プロローグ 絶望
ーーー公開処刑台。
冷たい石畳の上に、一人の少年が立たされていた。
無数の視線が突き刺さる。
罵声も、同情もない。
ただ、“無関心”だけがそこにあった。
「罪人トウマ。これより処刑を執行する」
淡々と告げられる声。
逃げ場はない。
助けも来ない。
ーーーいつも通りだ。
(……またかよ)
心の奥で、小さく呟く。
生まれてからずっとそうだった。
奪われて、踏みにじられて、
何も持たないまま、ここまで来た。
それでもーーー
(ヒナだけは……)
脳裏に浮かぶ、橙色の髪の少女。
ヒナまで奪われるくらいなら、
俺が全部背負った方がいい。
その瞬間。
ドクン、と。
心臓が、異様な音を立てる。
「……なんだ?」
胸の奥が熱い。
違う。
熱いんじゃない。
“何かが満ちていく”。
黒く、重く、底の見えない何かが。
「な、なんだその力は……!」
処刑人の声が震える。
ざわめく群衆。
一歩、また一歩と距離を取る兵士たち。
ーーーけど、トウマは分かっていた。
これは、世界を壊すための力かもしれない。
だけど、違う。
ずっと、奪われてきた自分が。
初めて、“取り返す”ための力だ。
「……なら」
トウマは、ゆっくりと顔を上げる。
濁っていた瞳に、確かな光が宿る。
「もう、何も奪わせない」
その言葉と同時に。
黒が、溢れた。
世界を飲み込むような闇が広がり、掠れていく意識の中で、少年は確かに立っていた。
ーーーこれは、
何もかも奪われ続けた少年が、
それでも誰かを救おうとする物語だ。




