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聖女様は疫病神?  作者: 黒みゆき


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191/191

191.

お越し下さりました皆様。長い間お付き合い下さりまして有り難う御座いました。

右も左も分からない中、試行錯誤の連続でここまで来ました。

いよいよ、とりあえずの最終回となります。

お楽しみください。

 なんだか騒がしいけど、何があったんだろう?

 気にはなったけど、私は船の操船に忙しくてそれどころじゃなかった。

 だって、下から吹き上げて来る熱風で船が翻弄されていて、態勢を維持するので精一杯だったから。


 あ、私はアンジェラ。その昔王室直属のシュトラウス情報調査室に所属している調査員だった。つまり、スパイね。

 調査員として毎日のように妹のジュディと共に国内外を駆け回って情報収集をしていたのだったが、何がどうしてこうなったのだか、今はシャルロッテ殿の元で空飛ぶ船の運転手をしているのだった。

 なんの因果か、この船は私の精神波?とかで動いているらしい。らしいと言うのは、誰も詳しい事を知らないのだ。たまたま、ほんとうにたまたま私に反応してくれたから、ここまで運転手をしてきただけだった。


 今、私は両脚を踏ん張り必死に舵輪にしがみついて悪戦苦闘している。

 周囲を見回す余裕は無かった私は視界の端に見えたポーリンちゃんに声を掛けた。

「ねぇ、なんか騒がしいみたいだけど何が起こっているの?」

「ああ、アン姐はみてへんかったんやな。突然な、姐さんが船から飛び降りてしもたんや」

 そのとたん、船が大きく傾き、あちこちから悲鳴があがった。

 それと同時に、危うく甲板から振り落とされそうになったお頭の怒声が響き渡った。

「くおおらあああぁぁぁっ!!しっかり運転せんかあああぁぁぁぁっ!!!」

「ひいいっ!!」

 お頭さんの怒鳴り声って、心臓に悪いわあ。思わずびびっちゃったわ。

「シャルロッテ殿が飛び降りたって、いったいどういう事なのでしょう?お頭さんに何かされたのでしょうか?」

 小声で聞いたつもりだったんだけど、なぜかお頭さんの耳に届いていたのには驚いた。

「な~~~んか、言ったかあああぁぁぁぁ?」

 睨まれてしまった。

「ななななんでもありまあせええええんん」

 嫌な汗がだらだら流れてきましたぁ。


「あんなぁ、最初は船に乗ろうと普通に走って来よったんや。それがな、船に乗ったと思たら急に振り返ってそんまま、ぽーーんや。さっぱり訳がわからんわ」

 ポーリンちゃんは、本当に訳が分からないって顔をしているわ。さて、どうしましょう。

 困った時はアドラーちゃん頼み。わたしはアドラーちゃんを探して視線を周囲に泳がせた。


 居たっ。直ぐにアドラーちゃんと目が合った。

「アドラーちゃん、急いで戻らなきゃあ!」私はそう叫んだ。

 当然彼女も即同意をしてくれるものと思っていたのだが・・・。

「アン姐、私達の一番の任務は?」

 即、切り替えされてしまった。

「あ うう り 領主様とそのご家族の 救出・・・」

 それだけ言葉を絞り出した所で、言葉が詰まってしまい何も言えなくなってしまった。

「そう。そういう事よ。私達には任務がある。そして、その任務はまだ完遂されていない。私達に出来る事は任務を完遂させる事。姐さんが通路の暗闇に戻って行ったのは、姐さんの自己責任。そういう事よ」

 なんか、いつもにも増して彼女は淡々としていた。と言うか冷たく感じられた。私にはそれ以上は意見を言えず操船に専念するしかなかった。


 だけど、堂々と反論する方が一名いらしゃった。

「違う。それは違うぞ」凛とした声が甲板上に響き渡った。

「そりゃあ、私達も開放されて自由にはなりたい。だがな、それが誰かの犠牲の上に成り立っていたのでは、本末転倒だ。そんな自由なら私は喜んで放棄しよう」

 それは領主様であらせられ、更に言えばシャルロッテ殿の兄上でもあらせられるマイヤー・リンクシュタット様ご本人だった。

 そして、その周囲にいらっしゃるご家族の皆様も、みな同様にうんうんと頷いて居る。小さな御子までもだ。

「あの子には、今こそみんなの力が必要なはず。どうか、我々はここに降ろして行ってくだされ。そして、すぐにあの子の後を追ってくださらんか。お願いする」

 そう言うと、領主様だけでなく、ご家族の皆様方も揃って頭を下げてきた。

 さあ、困ったぞ。こんな高貴な方々に揃って頭を下げられて、どうしたらいいの?

 おろおろするばかりの私とは違って、アドラーちゃんには迷いが全くと言って良い程感じられなかった。


「それは出来ません。我々は姐さんの指示で動いています。命令を変更するのであれば、姐さんの了承が必要になります。命令系統と言うものは大事なのです。守らなければなりません」

 領主様に向かってそこまで堂々と反論出来るアドラーちゃんって、何者なのぉ?小心者の私には無理だわ。

「だがなぁ、そんなに四角四面に捉えなくても、もっと臨機応変にだなぁ・・・」

「それは臨機応変とは言わなくて、行き当たりばったりと言います。そんな事をしていたら、作戦なんてグダグダになってしまいます。いままで、それでどんだけ苦労してきたか・・・」

 ふと周囲を見ると、お頭さんを始め、みんながうんうんと頷きながら大袈裟に泣く真似をしているではないか。あんたら旅芸人なんかいっ!と突っ込みたい気持ちはあったが、気弱な私には出来なかった。

「事前に用意周到に行動を練り、その通りに行うのを作戦行動と呼びます」

 アドラーちゃんも一歩も引かない。

「だけど・・・」

 反対に段々と声の力が弱くなっていく領主様だった。


 そんなやり取りをしている間に、船はよろよろと進み、要塞上空を脱して塩の川に達して居た。

 海岸線の方を見ると一列に並んで歩いて居る人の列が遠目に見えていた。要塞から脱した人々の列なのだろう。

 ああ、来る時は要塞にばっかり集中していたので、海岸線に近いんだって気が付かなかったわね。

 不意にアドラーちゃんに声を掛けられた。

「アン姐、あの海岸線を歩いて居る人の列に近寄って頂戴」

 もちろん反対する理由もなく「了解、進路を変えて人の列に接近します」

 私は大きくゆっくりと舳先を人の列の方向に向けていった。


「領主様?私達は御妹君と随分長く旅をして参りました。そりゃあ、妹君の優柔不断だったり無謀だったりの判断で、何度酷い目に遇った事か知れません。ですので、如何なる時も最悪の事を想定して作戦は立てております。今回の事も何かやらかすんだろうなぁとは思ってはいたので、想定内と言えば想定内ではあります。まあ、船から飛び降りる事は流石に想定外ではありましたが、それなりの手は直ぐに打つことが出来ます」

「それじゃあ・・・」

 領主様の顔色がぱああっと明るくなった。

「私達も悪魔ではありません。姐さんを助けたい気持ちはみんな同じだと思います」

「おう!なんだろうなぁ、毎回毎回酷い目に遭わされてはいるんだが、どこか憎めないものがあるんだよ、あんたの妹にはよ。こいつ、疫病神なんじゃあねーかって思いながらも、毎回助けてしまうんだよ。俺って、損な性分なんだろうなあ」

 お頭さんがしみじみとそんな事を呟いた。

「みなさん・・・」

 領主様の目は涙でうるうるしている。


「俺達はよ、聖女様に頼まれてんだよ。あいつをサポートしてやってくれってよ。だからよお、逃げっちゃえばいいのによ、律儀に手を貸しちまうんだよな。ああ、バカみたいだって思うぜ、自分でもよ」

「ムスケル、君のその献身には必ず報いるつもりだ。どうだろう、兄様に奏上して騎士団長のポストを用意しようじゃないか」

 領主様、それってとびっきりの報奨なのでは?お頭さん、すごーーい!


「じ 冗談じゃねー、堅っ苦しいのが嫌で山賊の真似事をやっていたのに、そんなもんまっぴらごめんだ!」

 欲の無いお頭さんに、その場に居たみんなが爆笑している。

「で、どうするんだ?当然何か策は立ててあるんだろ?」

 お頭さんはアドラーちゃんに詰め寄っている。たぶん照れ隠しのパフォーマンスなんだろうなあ。そんなとこ、可愛いかもww


 するとアドラーちゃんは領主様の方に向き直り、静かに話し始めた。

「我々はみな姐さんが心配ではあります。ですが、すぐに支援に行けない理由もあるのです」

 領主様に対してこの物言いは失礼ととらえられても仕方が無いのだが、領主様はニコニコと聞いて居る。

「わかっているよ、お嬢さん。我々がお荷物になっている事は重々承知だ」

「いえ、御荷物だなんてそんな失礼な事、思っても言いませんよ」

 しらっと言うアドラーちゃんに、お頭さんがぼそっと呟いた。

「思ってるって言ってるじゃあねーかよ、面と向かってよお」

 ぷっ 私は思わず吹き出してしまった。


「お嬢さん、アドラーさんと言ったかな。今、この船を一番必要としているのはロッテだ。我々じゃあない。そんな事は重々承知しているよ。君も立場上我々に降りろとは言えないだろう。だから、わたしが命じよう。我々を今直ぐ降ろしてロッテの探索に向かいたまえ。出来るね?」

 すると、アドラーちゃんはおもむろに領主様の前に片膝をついて頭を下げた。

「領主様のお気持ち、受け止めさせて頂きました。私達もそのご意向に沿って行動を起こしたく思います。ですが、ここに置いて行く訳にはまいりません。このまま領民達の列までお連れ致します。そこには先だって話に出てまいりました老人部隊も配置しております。そこで、領主様方を領民の皆様にお願いして、姐 シャルロッテ様の探索・支援・救出に向かいたいと思います」

 領主様の弱弱しかった右手がすっと伸びてアドラーちゃんの肩にそっと乗せられた。ハッとして顔を上げたアドラーちゃんに領主様はニコニコと満面の笑みで語りかけた。

「ロッテの事、宜しくお願い致します。もし、我々に出来る事があったら遠慮なく申し付けて欲しい。最優先で動こうではないか。全力で支援させて貰う」

 さすがにこの申し出は想定外だったのか、アドラーちゃんが珍しく驚いて居るようだった。

「そのお言葉だけで、勇気百倍であります。姐さんの事はお任せ下さい」あのアドラーちゃんのセリフとは思えない丁寧な返しだった。

「君達のこれからの行動は私からの命令・・・いや、依頼である。妨害する者がいたらその事を公言して構わない。その上で邪魔をするようであれば・・・力ずくで排除して構わない。私が責任を持とう。ムスケル、世話をかけるが妹の事宜しく頼む。みんなまだ若い、と言うかまだ幼い。お前の力で支えてやって欲しい」

「お おう。任せろや。こいつらの面倒はなれたもんだぜよ。早くあいつの身柄を押さえんと、何やらかすかわからんからな。この大陸も危ないかもしれんからな」

 お、お頭さんも、なんか柄にもなく照れてるみたい。


 そんなこんなで、船は海岸線に近づき、塩の川の河口部に無事着水した。

 船を川岸に接岸すると、近くを歩いて居た領民達がわらわらと集まって来て、領主様の下船の様子を遠巻きに見ている。

 よく見ると、膝まづいて両手を合わせる者、立ったまま号泣する者が多く見受けられる。

 泣きながら駆け寄って来るのは・・・ああ、あれは一旦集まっていた老人部隊の人達だ。再会を喜び合っている。本当にうれしそうだ。こっちまで涙ぐんでしまうよ。

 でも、そんなほっこりとした人々をゆっくり見ている暇はなかった。領主様達を降ろしたら、即刻飛び立たねばならないのだが、老人部隊の何人かが船に乗ろうとして、アウラ姐さんと何か言い合いをしている。

 多勢に無勢でアウラ姐さんが劣勢になっていたが、すかさずお頭さんが援護に向かい、老人達と話し合いを・・・している感じではないなぁ。みんなしてがなり合っているようで、甲板上にまでその怒声が響いてきている。


 その内、とばっちりがこっちにもやって来た。

「くおおおらあああぁぁっ!!そんなところでのんびり見て無いで、さっさと飛び立つ用意をせんかああああぁっ!!」

 はいはいはい、そんなに怒鳴らなくても聞こえて居ますよお。

 私は急いで操船台に向かった。そんなに慌てなくたって、飛ぼうと思えば直ぐに飛び立てるんだからねー。

 舷側からロープを垂らして発進待機をする。お頭さん達はこのロープで船に上がって来るが、老人達には無理な乗船方法だった。


 やがて、お頭さん達が船上に上がって来たので、私は船をゆっくりと上昇させた。

 領主様達には、屈強な男達が警備についたらしく、領主様の担架を大勢の兵士達が取り囲んで歩いて居るのが高くなっていく船の甲板手摺りからも見る事ができた。


 私達の船は、今来た道を引き返し灼熱の東部要塞の成れの果てに向かって居る。火勢はだいぶ衰えてきてはいるが、まだまだ予断を許さない状況だった。

 またあの灼熱地獄のような場所に行くのかと思うと気が重いが、それでも船はどんどんと要塞に近づいて行く。

 私達は他にどこに行ったらいいかわからなかった。

 あの聡明なアドラーちゃんですら、難しい顔をしたまま、船の舳先で前方をじっと見据えたまま身じろぎもしないでいる。

 きっとあの頭の中では、物凄い勢いでこれからの行動について考えているのだろう。

 うん、きっとそうに違いない。私は自分の出来る事、船の操船に全力をつくすだけだ。

 みんなが、各々の出来る事をしっかりやれば、きっと道は開けるに違いない。

 私達の新たな旅立ちは始まったばかりだ。


 ※※※※ End ※※※


終わりました。全くの素人同然の私でしたが、悪戦苦闘しながら好き勝手に書いてきました。

さぞや読みにくかった事と思います。

これからも、勉強しながら少しでも上達出来ればと思いながら書いて行きたいと思います。


次作は、この続きとなりますが、主人公はムスケルとなります。彼の苦悩と彼を取り巻く少女達を描いて行けたらと思っております。

タイトルは “俺はムスケル、不幸を纏う漢” で11月8日より基本毎週土曜日にUPしようと思います。

もしよろしかったら、また読んでやってくれますと嬉しい限りです。

では、又来週お会いしましょう。

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