暗い森の戦い、その14~それぞれの願い②~
「貴様がオーランゼブルを倒す時、手助けをしてやろう」
「!?」
ドゥームが目を見開き、次に敵意を発した。その目が急に鋭くなる。
「どうして僕が盟主たるオーランゼブルを殺さないといけないのさ」
「奴は精神束縛でお前達を縛っているのだろう? それくらいは知っているさ。そうでもなければ、ティタニアやライフレスが奴に従うはずがなかろう。だがアノーマリーやお前は既にその束縛からは逃れたようだ。アノーマリーはその性格からいってもオーランゼブルのことは気にかけもしないだろうが、貴様は違う。貴様は執念深いからな。自分を虚仮にした相手を忘れるとは思えない」
「さて、それはどうかな? 僕はこう見えても懐が深いんだ」
「とぼけるのはよせ。貴様はオーランゼブルに対する対策は立てているだろうが、そのほかの連中が気がかりのはずだ。貴様にとって最悪なのは、オーランゼブルを殺そうとするその時に、ティタニア、ライフレス、ヒドゥンが出現することだ。いや、オーランゼブルのことだから、身に危険が及んだ時に束縛下にある連中を強制的に転移させて自分の盾にするくらいの対応策は考えてあるだろう。貴様の懸念事項もそうではないのか? だが、俺なら解決できる」
「ふーん。まあ、勝手に君が話してくれるなら聞いてあげてもいいよ。冗談やもしもの話は好きだからね」
どうやらドゥームはあくまでしらを切るらしい。だがその方が慎重かと思い、テトラスティンも勝手にしゃべることにした。
「では私も独り言をつぶやくとしよう。私ならライフレスに勝てないまでも引き分けに持ち込むことは可能だろうし、ティタニアはリシーが抑えるだろう。ヒドゥンはそちらのマンイーター次第では戦えるだろうし、アノーマリーならさらによいだろうな。そしてオシリアはオーランゼブルに対する切り札となる」
「面白い想像だね。盤上で戦わせてみたら楽しそうだ」
「私もそう思う。実際にどうなるか、ゆっくりと検討してみてくれ。そして、アノーマリーは奥にいるのか?」
「そうみたいだね」
ドゥームとテトラスティンがちらりと森の奥を見る。その奥が見えるわけではないし、もはや何の気配もしない。
「先ほどのカレヴァン。あれすら魔術の類だったな」
「やっぱりそうなんだね。偵察の段階からどうにも妙な動きをするものだから、おかしいとは思っていたんだよね。僕自身が出向くと突如として予告なく現れるのに、目や耳だけで潜入するとどこにもいなかった。森の奥に少女が一人座っているだけだったんだ。その少女からあまりにやばい気配がするから、今回の面子を揃えたんだけど。
あの木偶人形を起動させるのに力をだいぶ使うのかな? アノーマリー一人で事足りるなんてね。おかげで面倒な言い訳をティタニアやライフレスにしなくて済んだけど」
「さて、それほど小物だったかな」
そう、テトラスティンが感じていた森の奥の気配は、先ほどの木偶人形よりも大きくなかったか。魔力を感じないので、その存在も曖昧ではあったが。
アノーマリーにこの数か月ほど同行しているが、どうにも得体のしれない相手としか表現のしようがなかった。事実彼は片手で捻り潰せそうなほど脆弱にも感じるし、いざそうしようとすると底なし沼に手を突っ込むような感覚にも襲われる。そういった意味ではティタニアやライフレスよりも対峙しにくい相手ではあった。
ドゥームもどこかで同じようなことを考えているのか、森の奥を見つめる視線はどこかすっきりとしない印象を抱いた。
「・・・さて、あらかた片付いたみたいだし、そろそろ僕は森の奥に向かうよ。遺跡の探索をしなきゃあね」
「オーランゼブルへの対抗策を見つけるためにか?」
「やだなぁ、遺物捜索は僕の任務の一つだよ? これもまた、世界の真実の解放のタメに、ってやつさ」
「口だけはよく回る。ああ、そうだ。最後に一つ確認しておきたいのだが、敵の魔術を打ち消したあの魔術はなんだ? 何らかの魔具か何かか?」
「さーて、どうでしょう?」
ドゥームはこれもとぼけて見せた。カレヴァンとの戦いの最中、魔術を何度か解珠を用いて消滅させたのだが、しっかりとテトラスティンはその現場を押さえていたようだ。抜け目のない奴だとドゥームは内心苦々しく思ったが、確信に至るだけの何かはないらしい。ドゥームはいつものようにとぼけてやり過ごすつもりでいたが、内心では構えていた。
だがテトラスティンは苦笑だけを残し、あっさりとリシーと共に去った。ドゥームの真意はもはや確かめるまでもないと思ったのか。拍子抜けするドゥームを背に、テトラスティンは念話を用いてリシーに話しかけた。彼らのみの間で有効な、会話方法である。
「(これではっきりしたな。ドゥームの切り札に、魔術を消滅させるような何かがある)」
「(ええ。問題は、それが『魔法』を打ち消すほど強い何かかどうかということ)」
「(可能性は高い。奴が遺物回収の任務に就いているとしたら、その過程でそのような魔具を入手したとしてもおかしくない。だが確証はない。確実なのはドゥームとオーランゼブルを戦わせてその様子を確認し、確証が得られれば奪うことだな)」
「(最悪なのは、遺物が偽物であること。その次が本物だけど奪えない、もしくは永遠に失われること、かしら)」
「(もう最初から最悪なんだ。これ以上悪いことがあってたまるか)」
「(それもそうね。確実な作戦を練りましょう、私たちの悲願のために。そして全てを終わらせるために)」
「(ああ、やっと出口が見えてきたな)」
テトラスティンとリシーは、決してその表情に感情を出すことなく、努めて静かにその歩みを同じくして進めてゆく。その歩き方は長らく人生を共にし、まるで一つの生き物であるかのように同じ歩き方をしていた。
続く
次回投稿は、10/1(水)8:00です。




