2-7「睡花」
「コ、ゴ、ゴゴ!」「ゴ、ポッ」
(っ……メチャクチャに刀振り回してるだけなのに一撃が重い……! あたしのスキル振りとかもコピーしてる!?)
ハナ祟来無2体がのらりくらりと叩きつけてくる刀はシャクシャクより重かった。ステータスをも参照しているとすれば、その威力はひとえにハナの選択によるものだ。
一切覚えていないからかアクティブスキルらしいものは使ってこなかったし、何よりパリィ主体のスタイルまで模写してはいないのは救いと言えたが……。
(コピーエネミーなんて、もっとこう終盤に出てくるようなやつなんだけど! 次から次へとメンドくさいことばっか……!)
死にゲー仕込みの経験則があり、搦め手や奇手を脳筋プレイで押し通る腕前にも自負がある。しかし見るべきモノがさすがに多すぎる。
(ちょっとだけ……マズいんだけど。……いっそ死んで仕切り直すとか……鎧袖を……)
思わず汚濁へ伏せた目が、
己の胸に咲いた刺線の花を視た。
「……ッ!」
「「ゴァポッ……!」」
そして左右から貫いてきた刺線を……、
殺しにかかってきたハナ祟来無2体を、下弦の月めいた神速のパリィで同時にいなした。
ーー 『手刀』(素手) ーー
……桃色の偽者の胸を手刀で貫き、
引き寄せるとともに、顔面を打刀で抉り落としていた。
桃色の偽者の胸を手刀で貫き、引き寄せるとともに顔面を打刀で抉り落とした。
(……死んで仕切り直す? 寝ぼけてたんだけど)
我が身の胸から刺線の花が失せる。
それは散りゆく様ではなく、実を結ぶように無数の刀刃が中心へ集まってハナの内へ還っていく様だった。
貌を失ったハナ祟来無が一息に崩れ落ちた。
手刀と打刀にまだ残る余韻に、風来姫は笑っていた。
(この死闘を、あたしが楽しまなくてどうするのよ)
見るべきモノが多すぎる?
いいや、ハナが視るべきモノはたった1つ。
いつ超えるとも知れないシセンだけだ。
死んで仕切り直そうなんて、死にゲープレイヤーとして微睡みもいいところ。
(目が醒めた)
死んで花実が咲くものか、
しかし、
(じゃあ……まだまだ殺し合えるわね?)
しかし、死の境でこそ咲く花実もあるのだ。
「あっ……ああぁぁぁぁ拙僧の子がぁぁ!」
粘液帽子の目を充血させたシャクシャクが飛び込んでくる。まっすぐ突き込まれた刺胞棍棒の腕を、ハナもまた真っ向から踏み込んでいなした。
脇腹を抉りそうなギリギリを刺胞棍棒が吹き抜けていったが、避けようとする本能をねじ伏せて反撃の一刀を放った。
シャクシャクの腕の根元へかすりヒット……、
ーー 会心(Critical Hit) ーー いや、かすりヒットどころかクリティカルに斬り抜いた。
「ぎゃっ!?」
(っ? こいつ、避けなかった……?)
ハナの一意専心の賜物というよりは。あの掴みどころの無い回避でパリィのよろめきから逃げなかったため、無様に斬られたように見えた。
悲鳴とともにようやく退いていき、憤怒の形相を落ち着かせていった。
「ポポ、ポ、ポッ……どうして……どうして……尊い命への愚弄です……」
「コゴポポッ」
「グロいのはあんたらなんだけどっ」
嘆きながらも、残るハナ祟来無と連携してまたも急襲。
ハナがパリィすると……今度は逃げられてしまって、かすりヒット。
追おうとした行く手に折悪く水柱が上がり、舌打ちとともに迂回……、
いや、
迂回する前にハナは閃いた。
(……そっか! ひょっとしてこの水柱……履行技っていうよりギミックだとしたら……!)
醒めたゲーム脳が、点と点を線で繋いだのだ。
ハナは信じている。開発者がこだわりを持って生み出したボスには、核心ともいうべきコンセプトがあるのだと。
面倒臭さをいくつも詰め合わせたボスであっても。かの『シャクシャク』を一言のもとに解きほぐせば、それはやはり……。
活路は、その答えにある。
だからハナは、活路の中へ……、
水柱の中へ、自ら飛び込んだ。
「っぷ!」
「……コ、ポコポ!」
ーー 火傷(Burn) 無効 ーー もちろんぶっ飛ばされた。3度目ともなると不時着せずに受け身で着地したが、当然のように水柱は緋色のハナ祟来無を産んだ。
しかしてカノジョの空襲をステップ回避した先で、ハナは次の水柱へまたも飛び込んだ。
「ポポッコ!」
ーー 石化(Petrifaction) 無効 ーー ぶっ飛び、受け身、ハナ祟来無発生。
回避、飛び込み、
ーー 混乱(Confusion) 無効 ーー ぶっ飛び、受け身、ハナ祟来無発生……、
回避、飛び込み……、
ーー 麻痺(Paralysis) 無効 ーー ーー 石化(Petrifaction) 無効 ーー ーー 凍結(Freeze) 無効ーー ーー 猛毒(Toxic) 無効 ーー ーー 魅了(Charm) 無効 ーー ーー 混乱(Confusion) 無効 ーー ーー 沈黙(Silence) 無効 ーー ーー 火傷(Burn) 無効 ーー
「ポポポポポポッ、ウフフフフフ……! 拙僧の子供達がこんなにたくさん……!」
「「「「「「「「「「「コポォッ!!」」」」」」」」」」」
汚濁の本堂は、さながら、膿んだ尼僧の胎の中。
数にして10を超えてしまったハナ祟来無たちが、母の哄笑に乗せてのべつまくなしニセ刀を振り回す。
(これくらい増やせば、もう寝ぼけないわね)
しかし、笑っていたのはハナとて同じだったのだ。
【『ブラッドドーン』】
死にゲーアクションRPG。防御手段としてパリィや回避はあれどもガードが存在せず、敵に反撃することで失った体力の一部を取り戻せる『リウェイク(再起)』システムが特徴。
看谷 英子が最も好きな死にゲーの1つ。ジャスト回避前提、食らったとてなお血路を開くことで首の皮1枚繋がるゲームデザインが性に合っていた。もっとも周回を極めた頃には全回避&ノーダメージがデフォルトになっていたが。




