デレたのはいいけど、オスカーはシスコン化したようです
アイリーンたちとどう顔を合わせていいのかわからない。
落ち着いて考えれば、彼女たちだって好きで私を仲間外れにしたわけじゃないから、余計にどうすればいいのかわからないまま、日々は過ぎていく。
アイリーンとマリーンに会いに行っていた時間は何故かオスカーが埋めてくれている。
友達と引き換えに兄か・・・。
素直に喜べない。
今まで無関心だと思っていた兄が突然、私と過ごすようになったのに、違和感しか感じられないのも仕方ない。
兄よ、一体どういった心境の変化がおきた?
私と仲良くしてくれようとしているのだろうか?
そして、オスカーがいるということはフレイもいる。
ウォルト?
何を今更。
この顔ぶれを目にして私も今更、気付いた。
ゲームで名前やモブキャラとしか描かれなかったオスカーと違ってフレイまでいる!
ウォルトはもう避けられないとしても、フレイとまで親しくなるのは勘弁!
ロリコンとの遭遇で私のライフはもうゼロ。これ以上、詰んでる状況を増やしたくない!
それなのにどうしてフレイとの接触が増えてるのよ?!
ウォルトが来る時はフレイはオスカーのところに置き去りにされていたでしょ?!って、そのオスカーがここにいるから、フレイもここに来てしまっている。
兄よ、私を人間不信にするつもり?
あなたまで私を詰んだ状態に追い込むの?
でも、オスカーが仲良くしたいという私の意志をくんでくれたのが、この状況を招いたのだから文句は言っちゃいけない。
私が疑心暗鬼になっている横で、兄と兄代わりの幼馴染とその二人の友達は暢気に話をしている――違った!!
細身のナイフ? いや、ペーパーナイフを三人は持っていて、オスカーとフレイが距離を少しとって攻撃を仕掛け合う。
「?!」
ペーパーナイフで何やってんの?!
私の部屋のものを壊さないようにして欲しい。
驚きで目を丸くしている私のほうにウォルトがやって来る。
「リーンネット。ほら、お前の分だ」
私の手にもペーパーナイフが渡される。
「何これ?」
「室内戦闘の訓練だ。騎士の家や学校では外敵との屋外戦闘向けの教育がされるが、それだと室内戦闘に向かないからな。ハルスタッドでは室内戦闘の訓練をしているから、オスカーが訓練をつけてくれているんだ」
「屋外戦闘と室内戦闘になんで向き不向きがあるの?」
ウォルトに聞いたのに、私の疑問に答えたのはフレイとペーパーナイフで打ち合っている兄だった。
「貴族の館や王城の一部は剣が使えないように天井が低く作られている。特に戸口なんかは天井に比べて低くて、頭に当たるくらい低い。これは扉を開けるのに時間がかかっても、中に入りさえすれば剣を振り上げた追手の一撃が低い戸口に当たって、致命傷にならないようにしているんだ。剣を振り下ろさないで突いた場合、細剣などの突くことを目的にした剣以外だと致命傷を与えるにはかなりの力が必要なんだ。だが、突くことを目的にした剣の殺傷能力は使い手の技量次第な上、切ることを目的にした剣で切りつけられればそれを受け止めるだけの強度がない。小剣で何合か打ち合えば、細剣のほうが折れてしまう。火掻き棒で襲い掛かられても同じだ」
フレイの攻撃を避けたり、逆にフレイのほうに踏み込んで行きながらオスカーは普通に話しているように説明してくれる。
「つまり、細剣は力で押してこられると物理的に弱い。その上、細剣の使い手は細剣で相手の剣を受け止めないだけの技量か、防御用の短剣を左手で扱える技量を求められる。こうした特徴から、不意に起きた喧嘩以外で室内で細剣を用いることはない。何らかの襲撃の場合、ダガーナイフなどの投擲では直線的な攻撃しかできず、扉を閉められればそれだけで容易に防がれてしまう。ナイフより重く、飛距離も少なくなる小剣や短剣を使うなら、小声が聞こえるほど相手に近付かないと仕留められない。確実に相手を仕留めたいなら、戸口に邪魔されるのがわかっている中剣以上の長さの剣を使うことになる。それを防ぐにはどうすればいいのか?」
オスカーはフレイを壁際へと追い詰めていく。フレイの手にしていたペーパーナイフが弾かれて床に突き刺さった。
絨毯に穴が開いた!
絶対、開いてる!
私の部屋のものを壊さないでよ・・・。
「答えは一つ。短剣で戦うことに慣れる。これが室内戦闘。我々ハルスタッドが得意とする戦い方だ」
室内戦闘が暗殺などから身をも守る為のものだってことやハルスタッド家でしか訓練していないことはわかったけど、手の中にあるペーパーナイフに目を落としす。
ペーパーナイフで室内戦闘の訓練をしているようだけど、私にもこれが必要な理由がわからない。
お気に入りの絨毯に穴が開けられたショックもあって胡乱な目になってしまう。
「ねえ、オスカー。これは私にも必要なことなの?」
兄は緑柱石のような目をカッとばかりに心持ち見開いて言った。心持ちなのは量も長さもある睫毛の重さのせいだ。
「アライアス・ロクスの息の根を止めるには必要だ! あいつがお前に近付かないはずがない! そうなった時の自衛手段がお前にはない! 気付いたらあんな奴とお前が結婚する羽目になっていたらと思うと、僕は耐えられない!」
兄の言う通りだ。
ゲームとは違って、ゲームの開始6年前の時点でロリコンに目を付けられているってことは、ロリコンがどんなことをしてくるか予想できないってことだ。
ロリコンがこの時点で求婚してきているから、絶対、近付いてくる。
排除方法がわからないどころじゃない。
偽シルヴィアに積極的にロリコン攻略してもらうまでの時間稼ぎと自衛手段は必要。
だからって、オスカーが言うように息の根を止めたらゲームを変えちゃうけど、生きていればいいよね? 顔に傷の一つや二つあっても、大丈夫なはず。
偽シルヴィアもきっとそれで許してくれるよね。
うちの一族がなんで室内戦闘の訓練なんかできるのかとか、オスカーがデレてシスコン化したと思ったらなんで私が室内戦闘の訓練しなくちゃいけないのかとか色々思うところはあるけど、まずはロリコン対策をとらないといけない。
こうして、私は屋内の接近戦用の技術を護身術として身に付けることになった。




