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私のかわいそうな王子様  作者: 七瀬美織
第一章 初恋
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第十四話 精霊の種






 その日、夜になるまでに数人かのアレクシリス付きの使用人が、近衛騎士団の詰所から戻された。アレクシリスの使用人の全員が、取り調べから戻るには時間がかかるはずで、もしかしたら、二度と戻らない者だっているだろう。

 なので、使用人の人数は、まだまだ足りない。『マリシリスティア姫のわがままで、アレクシリス王子のお部屋に居座っています作戦』は続行されている。 …… 作戦名長いな。


 父上は、二日間で目処めどをつけるつもりらしい。だから、騎士団ではきっと徹夜組もいるのだろう。ああ、父上の目の下のクマサンが、また増えちゃう …… 。


 その夜、私とアレクシリスは、子供二人でも大きすぎるベッドで、一緒に眠ることになった。ベッドサイドの小さな灯りが、アレクシリスのサラサラの金髪と、天使の様な寝顔を照らしている。私は、それを見つめながら羊を数えていた。


 私は、緊張しているらしく、眠れなかった。いったい、何に緊張しているのだろう? ベッドに横になってからも、ずっと心臓がドキドキしている。

 私は、頭の中の放牧場に千頭目の羊を押し込んでため息をついた。 …… 眠れない。眠らなくてはと思えば思うほど、眠れなくなってしまう。


 不意に、アレクシリスが小さな声で何かつぶやいた。寝言だろうか? アレクシリスの金色の長いまつ毛が震えて、柔らかな頬に涙がスッと、こぼれ落ちていった。

 私は、アレクシリスの涙をそっと指先で拭いながら、彼の将来について考えた。

 小さな王子様は、自分の居場所を守るために、苦難の道を選んだ。正式な竜騎士になる誓約を守るため、ずっと努力し続けなければならない。

 その原因の一端は、私にあるのだ。彼の人生に、大きな義務を背負わせてしまった。アレクシリスの好意からだといっても、私の責任を重く感じていた。


 もしも、私の前世騒動さえなければ、優秀な両親は、アレクシリスの周辺に隙を与えたりしなかったはずだ。両親や側近達が、私の秘密を守るために、外部と極力接触しなかった間、アレクシリスを孤立させてしまった。結果、アレクシリスに、ずっと不安な思いをさせてしまった。

 幸い、竜族の杜若と藍白は、アレクシリスに好意を持って接してくれている。杜若なんて、完全に父親ポジションだった。これから、父上が何かと拗ねそうな予感がする。父上も、アレクシリスの第二の父親のつもりでいるのだ。お祖父様は、アレクシリスの実父として、どうお考えになったのだろう?


 私は、アレクシリスの手をそっと握った。


 たとえ、意識が無くても、他者の体温は安心感を与えて、深い眠りにいざなってくれるそうだ。は、こうやって幾夜も、の手を握りしめて、眠ったものだった。互いの手の温度が相手に移るまで、ずっと …… 。


 私は、ハッと、目を見はった。は、誰? って誰の事なの?


 痛みが、ガンガンと目の奥から響き出してきた。突然の頭痛に、身体がぎゅっと縮こまり、額に汗がにじんでくる。


『ごめんなさい。わたしが、あなたを混乱させてしまったのね …… 』


 優しい声が、私の耳に届いた。頭の痛みが消え去り、身体中が軽くなる感覚がした。




 そっと目を開くと、私はいきなり深い森の中にいた! 違う! 水の中だ!


 私の叫んだ口から、息がコポコポと泡になって上っていった。息は全く苦しくならない。水を空気の様に肺に吸い込んでも平気だ。これは、夢だからだろうか?


 落ち葉がキラキラと光を反射して、森の木々の間を流れていった。突然、落ち葉は方向転換をして、こちらに向かってきた。葉っぱじゃない …… ! あれは、魚の群れだ。森の中なのに、海の底のように熱帯魚の群れが泳いでいる。

 さすがに。珊瑚や海藻は繁っていないが、岩山に蔦や巨木の根が這いまわっている。森の木々は、見上げても頂点がわからないほどの巨大で高い。木々の枝は、豊かに葉を繁らせ、明るく光の射す水面に向かって伸びていた。

 私の体は、ゆらゆら漂うように水中を、ゆっくりと左右に回転しながら、流れに乗って移動していた。


 森の木々の隙間に、緑に埋もれそうな、小さな家が見えてきた。

 まるで、森の隠れ家だ。庭には、沢山の草花と野菜がたわわに実った畑がある。木陰に籐蔓で編まれたソファーを、木の枝に吊るしたブランコがある。可愛らしいクッションが、たくさん並んでいる。木陰でブランコに揺られながら、お昼寝すると気持ちが良さそうだ。


 家の少し手前に、開けた場所がある。そこに、白い小さな草花の花畑が広がっていた。その中心に、小さな光の柱が立っていた。ううん? 違う、柱じゃない。淡く光る十歳ぐらいの少女だった。


 彼女は、髪も、瞳も、肌も、衣服さえも、クリーム色の濃淡で、内側から淡く光を放ってる。綺麗な立ち姿は、さっきの子供らしい高く澄んだ声とは反対に、落ち着いた雰囲気の大人の女性のようだった。


「貴女は、誰? 前にも、 …… 会ったことがある?」


 私は、彼女が誰なのか、知っている気がした。


『わたしは、あなたに宿る『精霊の種』。こうして、会って話すのは二度目ね。マリシリスティア姫、わたしの『精霊の姫君』』

「貴女が、『精霊の種』?!」


 『精霊の種』だと名乗った少女は、宙に浮かぶ私の手を取り、地面に下ろしてくれた。私は、この温かい手を覚えている気がした。


『精霊の種』は、私の手を握ったまま、正面に向かい合っていた。彼女の顔は、淡く光り表情があまり読み取れない。まるで、色を付け前の蝋細工のお人形のようだ。無機質な作り物の様な身体だ。でも、握った手の温もりから、命があるのだと感じられた。


『ごめんなさい。あなたの壊れてしまいそうだった心を守るには、他に方法が思い付かなかったの』

「私を、 …… 守るため?」


 精霊の種と名乗る少女は、ゆっくりと頷いた。長い髪が、サラリと揺れて、キラキラした光が弾けた。


『あなたは、高熱を出して倒れた日から、わたしと知識を共有している。わたしが、もっと早く目覚めていれば、幼いあなたを守ってあげられたのに …… 。わたしの騎士は、人の世の常識を理解していないの。だから、あなたが虐待を受けていても、命の危険がないと判断して、動こうとしなかった。わたしも彼も、役立たずのうえ、迷惑をかけてごめんなさい』

「では、私は前世の記憶を思い出したと思っていたけど、それはあなたの記憶だったの?」


 彼女は、ゆっくりと頷いて、悲しそうな顔をした様に見えた。


『あの日、わたしは、あなたの心の叫びで目覚めたの …… 』

『私が、アレクシリスと結婚出来ないって知った時?』

『 ………… そうね。あの頃、アレクシリス王子との約束だけが、あなたに生きる意味を与えていた。あのままでは、あなたの心が、粉々に砕けて壊れてしまうところだった …… 」


 それ程までに、私は精神的な衝撃を受けていたのか?! どうしても、思い出せない …… 。


「あなたは、不幸な生い立ちのせいで、他者と触れ合う機会が限られた、無垢で無知な幼子だった。だから、自分の精神を守るすべを、あなたに与えたくて、あなたの意識をわたしの知識に触れさせたの。だけど、目覚めたばかりのわたしには、精神系の魔術なんていきなり無茶だったのね。あっという間に、あなたに知識を吸収されて、わたし自身が危うくなってしまったわ。わたしの知識に引きずられて、あなたの人格にまで影響してしまった。本当に、申し訳ありません』


 そう言うと、少女のシルエットは、頭を下げて綺麗な礼をした。


「私を助けてくれようとして、した事なのでしょう? だったら、謝る必要はありません。私は、前世の記憶を思い出したのではなくて、貴女の知識を吸収したのですね」

『そう、異世界転生者は、わたしなの …… 』


 そうか、そうだったのか …… 。ずっと、引っ掛かっていた違和感の正体が分かった。


 私は、両親に前世の記憶がよみがえったと話した。知識は、異世界の物だとはっきりとわかっていたからだ。

 だけど、前世の記憶の中に、前世の私個人に関わる記憶は何一つなかった。自分が経験した事ならば、記憶と共に懐かしさや感情が甦ったり当然するだろう。

 でも、私の前世の記憶は、まるで他人事。他人の記憶。彼女の言葉が、私の違和感にピタリと当てはまり納得出来た。


 それに、よく考えると私の知識に、王宮の内部事情や貴族の派閥の知識があったり、知らないはずの、この世界の常識が存在するのは変じゃないだろうか? 両親、特に父上が気がつかないはずはない。魔王様の考えている事は、奥が深そうで怖ろしい。


『それにしても、もっと早くわたしが目覚めるか、精霊の騎士にもう少し人間の常識があれば、あなたを苦しめたりしなかったでしょうね』

『我が、不徳のいたすところ …… 』


 いきなり横から、テノールの声が響いてきて驚いた。大きな黒い塊が、私達の横にある。よく見ると、黒い甲冑に黒いマントを羽織った、黒ずくめの騎士が跪き俯いていた。


『姫君に心よりの謝罪と、我が主と変らぬ忠誠を捧げると誓う』

「 …… 謝罪を受け入れます。貴方のお名前は?」


 冑から流れる黒い長髪に、黒い鞘の長剣を帯びた黒い騎士は、声に感情を宿すことなく淡々と答えた。


『姫君。我は、精霊の騎士であり、それ以上でもそれ以下でもございません。名は持たぬゆえ、我の姿を念じてお呼びになれば、如何なる時でも参上いたします。今の我は、ただ己れの愚かさに、恥じ入るのみの存在。いっそ、屑でも、駄犬でも、虫けらとでも、何なりとお好きにお呼よび下さい!』


 ひ、ひいた …… 聞いているこっちが恥ずかしくなるセリフだった! 冑を傍に抱えて顔を上げた。すごい美形の青年だった。紅い瞳をウルウルさせながら見上げていると、デッカイけど、黒ウサギを連想した。普通は言えないよね。


『 ………… つくづく、残念な精霊の騎士でごめんなさい。一から教育して、必ずもう少し使えるようにするからね』

「 …… よろしく、お願いいたします。ところで、精霊の種さんのお名前は、何というのですか?」

『わたしも、まだ名前がないの。真の目覚めまで、名前も自分が何の精霊なのかもわからない。わたしは、あなたの魔力を糧に、世界が求める精霊に成長していく種でしかないから …… 』

「私達の、知識の共有はこれからも続くのですか?」

『この繋がりは、あなたに必要がなくなれば、自然に失われていくわ。 …… もう、時間ね。また、会いましょう。マリシリスティア姫』

「待って! まだ、聞きたい事がたくさんあるの!」


 唐突に、重力の方向がぐるんと変わり、ベッドに寝ころんだ姿勢になっていた。

 隣には、天使の寝顔のアレクシリスがすやすやと眠っていた。辺りはまだ暗くて、寝室の外も、人が起き出して働いている気配は、まだしなかった。


 私は、夢を見ていたの? あれ? …… 眠い。急に眠くなってきた。睡魔に勝てず、ゆっくりとまぶたを閉じると、心地よい眠りに落ちていった。




「 …… マリー? 大丈夫? どこか具合が悪いの? マリー?」


 私は、アレクシリスに呼ばれて、パンをちぎる手が止まっているのに気が付いた。


 私は、朝からずっとぼんやりしていた。昨夜の出来事が、夢だったのか現実だったのか、頭の中がふわふわしていて考えがまとまらない。私、どうしちゃったのかな?


「姫様、食欲がないようなら、別の食事をお持ちいたしましょうか? それとも、ベイルクス先生をお呼びいたしましょうか?」


 エルシアが、私の背後からそっと声をかけてきた。私は、心配そうなアレクシリスとエルシアに、なるべく元気に見えるように笑顔で返事をした。


「エルシア、大丈夫です。少し、考え事をしてしまいました。シィ様、食事中に失礼しました」

「マリーは、礼儀正しいね。でも、本当に大丈夫?」

「はい。大丈夫です!」


 アレクシリスは、頭を打った後遺症もないし、食欲もあるようだ。朝の光に負けない眩ゆい笑顔を見せてくれた。本当に、良かった。




 朝食後、イトラスが近衛騎士団の詰所から戻ってきた。父上の判断で、取り調べの様子を私達にも伝えるためだ。


 本来は、子供に聞かせるような内容ではないだろう。だが、王族である限り、子供だから知らなかったでは済まない事が、あまりにも多い。

 今回の件も、アレクシリスを利用したい貴族の暗躍が、一因としてあるのだから、心して聞くつもりだ。


 居間のソファーに、アレクシリスと並んで座った。背後にエルシアが控えている。イトラスは、片膝を着いて私達に目線を合わせると報告を始めた。


「まず、従者のガルフーザ=バリン=トラフィニオですが、近衛騎士団の詰所に連行後、真っ先に取調べを受けていました。当初から、彼は沈黙を守っていましたが、隙を見て自ら服毒いたしました。ガルフーザは、ベイルクス先生の的確な治療で、一命はとりとめました。しかし、今も意識は戻らず重体です」

「それで、ガルフーザは、助かるのでしょうか?!」

「ベイルクス先生は、全力を尽くしていらっしゃいます」


 イトラスは、真っ青な顔をしたアレクシリスに、わずかに俯いてそう答えた。ガルフーザの容態は、かなり深刻なのだろう。


 シリスティアリス様が亡くなってから、アレクシリスには二人の従者が付けられた。将来的には、ガルフーザがアレクシリスの侍従長になって生活面を、フレデリクは側近になり、政務的な面を補佐していくはずだった。

 ガルフーザは、アレクシリスにとって、身近な信頼の置ける存在の一人だったはずだ。私に言わせれば、ガルフーザは、愚か者の裏切り者だ。


 でも、いくらなんでも自ら命を断つ必要があるのだろうか? 不敬罪だから? 反逆罪で一族まで処分されない為? 本人が死んでも、罪は消えないのに? 例え、完璧に証拠が隠滅されていても、侯爵家に何の責任もおよばないはずない。私は、ガルフーザの行動が理解できなかった。


「アレクシリス殿下、竜騎士の契約と国法を調べて、殿下にお教えいたしましたのは、フレデリク=アゼル=ウインズワースで間違いございませんか?」

「 …… そうです。フレデリクは、僕のわがままな願いのために、いろんな方法を探してくれていました。竜族の杜若に出会ったのは偶然でしたが、竜騎士の事を知っううたから、契約の話や精霊誓約を結ぶことができたのです」


 イトラスは、申し訳なさそうに話を続けた。


「アレクシリス殿下は、フレデリクが、ウインズワース侯爵の年の離れた異母弟なのはご存じでいらっしゃいましたね」

「はい。フレデリクに直接聞いてます」

「侯爵当主のクラウベルド=ハウル=ウインズワースは、アレクサンドリア王女殿下派の中核です。ウインズワース侯爵は、王女殿下の信頼も厚く、フレデリクはアレクシリス殿下と年齢的にも釣り合いますので、将来の側近候補として従者に就けられたのです。侯爵は、アレクシリス殿下が王女殿下の政敵に利用されるのを危惧されておられました。王女殿下の意向に背くでしょうが、アレクシリス殿下の将来や身の安全を考えて、フレデリクに隣国との縁談をお薦めするように、彼に命じていたそうです」

「え?! でも、フレデリクは、僕に国に残れるように頑張りましょう、って …… 」

「取り調べでフレデリクは、従者として殿下と国外へ一緒に行くのを、回避したかったそうです。彼は、侯爵家の次男ですが、母親は、平民出身の後妻で、異母姉あね達に冷遇されているそうです。彼が、侯爵家から離れれば、母親がどんな扱いを受けるのか、心配だったという理由から、アレクシリス殿下に竜騎士の契約を薦めて、わざと国法の改正をお教えしなかったと、告白しております」

「それでも、フレデリクは、僕のために …… 」

「アレクシリス殿下。フレデリクは、主の意向よりも、自分の都合を優先させたのです。無自覚だったかもしれませんが、竜騎士の契約の情報と、偽りの国法の情報で、言葉巧みに殿下の考えを操ったのです。彼は、アレクシリス殿下の従者として、失格です。殿下が、かばわれる価値すら、彼にはございません」


 アレクシリスは、絶句してしまった。ガルフーザだけでなく、フレデリクまでアレクシリスを利用しようとしていた。私は、アレクシリスに何を言って慰めていいのかわからなくて、ただ一言呼びかけて、震える手を握るだけで精一杯だった。


「シィ様 …… 」

「マリー、心配してくれてありがとう。きのう、義兄上に、従者や使用人について、王族が罪を裁くのに温情を与えてはならない、覚悟しておくように言われました。王族は、好き勝手は許されない。僕が罰を受けないのは、竜騎士の契約と精霊誓約はとても特別なので許されているだけだから、自覚するように、たくさん叱られました。イトラス、それでも僕は、彼らのために何かできることはありませんか?」

「申し訳ございません。今は、怪我の経過を見ている段階なので、安静になさっていて下さい。これは、ベイルクス医師からの伝言です。それと、殿下と姫様は、こちらで大人しくお過ごしになるようにと、近衛騎士副団長からの伝言です」


 イトラスの話は、子供相手に容赦ないと思ったけれど、不器用なだけで、なるべく真っ直ぐに真実を伝えようとしてくれていた。


 それにしても、昨日、私が藍白と精霊の種の話をしている間に、父上は、かなり厳しくアレクシリスの行動を叱ったようだ。父上の方が、アレクシリスの為とはいえ結構容赦ない。

 イトラスの報告が、ひと段落したようだったので、気になっていた事を聞いてみた。


「イトラス、母上の謹慎は、いつまでなのかわかりますか?」

「おそらく、アレクシリス殿下の件が収束するまでかと思われます」

「では、王太子殿下も、同じ期間なのでしょうか?」

「はい。おそらくは …… 」


 私は、母上の謹慎が予想よりも早く許されそうで安心した。両親揃った時に、精霊の種から聞いた話をしようと考えていたからだ。今度は、アレクシリスがイトラスに尋ねた。


「僕は、兄上の思いを無視して、竜騎士の契約を盾に縁談を断らせるような、勝手なことをしました。僕が、直接兄上に謝りに行くことは出来ますか?」


 イトラスは、しばらく沈黙してから答えた。


「殿下に新しい従者と、護衛騎士が選任されましたら、可能かと思われます」

「新しく …… ですか。すぐには、無理なのですね」


 アレクシリスは、かなり落ち込んでいる様子で、声をかけるのも躊躇ためらわれる程だった。


 午後になると、アレクシリスは熱心に手紙を何通か書きあげて、イトラスに預けていた。何を手紙に書いたのか聞いたら、フレデリクや使用人達の処罰の軽減を陛下と近衛騎士団に、お願いしたのだと言う。優しいアレクシリスらしいし、そこまで考えが及ぶところがとても凄いと思った。


 私は、元々無知な幼い子供だ。でも、何か考える時、精霊の種と知識共有があるから、そこから納得のいく結論を導くことが出来る。

 でも、まだまだ幼いアレクシリスが、一人でここまで考えて行動している。本当の賢さとは、こういう事なのだろうと感心してしまった。きっと、アレクシリスは立派な大人になれるのだろう。私みたいに、中途半端な知識チートでは、応用がきかない。ちょっとだけ、アレクシリスの優秀さに嫉妬してしまう。


 そんなことを考えながら、アレクシリスを嫉妬と尊敬の混ざった眼ざしを向けていたら、退屈なら一緒に遊ぼうと気遣われてしまった。純粋なアレクシリスの笑顔が、眩し過ぎて思わず心の中で土下座してしまった。


 こちら中身が残念な幼女で、大変申し訳ございません!



 


お読みいただき、ありがとうございます。




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