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第二章六 束の間の温もり

夜の冷たい風が、容赦なく全身を打ちつけていた。


どれほど飛び続けただろうか。

トウマは、橙の翼を羽ばたかせるヒナを見上げる。


軌道がわずかに乱れるたび、その小さな身体もかすかに揺れていた。


――限界が近い。


「ヒナ!大丈夫か!?」


声を張ると、ヒナは振り向き、か細い声で答える。


「ごめんなさい……そろそろ、休んでもいいですか……?」


息は荒く、その言葉は今にも途切れそうだった。


トウマは即座に頷く。


「当たり前だ!降りられるか?」


ヒナの唇に、かすかな安堵の笑みが浮かぶ。


やがて、二人の高度はゆっくりと落ちていき――




地面に足が触れた、その瞬間。


ヒナの身体がふらりと傾いた。


「ヒナ!」


咄嗟に抱き止める。


腕の中の彼女は、驚くほど軽く、そして熱かった。

顔は青ざめ、額からは滝のように汗が流れている。


「ごめん……なさい……先輩……」


消え入りそうな声。


胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。


「っ……俺の方こそ……役に立てなくて、ごめん……」


冷たい森の木陰で、二人はそれぞれに自分を責めていた。






――……眩しい。


ぼんやりとした意識の中で、トウマは目を瞬かせる。


右肩に、重み。

そして、やわらかな感触。


……朝か。


次の瞬間、意識が一気に覚醒する。


――しまった。


ヒナが倒れたあと、自分も眠ってしまったのか。


歯を食いしばる。


何をしている。

守ると決めたはずだろう。


――だが、今は後悔している場合じゃない。


ここはまだ森の中。

危険は去っていない。


トウマは立ち上がる。


その瞬間――


支えを失ったヒナの頭が、地面へと落ちた。


「っ!痛〜……」


「え!?ヒナ!ごめん、気づかなかった!」


慌てて駆け寄る。


ヒナは頭を押さえながら、目にうっすらと涙を浮かべていた。


……あれ?朝?


そんなふうに思いながら、ヒナはゆっくりと両腕を伸ばす。


「んー……」


無防備な仕草に、トウマは少しだけ安堵する。


「ごめん、ヒナ」


そう言って、そっと彼女の頭に手を置いた。


「え……?」


その瞬間。


ヒナの頬が、みるみるうちに赤く染まっていく。


大きな手。

優しく撫でる感触。


――安心するのに、どうしてこんなに胸が高鳴るのだろう。


「………」


「……?ヒナ?」


言葉が返ってこない。


怒っているのかと不安になり、トウマは覗き込む。


「ヒナ、大丈夫か?まだ痛いのか?」


「は、はい……大丈夫です……」


か細く答える声。


トウマが手を離そうとした、そのときだった。


――ぎゅっ。


袖を掴まれる。


「……?やっぱり痛いのか?」


戸惑いながら尋ねると、ヒナは顔を逸らしながら小さく言う。


「……まだ、少し……だから、もう少しだけ……」


「そっか。分かった」


トウマは自然に微笑む。


その笑みに、ヒナの心臓が強く跳ねた。


――もう、誤魔化せない。


この気持ちは。






それから、しばらくして。


ヒナは一度だけ空へと舞い上がり、進むべき方角――ヴァルカニア帝国の位置を確かめた。


そして二人は、再び歩き出す。


朝の光に照らされた森は美しいはずなのに――


どこか異様で、静まり返っていた。


まるで、何かが潜み、息を潜めているかのように。


その違和感を胸に抱えたまま、

二人は言葉少なに、奥へと進んでいくのだった。

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