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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
1876/2685

戦争と平和、その413~統一武術大会ベスト16、ロッハvsセイト③~

 そのセイトが会場に向かう前に、ぴたりと足を止めてヤオの方に振り返って叫んだ。


「ヤオ!」

「なんだ?」

「感謝する。いずれ俺は世界を巡って旅をしてみるつもりだ。ベルゲイのような、まだ見ぬ強者と手を合わせてみたい。俺は獣将でも王でもない、ただ強さを求めているのかもしれない」

「ああ、いいなそれは。私もぜひとも付き合いたいものだ」

「行くときは声をかける。どうするかはその時決めてくれ」

「応」


 滅多に見せないヤオの笑顔に、セイトはしばし見入っていた。そして振り返ったセイトが壇上に向かうと、そこにはロッハが待ち構えている。腕を組み、凶暴に牙を剥いて待ち構える様は、普段の理知的なロッハと違って、セイトたちが見たことのない獣人の本能剥きだしの戦士そのものだ。

 だがそれを見ても、セイトの内には恐怖心は湧かなかった。部下に対する細かい気づかいをするロッハの本性を十分知っているゆえか、あるいは自分の実力に対する自信がついたおかげか。セイトは力強く拳を握りしめながら段上に登った。

 審判はブランディオ。二人に形式上の注意をしているが、戦いもここまで進むと互いにその注意も聞くことはない。原則ルールに変更がないことは事前に伝えられているし、形式上のようなものであり、盛り上げるための演出にしかすぎない。事実、人間よりも頭一つ以上大きい獣人が胸を突き合わせてにらみ合う様は、それだけで迫力満点なのだ。


「お祈りは済んだか、小僧?」

「生憎と、人間と違って祈るような習慣もないもので」

「獣人でも戦いの前には祖先の英霊と、大地に祈るだろうが?」

「残念ながら、祈るような相手を知りません。一族など母以外に会ったことはないし、大地を尊敬したら遠慮なく踏みしめることができなくなりそうだ」

「言うな! それは面白い発想だ」


 ロッハが頷くが、凶暴な表情は崩さないままだ。


「俺も天覧試合ともなった以上、ドライアン王の手前かなりの本気を出すが――死んでも恨むなよ?」

「今更。戦いでどんな卑怯な罠であろうと、それもまた戦い。命を賭けた戦いで相手を恨むことなど、筋違いも甚だしい」

「潔さだけは一人前だな。一応聞いておくが、氏族と母の名前を聞いておきたい。万一のことがあれば、報告せねばならんからな」

「その程度、調べればわかるでしょう」

「お前の経歴が出鱈目じゃなかったらよかったんだがな」

「!?」


 その言葉に、セイトの表情が厳しくなる。


「・・・もう調べたということですか」

「当然だ、人間の社会に送り出す者に関しては詳しく事前調査している。獣人の社会に戸籍なんてものは本来なかったが、これもドライアン王の発案でな。グルーザルド軍に入隊したものは厳密な戸籍と身辺調査をされているのさ。まさかとは思うが、人間の息のかかった間諜がいないとも限らぬからな」

「それで、私が『黒』だと?」

「黒か白かは知らん。だが貴様の母の姓名は出鱈目だったし、そもそも氏族が明らかでないのはおかしな話だ。戸籍の管理をしていた連中の手抜きとも考えられるが、そのあたりも調査中でな。元々目をつけていたのだが、そんな身辺があやふやな者の中から人間社会へ派遣が決まるのが一番おかしい。

 特別貴様に実績があるわけでもなし、何らかの力が働いたとしか思えん。となると、結論はおのずと絞られてくる」

「・・・で、何が言いたいのです?」

「私の想像通りなら、貴様の存在は我々のアキレス腱になりうるだろう。この試合が終わったら、貴様の出自について詳細な説明をもらおうか?」

「・・・いいでしょう。元々隠すことでもありませんし、獣将から問い詰められれば軍人として答えぬわけにもいきません」

「・・・あ~、そろそろよろしいでっか?」


 痺れを切らしたブランディオが二人に促した。どうやら説明はとうに終わっているらしく、試合を始めたがっているようだ。

 二人ははっと我に返ると、それぞれ距離をとるために一度背を向けて離れ始めた。ここが競技場であることを、今二人とも思い出したようだ。開始線よりもかなり距離を取っていないと、互いの特徴である速度を活かせないと二人とも考えたのである。

 だがここで、ブランディオがロッハに並んで歩き始めた。その行為を妙だと思うロッハ。


「・・・? 審判殿、まだ何か?」

「いやぁな、ワイからあんさんに個人的に聞きたいと思うてな」

「何をだ?」

「獣将、二人ほど欠員でたらしいやん? その補充、どないしたんかと思うてな」


 その言葉にロッハの毛並みが一気に逆立った。獣将でありながら、南方戦線で不審死を遂げたアキーラとニジェール。その手がかりが何かないかと探していたが、まさかこんなところにとっかかりを見つけるとは。あるいはアルネリアなら知っているかもとは思っていたが、基本的に獣将の死は部外秘だ。少なくとも、ブランディオはそれを知りうるだけの立場にいるということになる。

 ロッハがブランディオの肩を掴もうとした瞬間、ブランディオが開始の宣告をした。



続く

次回投稿は、10/3(木)22:00です。

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