二十話
「真宵〜!あの三人が犯人だって、もう学校中に広まってるよ!!」
上靴事件の翌日、美穂ちゃんが嬉しそうに三人が石橋先生に呼び出されたことを教えてくれた。
『上靴の件も含めて、遠藤達からは話を聞かせてもらう』
石橋先生は理科準備室を出たあと、私達にそう約束してくれた。
そうなったのは変成くんも、
『閉じ込められる前にあいつらの声が聞こえた』って証言してくれたからで。
「ざまぁ!悪事がバレて大好きな楓くんに嫌われちゃったしね〜」
美穂ちゃんが、目を細めてフフンと笑う。
あの三人が私に嫌がらせをしたこと、まだ根に持っているみたい。
まぁでも……仕方ないよね。
私だけならまだしも、無関係な梨子ちゃんの上靴まで隠すなんて。
「美穂ちゃん、あの時は味方になってくれてありがとう」
改めてお礼を言うと、美穂ちゃんは、
「何言ってんの!私達、親友でしょ!?」
って、太陽みたいな笑顔を浮かべた。
✳✳✳
その日の放課後。
閻魔庁の食堂のキッチンは、甘い匂いとバターの香りでいっぱいになっていた。
「よーし!まずはバターを常温に戻しまーす!」
エプロン姿のごーちゃんが、やたら元気に宣言する。
今日は、ごーちゃんに呼び出されてお菓子作りをしている。
「俺、あまりお菓子は作ったことないんだよね」
「あー、変成くんは家庭料理が得意だもんね」
「新婚さんみたいな会話してるよ……」
ごーちゃんが半目で私達を見た。
クッキーのレシピが書かれたページを読みながら材料と道具を確認していく。
テーブルの上には、ボウル、泡立て器、計量カップ。
ボウルの中には小麦粉が入っていた。
普段お菓子作りなんてしないから、上手に作れるか心配。
「……常温って、時間かかりそうだね」
「確かに……じゃあレンジでチンしようか」
溶かしバターをボウルに入れ、砂糖を加える。
泡立て器を動かすと、シャリシャリとした音がした。
「おっ、良いじゃん!上手」
ごーちゃんが覗き込んでくる。
「ねぇ」
「ん?」
「失敗したらどうしよう……」
ぽつりと呟くと、ごーちゃんは手を止めて珍しく少し真面目な顔になり、
「大丈夫大丈夫!失敗したやつは閻魔くんに渡せば喜んで食べてくれるから!」
親指を立ててドヤ顔をした。
「五官王、俺は何しようか?」
「変成くんは秦ちゃんのお手伝いお願い!私はその間にオーブン温めておくから〜」
ごーちゃんがテキパキと明確に指示を飛ばしていくと、あとは焼くだけの段階になった。
「五官王ってお菓子作り得意だよねー。前も誕生日にケーキ焼いてくれたし」
「まぁ、こう見えて家庭科部だからね!」
「へぇ、家庭科部なんだ」
ごーちゃんが見せてくれたスマホのファイルには、恐らく人間の友達であろう子が数人映っていた。
「これはテスト前、部活でカップケーキを作った時の写真」
そこには美味しそうなチョコカップケーキの写真が何枚も。
「美味しそう!」
「美味しかったよ!」
その時、オーブンのタイマーが軽く鳴った。
「お、焼けたー!」
ごーちゃんがミトンをはめて、天板を引き出す。
ふわっと広がる、甘くて少し香ばしい匂い。
「わ…ちゃんとクッキーだ」
ほんのりきつね色に焼けていて、見た目もそれっぽい。
丸いのもあれば、少し歪んだ星型、角が欠けているハート。
でも、どれもちゃんと焼き色がついている。
「初めてにしては上手に作れた!」
「うん、焦げてないしね」
変成くんが、少し照れたように言う。
「じゃあ、冷めるまで待ってね〜。その間に……」
ごーちゃんが辺りを見回した。
廊下の方から足音が近づいてきて、
「良い匂い〜」
キッチンに入ってきたのは宋だった。その後ろには初江王もいる。
「クッキー焼いてたんだ〜!」
宋が興味津々でお皿を覗き込みながら一枚を口に入れる。
「あっつ!?」
素直すぎる感想に、思わず笑ってしまった。
「それより、何で二人がここにいる訳?」
「ああ、それはだな……」
初江王はガサゴソと細長い紙を取り出した。どうやら『温泉半額チケット』みたいだ。
「くじ引き堂の店主から貰ったんだ。しかもご丁寧に五枚。秦は一枚当てたと言っていただろ」
つまり……それは……
「温泉旅行できるってこと!?」
「でも、そしたら一人どうするの?あと一人誘う?」
宋が人数とチケットの枚数を数える。
「ん〜……平等王とか?」
温泉街なら甘い物売ってるだろうし、甘い物が好きな平等王を誘っても良いかも。




