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虹色の扉 番外編  作者: ひめみや
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22/23

麗しきあなたへ ~京都駅より~



『親愛なるマキ


奈良への旅を終え京都へと戻りました。奈良も素晴らしかったです。どことなくアイルランドに似たものを感じました。例えるなら、華やかな京都がロンドンで、落ち着いた雰囲気の奈良がアイルランド。ダブリンだけでなく、アイルランド全土です。奇妙な比較かも知れませんが、あなたらきっとおわかりいただけるのでは。


歴史を見ると、奈良が都だったのは百年足らずだったのですね。奈良から京へと都が移り、町も人も進化したことをこの目で確かめられて嬉しく感じました。


奈良では春日大社に行きましたが、朝早くから参拝者がいて、皆さん、深く頭を下げて神さまにご挨拶をなさっていました。神使の鹿がゆったりと歩いていて、人を全く恐れずに近寄って来るのがなんともユーモラスで、私自身も癒されてきました。


春日の他には、法隆寺、大仏のある東大寺、そして長谷寺、興福寺。奈良に寺社が多いのは、仏教が西より伝わって来た影響でしょうが、政治的にも利用されたのでしょう。同じ理由で京都にも多い。



二つの都を旅して感じたことは、長い歴史の中で、様々な変容を遂げながらも、日本人の信仰心というのはさほど変わっていないのだということです。あなたから教わったことが、実際にここへ来て裏付けされました。


寺院の僧がつくる枯山水の砂紋、庭師が剪定する松の木の枝振り、苔むした岩など、観光客に見せるためだけにあのような完璧なまでの美しさを維持しているとは思いません。そこには神仏を敬う心がある。


早朝に神社へ行くと、ゴミを拾っている高齢の方々を見ました。服装などから近所の住人だと思いましたが、これが正に信仰心だと思いました。利益などを顧みず、信仰する神仏のために周囲を清浄化する。ただ単に気持ち良くなって欲しいから、なのでしょう。



これは京都の伏見稲荷での出来事ですが、千本鳥居が並ぶあそこは山になっていて、頂上まで階段をずっと昇っていきますね。参拝客は大勢いて、わたしもその波に紛れて上を目指していました。結構な段数なので、息が上がっていき、軽やかな足取りの若者たちが前を歩いていましたが、その群がなにやら避けて左側を行っているのです。


わたしがその場へ追い付くと、そこには腰が九十度程曲がったお爺さんが歩いていました。半袖のシャツを着て、ズボンの後ろポケットにタオルをぶら下げて。


歩幅は狭く、曲がった腰のせいで歩みが遅い。どんどん人が追い抜いていきます、が、しかし、一歩一歩を確実に昇っておいででした。失礼とは思いますが、そんな不自由な身体でよくあの稲荷山を登ろうなどと・・・。


わたしはその光景に胸を打たれ、お恥ずかしながら感涙しました。おいくつの頃からあの山を登っておられるのか知る由もありませんが、一月に一度、もしくは週に一度、ひょっとすると毎日の習慣なのかも知れません。


どうしても声掛けしたくなり、憚りながらも、英語で(この時ほど日本語をもっと勉強しておくべきだったと悔しく思った機会はありませんでした)、『お気張り下さい』と、申しました。ご老人はわたしを見て少々驚かれておりましたが、『おおきに』と、返して下さいました。


『おおきに』とは、関西の言葉で『ありがとう』なのですね。労いの言葉を解されていたとは思えませんが、気持ちが通じたということです。二重に感動しました。



頂上の社で手を合わせた時に、わたしの中には感謝しかありませんでした。これぞ神の御業、日本人の中に根付く信仰心の源、もしくは真髄だということに気付きました。


胸に広がる暖かさを噛みしめていましたら、わたしの方へ鮮やかなオレンジ色をした一頭の蝶がやって来て、ヒラヒラと舞いました。ヒラ、ヒラ、ヒラ、とわたしの身体をひと廻りし、どこかへ飛んでいきました。まるで一幅の絵のようでした。奈良で見た鹿と同じように、あれは神の使いであったような気がします。



明日は東京へ戻ります。京都から真っ直ぐ成田空港へ向かうつもりでいましたが、少々寄り道をしたくなりました。マキ、あなたへも多大な感謝でいっぱいです。



京都駅にて


オリバー』



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