暗い森の戦い、その8~カレヴァン④~
「この面子で協力して戦うことになるとはな。世の中は何が起こるかわからないものだ」
「本当に。私も以前では誰かと協力して戦うことになるとは思いもしませんでした。ずっと一人で戦ってきましたから。ライフレス、あなたはどうなのです?」
「今日はよく喋るな、ティタニア。不安か?」
ライフレスの皮肉に、ティタニアは寂しげな笑みを浮かべた。
「不安――かもしれません。私がこうして他人と協力することができるのなら、もっと早くにその事実を知りたかった。そうすればあるいは――などと、余計なことを考えてしまいますから」
「戦いの最中に余計なことを考えれば、不覚を取るぞ」
「おっしゃる通り。ですが、あなたも同じような感情を抱いていると思いましたが、英雄王?」
「――鋭すぎる女は可愛げがないな、ティタニア」
ライフレスもまた寂しげな笑いで返し、その横に無言でドルトムントが佇んでいた。そうしてティタニアは無言のうちに、ライフレスの心情を悟ったのだ。
「可愛げですか。昔は可愛いと、兄にはよく言われましたが」
「さっさと俺の後宮にでも入っておけばよかったな。剣を持たせるには惜しい美貌だ」
「そんな人生も面白かったかもしれませんが、剣は生まれつき私にとって血肉の一部です。剣を手放す時、私という人格は死ぬでしょう」
「俺にとっての魔術と同じだな。皮肉なのは、生まれ以て備えた資質か」
「そういうことでしょうね」
「くだらん話に花を咲かせるのはその辺にしておけ。いくぞ」
会話を断ち切ったのはテトラスティン。ライフレスとティタニアの隣で、体を炎に包んだリシーがいつの間にか準備を終えていた。炎の鎧とでも言うべき業火に実を包んだリシーが前に出る。その髪色までもが真紅に変化していた。
「ほう。精霊憑依というやつか」
「その通りだ、相手が木なら有効だろう。樹液を蒸発させ、増殖する端から切り裂いてやれ、リシー」
「御意に」
リシーが先陣を切って突撃していった。後にドルトムント、ライフレスが続く。ティタニアも続こうとするが、その前に立ち止まってテトラスティンを振り返った。
「一つだけ聞きたいのですが」
「なんだ?」
「我々はそれぞれ人に言えぬ悲しみや妄執を抱えていると思います。もしあなたの抱える妄執が私の想像通りなら――私に手伝えることはありますか?」
「本当に鋭い女だな、お前は。あるいはあるかもしれんが、今はまだその時期ではない。私にもこうまで大陸の事情に関わった以上、見過ごせないものというのがある。全てを終わらせるなら、その後だと考えている」
「わかりました。その時が来たら声をかけてください。手伝えることがあるかもしれません」
「・・・あるといいがな」
テトラスティンもまた皮肉と寂しさ、それに諦観を同居させた笑みで返した。ティタニアはやや悲しそうにその表情を見つめ、そしてカレヴァンに突撃していった。
残されたのはエルリッチとテトラスティン。話すことのない二人だったが、エルリッチの方が先に沈黙を破った。
「貴様は行かぬのか」
「こちらのセリフだ。行かないと役立たずの髑髏だと言われるのではないか?」
「私の能力は前線向きではない。こちらで仕掛けをさせてもらうよ。だが貴様の能力は前線向きだろう?」
「それはそうだが、あのカレヴァンとやらの能力を見極める者がいる。ただ戦うだけでは永遠に終わらぬ削り合いになりかねないからな」
「なるほど。我々は同じようなことを考えているかもしれぬな」
「ふむ――では同時に打ち明けてみるか?」
そしてテトラスティンとエルリッチはなにやら話し合いをすると互いに頷き、しばし考え込んだ後、別行動を取った。そうして、カレヴァンと黒の魔術士たちの戦いは激化を極めていったのである。
***
「ここかぁ」
アノーマリーは一人、森の奥へと進んでいた。先ほど森の木につかまった後、あえてアノーマリーは脱出しなかった。そのままあえて敵どう出るか探ったのだが、敵はアノーマリーを捕獲するにとどまり、それ以上の攻撃を加えてこなかった。そこでアノーマリーは捕まった個体を見捨て、別の個体をラムフォート森林地帯に差し向けたのである。
実は、これこそがアノーマリーとドゥームの作戦であった。ドゥームにとって、カレヴァンの討伐はどちらでもよい。ドゥームの目的はカレヴァンが守るであろう遺跡の探索であり、遺跡の探索が出来さえすれば、カレヴァン討伐の成否など正直どうでもよかった。むしろ遺跡がないのであれば、カレヴァンを討伐する必要すらなくなってしまう。
そこでドゥームはこの森林地帯に来るにあたり、様々な策を考えていた。その中で最も考えなければならなかったのが、遺跡の有無を知ることである。ドゥームがアノーマリーに頼んだのは、作戦の最中に姿を隠し、一人先へと進んでほしいということだ。アノーマリーはこの提案を快く呑んだ。なぜなら、アノーマリー自身にも気になることがあったから。
それは、カレヴァンの生物としての特性。戦いの記録を集められるだけ集めたところ、その生物としての異様にアノーマリーは気が付いた。
「生物として質量や形態を無視した増殖、再生能力。そして無尽蔵の魔力と体力。戦いの記録によれば、かつてカレヴァンを討伐せんと戦い、成功したと考えられる集団や個人は皆無ではなかった。だが最終的にはカレヴァンは不死身であるとして、打倒適わず撤退している。その秘密がキミか」
「ここまで人が来るのは久しぶりだわ」
アノーマリーはドゥームの想像通り、遺跡の入り口まで到達した。目の前には数千年は生きたと思われる大樹がそびえたつ。これほどの大樹が空からでは確認できなかったことを考えると、幻術か何かで隠されていたのだろう。その大樹には、これまた見たこともないほど荘厳で、そして現存するどの文化とも相容れない装飾と文字が施された門が備え付けられていた。
その門の前に、薄緑のワンピースを身に着けた少女が一人座っていた。一目でその少女が尋常ではないことを悟ったアノーマリーは、既に戦闘態勢に入っていた。
続く
次回投稿は、9/19(金)9:00です。




