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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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暗い森の戦い、その13~それぞれの願い①~

 ニックスには非常に強い功名心とか出世欲のようなものがある。魔術士の在り方とは縁遠く、かつそれでいて魔術協会の者が誰でも持っているような資質を彼は備えていた。テトラスティンはその資質を仕方ないものと諦めていたが、特に邪魔にならない限り意識してもいなかった。

 だが最近、妙にエレオノールに対して対抗意識が強すぎる。彼女が挙げる意見に対し、わざと対抗するような案を上げるのだ。最初は優れた意見も多くテトラスティンは納得していたのだが、途中からは徐々に対抗意識だけが先行した、お世辞にも褒められない案も多くなっていた。 

 テトラスティンはそれでもニックスを用いていたが、徐々にその行動を煙たがるようになっていた。いまだ彼の行為や成果がテトラスティンの不興をかうことはなかったが、その時が一度でも来れば進退窮まる可能性はあったのだ。

 ニックスはそのようなテトラスティンの心情を知ってか知らずか、今日も同じように目を輝かせて意見を述べる。自分の言うことがエレオノールよりも正しいと信じ切っているかのような目で。


「魔術協会の能力を、アルネリアは判断しきれていないと考えます。魔術協会が新体制になり、どこまでその能力を発揮できるのか不安なのでは」

「なるほど。フーミルネという人物を測りかねていると?」

「彼よりも、その部下であるイングヴィルでしょう。実働部隊を動かすのはイングヴィルですから」

「その考えも一理あるか」


 テトラスティンは少し考えて手を一つ叩いた。


「よかろう。フーミルネとイングヴィルの人となりをアルネリアに教えてやれ。それに彼らの能力、戦力もな」

「はい。代償として、何を魔術協会にもたらせば?」

「そうだな・・・深緑宮の見取り図の一部だ。ただし縮尺は多少ずらせ。そうしなければ、転移が成功してしまうからな。私が使っていた転移の魔法陣は潰して念入りに消してあるから万が一にも辿られはしないだろうが、さすがに魔術協会の本部と深緑宮の内部がつながっていると知られるのはまずかろうよ。

 あとはマリーゴールドにも連絡を取れ。今のうちに連絡できる体制にしておきたい」

「それは可能かと思いますが、私どももそれなりに任務を抱えています。これ以上の連絡役となると、さすがに人手が足りぬかと」

「それは大丈夫だ。お前たちを使うほど密に連絡をやり取りするわけではないから、式獣を使っての連絡程度でよかろう。その方法だけ伝えてくれればよい。マリーゴールドに届く前に、私の式獣や使い魔が撃退されてはかなわんからな」

「はい、ではそのように」


 そう言って二人が姿を消すと、テトラスティンはぎろりと森の中を睨んだ。予想外のニックスの良案と従順さに少し違和感を覚えたが、今はそれよりもやることがある。

 テトラスティンは森に向けて、怒声を発する。


「姿を表せ、ドゥーム! そこにいるのはわかっている」


 だが答えはない。テトラスティンは続けて言葉を出した。


「そこに『耳』だけは最低いるはずだ。おまえにとって益になる話だが、応じる気はないか? それともお前のこの能力を他の魔術士にばらしてやろうか? そうすればオーランゼブルはお前を切って捨てるだろうな。惰弱の輩と侮っていた貴様とはいえ、盗み聞きされるのは気分のよいものではなかろうよ」


 テトラスティンが森に向けて言い放ちしばらく待つと、森の中からドゥームがのそりと現れた。その表情は不信感と、そして敵意が満ちていた。


「・・・僕の能力、どこで気付いた?」

「私がアノーマリーの仲間になってすぐだ。お前は私を訝しんで、監視を付けていた。いや、仲間全員の動向をお前は探っているな? その能力に射程制限がないとは思えんが、いくらかの条件を満たすことでお前は黒の魔術士たち全員の動向を知ることに成功している。違うか?」

「全員ではないさ。ヒドゥンやドラグレオのことは知らない。あとブラディマリアは監視を付ける必要もなく情報が飛び込んでくるしね。だけどオーランゼブルにさえ気づかれていない能力なのに、これは心外だよ。どうしてわかったんだい?」

「戦いの最中に言っただろう? こういうことばかり器用になると。私は自分に敵意を抱く者に対しては非常に敏感だ。だからこそ、貴様は私の味方になると考えた」

「意外と侮れないねぇ、さすが魔術協会の元会長か。でも僕が味方に、ねぇ?」


 ドゥームは興味をひかれたとでもいわんばかりに、じろじろとテトラスティンを眺めた。テトラスティンも堂々と、その視線を受け付けていた。


「僕を味方にするって本気? 交換条件は?」

「その能力でオーランゼブルの魔術や魔法の情報が欲しい。奴は私が仲間になった後も、一度も姿を見せていない。これは予想外の出来事だ。魔術協会では既に得るものがないから貴様たちの仲間になったのに、これでは意味がない。アノーマリーの研究は興味深いが、それでもその全容を知るほどには信頼されていない。当然のことだが、これでは私の望みは叶わん」

「ふぅん。君の望みって?」

「それは知らんでもいいことだ」

「そうはいかないよ。オーランゼブルの魔術と言っても、その総量は非常に膨大だ。魔術に対して造詣の深くない僕じゃあ、どの焦点に的を絞って情報収集すればいいかさっぱりなんだ。丸ごと盗むんじゃ、それこそ百年経っても終わらないさ。相手は現存する魔術の開祖とまで言われている奴なんだぜ?」

「それでは、基本の属性以外の魔術――世には属性なしとして知られる魔術に関して情報を得てほしい」

「いいだろう、その要件は受けた。だが、僕に対しても何かしてほしいね。それ次第では頑張れると思うけど?」


 ドゥームが値踏みするような目でテトラスティンを見たが、その目はすぐに驚きに見開かれることとなる。



続く

次回投稿は、9/29(月)8:00です。

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