一章 第一回救世会議 ⑤
「確かに、大した威力じゃない僕の銃も効いたし、その節は正しいと思う。僕たちは化け物を傷付ける力を得た。でもさ、それだと僕たち以外戦力がいないっていう説を補強したことにならないかい?」
「いいえ、これは私たちの攻撃なら通るっていう証明なのよ?例えばカイあなたの銃が化け物に効いたとさっき言っていたけれど、その銃はあなたの体の一部なのかしら?」
「確かに僕の体の一部といってもいいくらい愛用してる品だけどさ、あいにく武器と一体化になる技術はなくてね」
「そうよね、そんなあなたの銃でも傷をつけることができた。つまり、あの化け物を傷つけられる条件は私たちの体だけにあるわけではないわ。私たちが使う武器にもそれは付与される」
「なるほど……?いや、でも僕の武器は、僕が生き返った時に一緒についてきた。僕の服なんかも一緒に。なら、その死んだときにこの武器たちもその条件付けをされたともいえるんじゃないかい」
「そうね、その可能性は否定できないわ、それは後で検証してみることにしましょう?」
「検証……。あの化け物でかい。そうだね、武器云々はともかくとして、いろいろ検証することには賛成さ。僕たちは知らないことが多すぎる」
「それで、話を戻すわ。私たちの攻撃なら、あの怪物にダメージが通る。なら、他の人たちも私たちの攻撃にしてしまえばいいのよ」
ん…?聞き間違いだろうかアベルの口から出た言葉をすぐには呑み込めない。人を攻撃にする?
「……どういうことだ?」
「ああ、言い方がまずかったわね。つまりどこまでが私たちの攻撃とみなせるか、という話よ。例えば、カイの持つ、銃が放った弾丸は攻撃が通った。つまり、カイの攻撃とみなされたと言えるわ。間接的であっても、その攻撃を私たちが放ったものであればダメージは通るんだわ」
なるほど、分からん。
「でもそれだと僕たちが関わっていないといけない。僕らが三人という事実は変わらない。やっぱり戦力的な問題は解決してないんじゃあ……?」
「いいえ、あるわ。他の人の攻撃を私の攻撃とする方法が」
「そんな方法が?」
訝しげな顔をするカイ。アベルは優しく微笑みながらそんなカイに顔を向けた。
それと同時に、アベルの体が淡く白い光を発する。
「ええ。カイ、その場で三回まわってワンと泣きなさい?」
何を言ってるんだ急に。確かにカイには犬っぽい所があるけども。それも忠犬。
そんなことを考える俺の前で、カイは急に立ち上がると、その場で回りだした。
「……!?」
一回二回、三回。そして。
「わん」
この間、カイはずっと無表情であったことをここに明記しておく。
「な、なんなんだい今のは……」
と思うと急に表情に生気が戻るカイ。どうやら正気に戻ったみたいだ。
「カイ、大丈夫か?急にあんなことするなんて」
「いや……。アベルの言葉を聞いて、その光を見ていたら、体が勝手に」
ってことはアベルが何かしたのか?そう思い二人でアベルの方へ視線を向ける。視線を受けたアベルは恥ずかしそうにほほを染めた。
「いやだわ、そんな情熱的に見つめるなんて。嬉しいじゃない?」
「アベル……さっきの白い光は、白魔術の証だよね。……白魔術で代表的な魔術は回復魔術だ。でも、それ以外にも白の魔力を利用した魔術はたくさんあって、その中に禁忌とされている魔術がある。お嬢様の身を守るために調べたことがある。それは……洗脳魔術、君が使ったものも、それ、だね」
「正解よ?正確にはその洗脳魔術の初歩、行動操作ね。本人の意識を無視して体に指令を送るだけだから、人の意識を改変するようなものよりは簡単なものよ?」
ふと、カイの体が少しずつ動いていることに気が付いた。俺とアベルの間にだんだんと近づいている。まるで、アベルを警戒しているみたいに。
「カイ、なにして……?」
「ラルク。洗脳魔術は禁忌の魔術。それを習得している人間なんて、暗殺者か、詐欺師かどちらにせよ犯罪者しか知らない。しかも、白魔術を使える犯罪者なんて最悪だ。絶対にアベルの声を聞いちゃいけない、気が付いたら大切な人を殺してしまっていた、なんてこともあるんだ」
「あら、ひどいわね?人を犯罪者扱い?私これまで道理に反することなんてしたことないわよ?」
そういうアベルの顔は変わらず、にこやかなほほえみを湛えている。アベルの危険性。それを認識したとき、俺は思い至った。アベルはまだ、俺たちに瞳を見せていないのだ。どんな時もその瞼は閉じられていた。ずっと目じりを下げて微笑んでいるけれど、その表情そのものがアベルの危険性を隠しているようで、恐ろしいものに感じられた。
「白魔術を使っているならそうなんだろうな。特に君のは強力だ。でもそれは誰かの道理じゃない。自分の道理に反していないだけだろう?」
そういうとカイはアベルに向けて銃を構えた。あの化け物を傷つけた、鉄の銃弾が出る方の殺傷兵器を。
「残念ながら僕は君を信用できない。洗脳魔術持ちと一緒に行動すればどこで自分の考えが歪まされるか、分かったもんじゃないからね。少しでも白魔術の気配、白い光を発したら打ち込ませてもらうよ」
「そう、それは困るわね。私また死にたくはないもの。それに道理に反していないのも本当よ。少なくとも私は犯罪者じゃないわ?」
困る、そう口にしながらアベルは笑顔のまま。全く恐怖を感じていないようだった。
「カイ、さすがにそれを向けるのはやりすぎなんじゃないか?」
アベルは恐ろしい、それは確かだ。けれど、と俺は自分の手を見る。そこには、傷がなくなり奇麗になった手があった。アベルは俺たちのことを治療してくれたのも事実なんだ。まだ何かしたわけでもないのに、危険視はしたくない。
「君は洗脳魔術の恐ろしさを知らないからそう言えるんだ、すでに僕たちの思考はおかしくなっているかもしれない。君の頭の中に思い浮かぶ大切な人はもとのままか?アベルに切り替わっていたりしないか?洗脳魔術ってのはそういうこともやってのけてしまう。そして、そんなことをしたいと思うのは、犯罪者か、裏でこそこそと動き回る政治家か、そんな腹黒い連中しかいない。アベルだってその例外じゃないさ」
「あら、私が犯罪者じゃないというのは本当よ?あなたの国では禁忌とされていたみたいだけど、私の国ではそうじゃなかったもの。それに、洗脳魔術は確かにあなたの言うようなことができるわ?でも、私があなた達を完全な操り人形にする気があるなら最初の洗脳魔術の時点でそうしてる。私に疑念なんて抱かない、私の子を心から信じ切っている人形に変えてしまうことだってできたはずよ。それは、どうかしら?」
「……たしかに、僕らはずっと話していた。いつでも洗脳魔術を使うことができたはずだ。もっと強固に、おぞましいものを。」
アベルの言葉に納得したようにしながらも銃は下げないカイ。信用は、まだできないってことか。
「君が僕らに害意がない、ということは分かった。僕が君に抱いているこの敵意こそが君が僕を洗脳していない証拠と言える。けれど、信用をしきるわけにはいかない。洗脳魔術は、人の関係を容易に壊す、存在しているだけで危ういものだ。そんな魔術の使い手の君に問う。君の目的は?僕たちとともに、戦う理由を聞かせてほしい。何をするか分からない洗脳魔術しを身近に置いておくことはできないからね。」
もし嘘をついたと判断したなら、すぐにこの引き金を引く。カイは言外にそう告げるように銃の頭をアベルの胸に押し当てた。




