一章 第一回救世会議④
「まず、初めに。私たち、死んでいないラルクも含めて、前とはかなり違っているものがあるわよね?」
前、というのが二人は生前、死んでしまう前。俺については石像から力を貰う前のことを指しているのだろう。それで違っているものと言えば当然。
「強さ、か」
「ええそう、二人とも、以前の自分よりもだいぶ強くなっているでしょう?それは私も同じ。私が掛けた回復魔法も前よりもずっと高効率で行えたわ」
「それはそうだ。けれどそれでも話にならないほど相手は多いって話だったじゃないか」
「そうね?でもそれは私たち三人だったらの話。もし数が何十人、何百人といたらどうかしら?」
「新しく生き返らせるってことか?でもそもそもの方法が分からないってさっきアベルが言ったんじゃないか」
「そうね、だから大人数を生き返らせる方法は現実的ではないわ。だからこそ、生きている人たちに戦ってもらうのよ」
「それこそ無理な話だ。何度も言うけど、僕がいたガノス王国の騎士団はまるで歯が立たなかった。王国最強と言われた騎士の剣ですら、あの化け物には傷一つつけることができなかったんだ。だから、そもそも生きている人たちにあの化け物を傷つけることはできない」
「そうね?あの化け物の強度は異常、それは確か。けれどあの攻撃速度はどうかしら。踏みつぶし、赤い光線。あれらは生前の私でも避けることはできたわよ?」
「す、すごいなアベル。少なくとも力を貰う前の俺じゃ無理だ。村が襲われたときに見た光線は、ほんの一瞬の光にしか見えなかった」
「そうだね、僕は強化魔法を使ってようやくってぐらいだったよ。……そうかああ言った化け物に対する戦闘に慣れていない僕ですらやろうと思えば、あいつらの攻撃を見ることができた。魔族なんかと戦う機会の多い騎士団なら、生前からでも十分に見れたはずなんだ」
「そう、きっとそんな彼らがやられてしまったのは。あの化け物の攻撃が効かないという特殊性ゆえよ」
攻撃が効かない特殊性?あいつらはただ固いってだけじゃないのか……?
「それでなんだけれど……ラルク、ちょっと壁を殴ってもらえるかしら?全力で」
「か、壁をか!?急だな。でもここは村長さんの家だし勝手に壊すわけには」
今はそんな場合じゃないのかもだけど、なんだか嫌だった。そんな反応の俺に対し、先ほどまで真剣な顔つきをしていたアベルは、そのほおを緩め……。
「あら、優しいのね?……そういうの可愛いと思うわよ?」
「……は」
こういうことを言われた時、どう反応をすればいいのか。俺の辞書には全く書いていなかった。のでだまって壁を見ることにした。
「あら、照れちゃったの?」
う、うるせえ!!
「……」
「私的にはそういうのも可愛いと思うし、大切だと思うわ?なら、そうね、外の木にしましょう」
「そうだね、ラルクも年相応にかわいらしい所があるんだなあ」
さっきまで言い争いをしていたはずの二人がそろって生暖かい目でこちらを見てきやがる。思わず俺は、そこにあった枕で顔を隠した。
こっちみんな!
「じゃあ、お願いするわね?」
場所は打って変わって、村のはずれ。あと一歩進めば森、というような森と村との境界線に俺たちは来ていた。そして、そんな森の中に数多ある木の内の一本、その前に俺は立っていた。
「よし……!」
腰を低く、右腕を引き、腰のひねりに合わせて、拳を打ち出す!!
それは、会心の当たり、といったような感覚。木の中心を捉えた俺の拳は、ガンッという音とともに、接触点を大きく凹ませた。続く、ミシミシというきしむような音。俺が凹ませた場所を起点として、木が折れ曲がったのだ。
……俺たちの方へ。
「あっぶねえ!!」
思わず倒れてくる木の幹をつかむ。つぶされれば屈強な大人でもタダでは済まなそうな質量は、俺の力で簡単に止まった。いや、ちょっと重い。なんにせよ止まった。
「ごめんなさいラルク!倒れることを全く想定していなかったわ!」
「ああ、ありがとうおかげで二人ともけがはないよ」
「そうかい、そりゃ良かった」
木の重量を受け流すように、横に卸す。地面に落ちた木が、枝などが折れ、大きな音を響かせるのを見て、自分がこんな重さのものを支えていたのかと再確認する。……本当に馬鹿みたいな力貰っちまったな。
「……それで、アベルさん。ラルクはこうやって木を倒して見せたけれど、これがどうしたっていうんだい?」
「そうね、まず二人はこの威力を見てどう思う?」
そう言われて二人で木の方へ眼を向ける。無残にも中ほどから折れた木の幹、折れた箇所はちょうど俺の拳の形に変わってしまっている。この破壊を自分が起こしたものだとはとても信じられない威力だが……。何が分かるのだろうと隣のカイに目を向ける。カイも同じように疑問を持っていたようだが、ふと何かに気が付いたように目線を上げた。
「威力が……弱すぎるのか」
「え、弱い?こんなの人が出せる威力じゃないだろ?」
「いいえ?カイが正解よ、この威力は低すぎるわ。木に大穴を開ける腕力。……確かにただ腕力だけでならそうそういないかもしれないわね?でも、剣や斧といった武器、それに直接攻撃する形の魔法なんかはどうかしら?」
……!確かに。木を一本折る程度、斧で何回も打ち付ければ壊せるし、商人さんから聞いた魔法の話では、岩をも溶かすものだってあった。特に騎士団なんかはそういった武器や魔法のエキスパートだ。そんな人たちがこれくらいの破壊現象を起こせないはずがない。つまり。
「俺があの化け物を破壊できたのは単純に威力が高いからじゃない……?」
「そう、そう考えるのが妥当ね。同程度の威力でも破壊できる人と破壊できない人がいる、そうなると後考えられるのは条件防御ね」
「条件防御?」
「ある一定の種類の攻撃で無いと傷つけられない物や生き物の特性よ。例えばこの世界にも魔法しか効かない、なんて種族もいるわ」
「そんなものがあるのかい?お嬢様のもとである程度の教養は身に付けてきたつもりだったけど、それは初めて聞いたよ」
「……そうね、私のいた村の、物好きな研究者がはるか昔からの伝聞を残していて、そこに載っていたの。一般には知られていないのもしょうがないわ」
さて、と言いながらアベルは手を打ち、話を続ける。
「ちょっと話がそれちゃったわね。つまりは、あの化け物は単純な破壊力では無くて、ある程度の条件を備えた攻撃じゃないと破壊できないのよ。カイの国の騎士団が全力を出して傷一つつけられなかったのはいい例だわ」
「……条件か。それは納得したよ。でもその条件が分からなければ話にならないんじゃないかい?」
「それこそ、あの石像からもらった立ち向かう力、でしょうね。単純な身体能力だけじゃなく、あの化け物を傷つけられる条件ももらったと考えるべきだわ。それに、その力が無ければ敵に傷も与えられない。正しく立ち向かうための力、じゃない?」
「そうだな、この力のおかげで、俺は今度は逃げずに立ち向かえたんだ」
ぐっと手を握り締める。あの石像が何なのか、今はさっぱりわからないけれど俺に生きる力をくれたことは確かだ。力という面でも、希望という面でも。この力を通して、あの石像に感謝の念が届いたら嬉しいな。




