My Dearest One ~彼女との夕食~
しばらく、お互いについての会話をしていたのだが、空腹になって来たので、オリバーはパスタとサラダを作った。
彼女が来るので、一応冷蔵庫に材料を補充しておいたが、いつも自分が食べているものを作っただけであったのに、マキはオリバーの腕前に感嘆していた。
作るのは厭わないし、一人暮らしが長いので、家事も一通りなんでもこなせる。
夕食を共にしながら、おしゃべりは続いていて、彼女はよくしゃべったが、うるさいとは全く思わなかった。
話の流れから、彼女が日本で生まれ育ったということが判明した。
「すごいな。あなたには全く日本語の訛りがありませんね」
そう言って、オリバーはマキの取り皿のパスタとサラダが少なくなってきたのを見て、大皿からよそった。
サンクス、と、軽くオリバーに礼を言ってから本題に戻り、
「そうですか?それはありがとうございます。お褒めいただいて光栄です」
と、今度はイギリス英語で言った彼女。オリバーが今度は感嘆する方となった。
「前夫のイギリス英語に慣れてたし、多分、耳がいいのかも。アメリカ生活も十年以上になりますしね」
ワインのせいで顔がほんのり赤くなった彼女がそう言った。少なくなればオリバーが注ぎ足すので、そのままにして飲んでいる。
よく話を聞いてみれば、彼女の前夫が、オリバーの友人の親戚という繋がりらしい。
デザートにリンゴのクランブルを食べながら、もちろんマキはまた、クランブルに添えるカスタードまでもオリバーの手作りなのに感動していたのだが、ワインも進み、かなりくだけた話をするようになった。
「ほー。じゃあ、オリバーは、人嫌いってとこまではいかないけど、煩わしく思うこともあるからこんな田舎に引き籠っちゃったのねー」
「いえ、充分人嫌いです。特に、アカデミックな世界は、妬みや嫉みというのがものすごいので」
「ああ、なんかわかるような気がする・・・。日本には『出る杭は打たれる』ってことわざがあるの。
権威とか肩書きとか、狭い世界ではそんなものが重要視されて、集団になって毛色の違うものを排除したりね。そんなことする暇があるなら、きちんと自分の為すべきことをやんなさいって感じよね」
「わたしもそう思います」
楽しい夜となった。
一人でいるのを淋しいとはもう思わなくなったオリバーだったが、たまにはこうして誰かと他愛ないことを話しながら、グラスを傾けるのも良いな、と思えた。
ここにも友人がいるし、彼らと会うこともある。いつも一人でいるわけではない。
イギリスに帰れば、友人はもっといて、健在である両親や姉、その家族もいる。パートナーもいたことはあった。
が、今はここでの独り暮らしを気に入っている。静かで、何者にも邪魔をされない自由な暮らし。
(面白い女性だな)
オリバーは数杯のワインですっかりゴキゲンになった彼女を見て微笑んだ。