しいもので、自分が言っていることが全く意味のない物言いだと分かっているようだった。そうだ、あの石がどうやってできているのか、あの石がどうやって人を生き返らせているのか、俺たちは全く知らない。
「ふふっ、分かってるじゃない。全く分かってないことが」
「でも、分かってなくても人を生き返らせることはできる!」
「そうね、でもそれはどれくらいの数の人を生き返らせることができるのかしら?昨日で私とカイ、二人が生き返った。もし今日も同じように生き返らせることができたとしても、数万人の命を助けるには数万日が、数十万人の命を生き返らせるためには数十万日が必要なのよ?さて、人間の一生はどれほどかしら?百年かけてようやく十万人くらいは生き返らせることができるかもしれないわね。それに、一日二人を生き返らせることができる保証もない。すくなくとも、ここで王都を見捨てることが、守ることにはつながらないと思うわよ?」
「……でもこれから方法がしっかりと確立すれば一日に生き返らせることのできる人数ももっと増えていくかもしれない」
「そうね、ただその反対に、全く生き返らせることができない可能性もある」
「っなら、この議論に意味はないよ。どっちみちラルクが死んでしまえば人を生き返らせることができなくなるのに違いはないから」
「じゃあ、ラルクが死なずに王都を守ることができるかもしれない方法があったら?」
「……それなら、そうかもしれないけど、実際には不可能だ。確かに、一人であの化け物を難十体も手軽に倒せるような強い人を生き返らせることができればそれも可能かもしれない、でも、それこそたらればの話でしかない……!」
「違うわ?強い人を得る、それも望ましいことではあるけれど、より確実に対抗できそうな手があるの」
「……そんなものがあるっていうのかい」
「ええ?もちろん、これも確実ではないのだけれど」