第一話 シリスティアリス母上
第一章のアレクシリス視点のお話です。
別のお話にするか迷っていましたが、番外編としてアレクシリスの事情と、裏話を書きます。
僕とマリーの出会いは、まだ母上が生きていた一年前になる。
「シシィ。この子は、マリー。マリシリスティア=サンドラ=ファルザルク、三歳よ。貴方の妹になるわね。これから一緒に暮らすのだし、マリーは、シシィを『あにうえ』って呼んであげてね」
母上が、色々と言葉足らずの紹介をにこやかにした。
当時の母上のセリフに、その後の状況を分析して、足らない言葉を想定して当てはめてみた。
「シシィ(僕の愛称)。この子は、マリー。マリシリスティア=サンドラ=ファルザルク、三歳よ。(一つ年下だから)貴方の妹(みたいな感じ)になるわね。これから一緒に(しばらく)暮らすのだし、マリーは、シシィを『あにうえ』って(微笑ましいから)呼んであげてね」
おそらく、すべて合っているだろう。
その時は、うっかり母上の言葉をそのまま信じてしまった! マリーが僕の異母妹だと本気で思ってしまったのだ。父上に、母上以外の妃はいない。
だから、マリーの母上は、平民出身の女官か使用人だったのだろう。今まで、マリーが生まれていたのを、知らされていなかったのだと思った。
きっと、貧しい暮らしをしてきて、マリーの母上が亡くなったから、引き取られたのだろうと、勝手に思いちがいをした。
だって、あの頃のマリーは、僕より一つ年下の三歳と思えないくらい、小さくやせ細っていたからだ。僕は、この弱々しい妹がとてもかわいそうだと思った。
事実は、マリーの両親が外交で他国をめぐり留守にする間だけ、王妃宮の母上が、あずかっていただけだった。
マリーの両親が異母姉上夫婦だったと知ったとき、僕は母上と、しばらく口をきかないくらい怒った……!
「マリシリスティアでは長いから、マリーだね。よろしく!」
僕がマリーの手をにぎると、びっくりして手を振りほどかれてしまった。僕は、なぜマリーがびっくりしたのか分からなかった。
「シシィ、いきなり女の子の手を握ってはいけません」
「はい、母上様」
そうか、いきなり女の子の手を、にぎってはいけないのか。
「マリー、シシィが驚かせてごめんなさい」
「ごめんね、マリー」
マリーは、おずおずと下をむいていた顔を上げた。マリーは、なついていない子ネコみたいで、僕はかわいいと思った。
母上は、銀の髪に紫の瞳をした妖精の女王様のような絶世の美女だった。どこか夢見がちな少女のように、おっとりとしている。 …… ように見えて、非常に強くて、真っ黒い性格をしていた。
『シリスティアリス様は、基本的に自己完結してる。彼女のような母親を持って、君は苦労しそうだね』
ゼルガセラータ伯爵、通称『図書館の主』は、母上について、僕におすすめの本『人間の心理考察』を手渡しながら言った。子どもに専門書はむずかしすぎると思う。
彼の言葉を、僕はそうだと思ったし、全然ちがうとも思った。
母上は、僕の事をとても良くわかっていた。僕は、ふつうの子どものように、かわいがられるのは苦手だった。頭をなでられたり、抱きしめられたりするのは好きじゃなかった。我ながら子どもらしくないと思う。おさない頃から、はっきりとした自我や思考を持っていたからだろう。
まるで、異世界転生者みたいだが、僕に前世の記憶はない。
しかし、おさない子どもの世界は、まだまだせまい。僕の知ることが出来ることは少なかった。もしかしたら、母上が僕にわからないように制限していたのかもしれない。
マリーは、まるでお人形の様だった。とび色の瞳は、ぼんやりとしていたし、笑いもせず、泣きもせず、ただじっとしてる。マリーは、食事も、ほんの少ししか食べないらしい。じっとしているだけだから、お腹も空かないのだろう。
今日の僕は、マリーと中庭にいる。
「シシィ。マリーと遊んであげなさい」
母上が、僕にそう言ったからだ。
でも、こんな小さな女の子と、何をして遊んだらいいのかわからなかった。
マリーは、体力もないらしく、少し中庭を歩いただけで、つかれたのか座って動かなくなってしまった。
僕は、しかたなくマリーの足元に植えられた、花を指さして名前を教えた。
すると、マリーはしっかりと花を見つめている。僕は、次々と花を指さして名前や種類、花にまつわる話をした。マリーは、僕の話を聞きながら花々を見ているようだ。
辺りの花々の説明がすんだので、マリーに手をさし出して、もっと他の場所へ行こうとさそった。マリーは、おずおずと僕の手をとり立ち上がった。
それにしても、マリーは小さい。立ち上がっても背丈は小さいし、手なんかにぎると、こわれそうに細くて小さい。僕は、力を入れすぎないように注意深く手をにぎった。
すると、マリーはフワリと、ほほえんだ。
僕の胸の奥が、ギュウってなった。その時から、僕はこの小さな手を守りつづけたいと願っている …… 。
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