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私のかわいそうな王子様  作者: 七瀬美織
第一章 初恋
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第十五話 記憶


不愉快な発言をする者が登場します。

後半になればなるほど、一話の文章は長く、内容が重たくなってきました。

第一章の最終話まで、お付き合いいただければ幸いです。





 翌日のお昼過ぎに、父上が私を迎えにきてくれた。本当に二日間で、アレクシリスの使用人達を調べ尽くしてしまったらしい。

 私は、父上の顔を見たとたん、うるうると目を潤ませて、本気でお願いをしてしまった。


「父上。どうか、少しでも眠って下さい!」

「マリー、平気です。見た目ほど、疲れていません。それに、仮眠は取っているから大丈夫ですよ。多分 …… 」

「多分じゃ、ダメでしょう!」


 父上は、私とアレクシリスに事件の落とし所を説明してくれた。


 国王陛下は、表向き全て無かった事と扱うとお決めになったそうだ。

 それは、ぶっちゃけると、王宮の政務に支障が出たり、兄妹喧嘩に貴族の派閥が絡んで政権争いに発展したり、最悪の場合に内乱が起こったりすることを防ぎたかったからだ。

 たかが、貴族の派閥争いがそこまで危うい状況になるなんて、大袈裟だと楽観視できないのが王政国家というものらしい。


 たが、陛下の意向で、表向きは何も無かった事にするが、子供達(・ ・ ・)に処罰は下された。そして、これらの処罰も処罰として発表されることはない。


 私は、そんな事が本当に出来るのか、疑問に思った。噂や情報が、あっという間に広まる貴族社会で、この騒動が無かった事に出来るのか疑問だった。


「それで、納得して騒ぎにならないのでしょうか?」

「裏で関わる黒幕達も、これ以上騒ぎが拡大するのを望まないでしょう」

「義兄上、何故ですか?」


「今の時期は、国王陛下の病の回復が思わしくないだけで、陛下の在位に問題はありません。貴族の派閥は、互いに牽制し合っているけれど、大きな動きをすれば、逆手にとられて足元を掬《すく》われかねないのです。どちらの派閥も、下手に仕掛けて、逆に潰される可能性があるのなら、沈黙を選ぶのです。それが、貴族社会というものです」


 父上は、忌々しげに話してくれた。


 王太子殿下の処罰は、国益のない(・ ・ ・ ・ ・)ゲンタリオス国とアレクシリスの縁談を、勝手に進めようとした事で、対ゲンタリオス国外交の政務から外された。

 そして、王太子殿下関係の予算を削られた。つまりは、減俸だ。宰相補佐官が、増額を要望していた王太子妃殿下の予算も、同じように削られたそうだ。


 王女殿下である母上は、逆にゲンタリオス国外交の修復を命じられた。それと、母上は、アレクシリスの後見人を外された。つまり、お仕事がまた増えたうえに、アレクシリスに今まで通り関われなくなった …… 。


 父上は、国王陛下の母上に下した後見人を外す処罰が、一番重くて大変だと遠い目をして語った。


 第二王子殿下にも、処罰が下された。


「シシィ、いえ、アレクシリス殿下。殿下は、最速《・ ・》で、竜騎士の叙任を受ける資格を得よと、国王陛下よりの勅命が下りました」

「最速、ですか?」

「はい。殿下と竜族の杜若=バルシャの『精霊誓約』の約定ですから、竜騎士の叙任は、必然的に成されます。それに陛下は、『最速』を条件に加えられました。先日もお話いたしましたが、現在の王族から、竜騎士が輩出される事は、政治的に重要な意義がある事です。そこで、殿下は、最速で(・ ・ ・)貴族院の賛同を得て、史上最年少の竜騎士に叙任されていただきたいのです」


 ファルザルク王国は、政治判断を国王だけでおこなう場合と、上位貴族で構成された貴族院と協議を行い決定する案件がある。私は、まだ詳しく仕組みや内容を知らないから、何となくわかる程度だった。

 つまり、竜騎士の叙任は、同時に竜騎士爵の叙爵も行なわれる。竜騎士爵は、一代限りとはいっても、上位貴族に数えられるのだ。その為、竜騎士の叙任には、貴族院の三分の二以上の賛成が必要なのだそうだ。


 うわぁ、知識チートがいい仕事してるよ。ファルザルク王国の政治まで理解出来る四歳児ってすごくない?! いや、逆に引くよね …… 。


「その為に、私がアレクシリス殿下の剣と体術の師になります。学問全般の師として、ケンフォルティス=サクス=ダンダリオール伯爵が、魔法全般の師として、茨の塔より上級魔術師が派遣されます」

「 ………… 僕が、最速で竜騎士になるには、何年かかるでしょうか? 最速とは、何年後でしょうか?」


「最速は、最速です。通常、竜騎士試験は、成人している事が第一条件ですが、成人前の十六歳で竜騎士の契約を結び、十八歳の成人で竜騎士に叙任された者が過去におります。その者は、成人までは竜騎士見習い扱いでした。理由は、貴族院から竜騎士爵の叙爵を許否されたからです。しかし、近衛騎士では、成人前の十四歳で叙任された前例もあります。少なくとも、竜騎士団史上最年少の竜騎士と呼ばれる必要があるでしょう」

「最速で竜騎士に …… ! それが僕の、王族としての義務なのですね」

「はい。殿下」


 それは、アレクシリスにとって大変な話だと思った。 最年少の竜騎士だなんて、並大抵の努力で出来るわけない。竜騎士は、国軍の要でとても重要な役割があるらしい。でも、文官のリンジャー先生の例もあるし、必ずしも軍属しなくていいはずだった。それに、貴族院に認めさせなければならない。王族だから、叙爵の問題は、それ程抵抗されないと思う。ただ、派閥争いが絡むと、三分の二以上の賛成を得るのが、難度が高いのだろう。


 それに、異母姉《あね》の第一王女(母上)の庇護もなくなる。『アレクシリス殿下を最速で竜騎士に計画』が、国家的な計画だったとしても …… !?

  あ、あれ? 母上が後見人から外れても、これは、国家がアレクシリスの後見人になったも同然なんじゃないのかな? 国王陛下の名の元に最高の教育と環境が与えられる。もしも、母上が失脚したとしても、アレクシリスの立場に影響しなくなるのかもしれない!


 おそらく、国王陛下《お祖父様》は息子のアレクシリスの為に、そこまでお考えになっていらっしゃる。そうだったのか、良かった。お祖父様が、アレクシリスの為に色々考えた処罰《・・》だったのが嬉しかった。


 父上を見詰めると、私の言いたい事が分かったらしい。父上は、決意を新たにしているアレクシリスに気付かれない様に、口に人差し指を当てて内緒のポーズをした。


 もう、父上ったら、それは大人の色気が半端無いのでやめてね!




 私の使用人達が、帰り支度をして順番に持ち場の引き継ぎをアレクシリスの使用人として、元の持ち場に戻っていく。

 そして、臨時だけど、母上の侍従長のガブラン侯爵と侍女がアレクシリスの私室に応援にやって来た。アレクシリス専任の護衛騎士が、数人補充されたが、アレクシリスの従者の二人は、未だに戻って来ていない。


 私は、アレクシリスに退室の挨拶をした。


「それでは、シィ様。失礼します」

「マリー、ありがとう。…… またね」

「はい。また、遊びに来ますね」


 アレクシリスは、私の返事に微笑んだ。その蒼い瞳は、強い決意が宿っていて煌めく海のように輝いていて誇らしく見えた。


 私は、エルシアと侍女に囲まれ、更にイトラス達、護衛騎士に囲まれて出発した。


 私達は、アレクシリスの私室から私の自室までの、長くて複雑な廊下を歩いていた。

 ここから先は、王族専用の棟と、執務棟、国王陛下の政務棟につながる廊下が重なって小さなホールの様になっている。


 私達が、小ホールに入ったと同時に、前方の廊下から、男女が口喧嘩をしている声が近付いて来た。イトラスをはじめ護衛騎士が私の周りを固め、エルシアが私を抱き上げた。

 私は、声の主の一方が、誰なのか心当たりがあった。 …… 母上だ!


「何処へ行く! 話はまだ終わってないぞ!」

「私から、お話しする事は何もございません!」

「この、わからず屋の頑固者!」

「浅はかな愚か者よりは、マシでございます!」

「王太子殿下、王女殿下、お止め下さい!」


 声の主達が、こちらに近付いてきた。イトラス達も、相手が誰だか気が付いたらしい。はす向かいの廊下から、飛び出してきたのは、赤褐色の長い髪を無造作に結い上げた、普段より雑な姿の母上だった。

 そして、続いてやってきたのは、金髪碧眼の騎士服を豪華に勲章や金糸の紐で飾り立てた美丈夫だ。美しく整った顔は、祖父の若い頃の肖像画とそっくり同じだった。アレクトレス王太子殿下だ。母上に殴られた痣は、魔術で治療されたのだろう。


 二人は脇目も振らず、早足で小ホールを横切って、執務棟の方へ嵐の様に去って行った。


 そして、二人の後から十数人の文官や護衛騎士がぞろぞろとやって来た。

 その集団に、華美な紺の長衣を羽織った、恰幅の良い男性がいた。四十代後半ぐらいだろうか? その男性は、禿げ頭に栗色の口髭を跳ね上げて、たるんだ頬を振るわせながら、私達に不快な怒鳴り声を浴びせかけてきた。


「何だ?! 貴様らは?! そこで、何をしている!」

「バルデンハイム宰相閣下。アレクサンドリア王女殿下の第一子、マリシリスティア姫殿下と護衛騎士に侍女の一行でございます。只今、姫殿下が私室にお戻りになられる最中でございます」


 イトラスが代表して、略式礼で答えた。宰相の侯爵は、真っ直ぐ私を目指して歩いて来た。護衛騎士は、宰相の行く手を阻む事は出来ないので、両脇に下がる。イトラスだけは、私を抱き上げているエルシアの手前に下がってきた。エルシアの、私を抱きしめる手に少し力がこもった。


「これが、マリシリスティア姫か …… 。なるほど、リコルダ王族の血が濃い上に、子爵の次男ごときが父親では、王族を名乗るのも烏滸《おこ》がましいというものだな。他国の王族の血も、政局に災いを呼ぶものかもしれぬ上に

 、『精霊の種』から災いの精霊を生み、ファルザルク王国に災厄を呼ぶかもしれぬとは、まさに『忌み姫』ではないか、穢らわしい!」


 宰相のエドワルド=バスチ=バルデンハイム侯爵は、苦々しい表情を浮かべて、吐き捨てるように言った。


 私は、王族に対する臣下とは思えない言葉と、私に対する悪意に衝撃を覚えた。


 たとえ、王族の末席であっても、自国の姫に面と向かって言っていい言葉ではなかった。ファルザルク王国も不敬罪が存在する。宰相がそれを知らないはずはない。宰相側の取り巻き貴族や文官も、顔色を悪くしていた。

 この場にいる護衛騎士たちも、殺気立っていた。護衛騎士は、貴人の警護に誇りを持っているのだ。当然、許し難いと感じているのだろう。


「閣下、姫殿下に対して不敬ではありませんか!」


 イトラスが、静かだが怒りを込めた声で、宰相に抗議をした。


「何が不敬だ!たかが、第一王女の娘だろう! 身内の不始末で、落ちぶれた子爵家の分際で何を言うか! 貴様こそ、不敬であろう! 」


 宰相は、反省どころか、イトラスの立場を貶めてきた。しかも、私は宰相よりも身分が低い認識らしい。


「宰相閣下、姫殿下に対する無礼な言動、即座に、謝罪なさいませ!」


 エルシアが凛とした態度で、宰相に告げた。すると、宰相は激昂して顔を真っ赤にして叫んだ。


「反逆者を出した男爵令嬢ごときが、宰相位の侯爵に意見するのか?! 身の程を知れ!!」




 ………… !!




 宰相の姿が、何かの記憶をかすめた。


 激昂して、叫ぶ乳母の姿。


 私を庇い抱きしめる、あたたかな女性。


 あれは、誰だった?


 彼女は、どうなった?






 …… あかい、あかい、あかい、真っ赤に染まった、真紅の記憶 …… !! 







 

お読みいただき、ありがとうございます。




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